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【新説】虹色の鱗【モンスターハンター】
28.New
339:◆d2hCxOK7H.
01月23日19時02分29秒 Jy48NgtcO

冬の訪れがいつもより早く、乾いた風が頬を撫で、そして脇へ通り過ぎていく。
秋の終わりを感じる間も無く、新たな季節の到来を実感させる。


('A`)「一気に冷えてきたな…ついに冬が来ちまうのかね?」


凍える体を震わせながら、彼はいつもの見張り台で佇んでいた。
どんよりと湿った空を見上げる度にあの日の後悔を思い出し、ぐっと下唇を噛みその痛みに耐えるほか無かった。

ドクオと弟者の戦ったあの日、バリスタの面々に与えられたのは賞賛でも栄光でも無く、弾劾だった。
街を巻き込み全てを壊し、人々の心に深い悲しみを与えたあの事件は、全ての原因をバリスタが負い責任を取る形で決着がついた。
その背後には「竜撃隊」、そして裏切り者である「荒巻スカルチノフ」の存在があった。
彼らは巧みに住人の心を巧みに操り、あたかも今回の騒ぎはバリスタが引き起こしたように仕立て上げたのだ。
ドクオやジョルジュもそれに対抗したが先手を取った荒巻に軍配が上がり、彼らは街を出る以外に道は無かったのだ。


('A`)「…あれは失敗だったな…、結局は何も変わらない。むしろ状況を悪化させただけだった……軽率だった」

川 ゚ -゚)「しかし、あの時はあれしか方法がなかった。弟者や皆を守るためには、仕方なかったんだ」

('A`)「そう思えればどれだけ楽だったか…今でも目に浮かぶよ、あの民衆から向けられる憎悪の眼差しが……」


空を見上げ、寒々と広がる海に飛び込む鳥を数える。
来年あの渡り鳥が再び戻ってきた時には、一体何羽生き残っているのだろうか?
そんな事を考えながら、また鳥を数える。
ドクオは今、深い絶望の淵にいるのだ。


340:◆d2hCxOK7H.
01月23日19時03分47秒 Jy48NgtcO

川 ゚ -゚)「…で、どうするつもりなんだ?どうしてもやるのか?」

('A`)「ああ…こうなったら手段は選んでられないからな、…今夜から出発する」

川 ゚ -゚)「そうか…」


帰り道にそんな会話を交わす二人の間には、言葉は必要なかった。
事務的なやり取りの合間に発せられる無言のメッセージを互いに受け取り、彼らは一度来た道を引き返す。

街を追われたバリスタの面々は山の中腹に小さな館を造り、そこに住居を構えていた。
そこにはあの栄光の日々を思い出させる物など何も無く、ちらつく雪だけが彼らの存在を知っているようだった。

あの日、瀕死の重傷を負った弟者は介抱の甲斐あってか今では回復の兆しを見せ始めていた。
が、弟者に注射された「狂走エキス」の効き目は絶大で、数ヵ月経った今でもフラッシュバックを引き起こしては再び昏睡状態に陥るという闘病生活を続けている。

他に合流したジョルジュ・ブーン・ツン・兄者は未だに健在ではあるが、各々にバリスタ復興の為に動き回っており、最近ではあまり顔を合わせる事も無くなっていた。
弟者の看病には元医学生でもあったハンター「ショボン」が就いているので、彼に任せておけばいいと判断したのである。


(´・ω・`)「僕も一応ハンターなんだよね…だからたまには外に出かけてもいいじゃないか」


そう愚痴っていた。
街に戻る事も許されない彼らにとっては、彼の存在はとても有難いに違いなかった。
弾劾されてもなお協力的なハンターは多数居たが、体裁上バリスタに全面的な協力は難しい状況下において、人材の派遣はまさに天の恵みであった。

そんな状況を経てもなお、バリスタの面々は当初の目的の為に、すでに動き始めていた。
困難の極みとも言われている「飛竜との共存」
その実現と島の人々の安息の為に。


341:◆d2hCxOK7H.
01月23日19時07分58秒 Jy48NgtcO

一本の道ならば、どれだけ楽だったであろうか。
一枚の岩ならば、どれだけ安らげただろうか。
一本の枝ならば寄り添い羽を休め、一本の花ならば分け合いその蜜をすする事も出来た。


だが彼らはそれすらも否定し、蹂躙し、蔑み、踏みにじっていく。
ドクオはそれが許せないでいた。
自らの欲望を止める事の出来ない人間に絶望し、自らもその一員である事を憎んだ。
だがその考えすらも欲深い人間の傲慢であり、故に全てを救いたいと思ってしまうのだ。

彼のその思いは人間のみに限らず、飛竜にまで及んでいる。


('A`)「竜撃隊は更に力をつけている…このまま傍観者を気取っていたら手遅れになる。その前に決着をつけなければならないんだ」

川 ゚ -゚)「そうだな。ブーンやジョルジュも、きっとうまくやってくれているだろう…私達も負けてはいられない。」

('A`)「…本当は関わりたくない、本当は適当に過ごしたい…家でくつろぎ、腹が減れば飯を食い、食べ物が無くなれば狩りに行き、眠たくなれば愛する者と共に眠りたい…でも、それを奪おうとするなら…」


ドクオの目に力がこもる。
今の自分には何も無い。権力、金、名声、数多ある栄光は過去に捨ててきた。
今のドクオが持っているのは安いプライドと、今まで生き残ってきた運と、日々の鍛錬により培われた肉体だけである。それだけは自信がある。
それらすらも凌駕する強靭な精神も持ち合わせている。
あとはただ、行動するだけだった。

やがて道は細くなり、ある分岐へと差し掛かる。
片方は凍てつく洞窟へと続く道、もう片方は雪原に高くそびえ立つ山に向かい延びている。
そこで二人は一度足取りを止め、互いに向き合った。


('A`)「…いくな…って言っても無駄なんだろ?」

川 ゚ -゚)「ふ、分かっているじゃないか……気をつけて…私と過ごしてくれるんだろう?これからの『適当に過ごす日々』をさ…」

('A`)「…把握した」


そう一言呟くと、ドクオはクーを抱き寄せ、そっと唇を重ねる。
その感触は柔らかく、そして甘い。
二人は互いを確かめ合うように何度も、何度も口づけを交わした。
その瞬間だけ、全てを忘れる事が出来た。

そして二人は体を引き離し、互いの道へと歩き出した。
振り返りはしない、振り返るという事は相手を信頼していないという事。
必ず生きて帰ると信じている二人は、決して振り返りはしないのだった。

そして、彼らの最後の戦いが始まろうとしている事に、彼らはまだ気づけないでいた。


344:◆d2hCxOK7H.
01月25日01時09分37秒 LCUCaV2ZO

シルバーソル
リオレウスの亜種で、銀色の甲殻を持つ飛竜である。
並みの武器では傷をつける事すら出来ず、その巨体は他の生態系にとっても脅威であった。
更にその力は他者の追随を許さず、恐らくこの島では敵う者はいないだろう。
そんな彼に敬意と畏怖を込め、人々は銀色の太陽「シルバーソル」と呼ぶのだ。

妖しく輝く瞳で周囲を見回し、その場に異常がないか調べるその姿は圧巻で、見る者に恐怖を与えるには十分だった。
ドクオはその様子をじっと見つめ、込み上げてくる震えを隠そうと必死だった。
それでもドクオは勇気を振り絞り、リオレウスと対峙する事を選んだ。
その為に来たのだから。


('A`)「空の王者、リオレウスを統べる王、シルバーソル……契約しに来た…手合わせ願おう」


凛とした表情でドクオは目の前の巨体に躊躇わずに話しかける。
長い首を曲げ、その雄大な体を大きく揺すり、シルバーソルはようやく声の主に辿り着く。


「…契約を…?…ならば証を立てよ…話はそれからだ…」


目を瞑り呟くその言葉には威圧するには十分な迫力があり、それだけで対峙している者に恐怖と畏敬の念を抱かせる。
しかし今目の前にいるドクオという青年はそれに対して一歩も退かず、ある物を懐から取り出し王者に捧げる。
それは紛れもない証、選ばれし者のみが手にする事を許された至高の存在、「虹色の鱗」であった。


('A`)「これが証だ…なんなら手に取って確認するか?」


ドクオは知っている。
この虹色の鱗こそが飛竜と契約を結ぶ為の証であり、彼らの祖先である始祖竜の残留思念であるという事を。

345:◆d2hCxOK7H.
01月26日00時15分46秒 LhSpDMyYO

「…心弱きニンゲンよ…確かに証は受け取った……だが、覚悟は出来ているのだろうな?貴様が負けた場合、貴様の血肉は我が戴く…」

('A`)「覚悟の上だ…だから俺は今、ここに立っているんだ……迷いはない」


ドクオは嘘をついた。
迷いがないわけではない。彼も一人の人間であり、ハンターであり、帰る場所のある者なのだから。
事実、彼の脳裏には同じような目的で行動を共にしていたクーの事や、残してきた仲間の事ばかり考えていた。
だが彼はその感情を押し殺し、全てを捨ててまでもシルバーソルに挑んでいく。
蛮勇などではなく、それはれっきとした「覚悟」の現れだった。


「…よかろう…心弱きニンゲンよ、最善を尽くせ……汝の血を以て、我を平伏させてみよ」

('A`)「…気に入らないな…何故俺を見下す?証を立てた今、俺達は同格なはずではないのか?」


そう尋ねた瞬間、シルバーソルの目付きが豹変する。
先ほどの余裕ある表情から一変して、その顔つきは険しく、怒りに満ち溢れていた。


「…自惚れるなニンゲンよ……己が欲望の為に全てを食い尽くし、禁忌を破り搾取していく存在である貴様らが…我と同格だと?笑わせるな!…下等生物の分際で何をほざくか!!」

('A`)「ならば聞こう、何故私は証に選ばれた?…それは古竜の意志…始祖竜の意志である!!その子である存在の貴様は、それを否定するというのか!?」

「…もはや言葉はいるまい……後悔しろ、我を侮辱した事を!!」

346:◆d2hCxOK7H.
01月27日04時30分03秒 i+lojjmGO

オデッセイブレイド

かつてハンター界の至宝と呼ばれたオデッセイを、兄者が力の全てを注ぎ鍛え上げた、恐らくは世界に数本と無い名剣。
希少な素材をふんだんに使用し、切れ味・強度・重量軽減に重点を置き、一ヶ月という長い期間を以て完成した、対リオレウス用の秘密兵器である。
その刃は鋼すらも、いとも簡単に両断しうる程の力を備えている。


( ´_ゝ`)「…この剣はこれが限界だ…これ以上の強化は剣自身の崩壊に繋がる……それだけは、避けなければならない…来る日の為にな?」

('A`)「十分だよ…よくここまで完成度を上げてくれた、感謝の言葉も見当たらねぇ…」

( ´_ゝ`)「いいさ、礼は…全てが終わってからだ……お前が終わらせてくれ…俺と、弟者の思いを継いで」


すすに汚れた顔で、兄者はそう微笑んだ。
この剣には兄者と弟者の思い、この島に住む全ての人間の人生がかかっている。

ドクオが負ければ竜撃隊は更に飛竜を乱獲し、それに怒り狂った全てのモンスターが村や街を襲撃、人間を根絶やしにしようと翼を広げ大陸にまで押し寄せるだろう。
それだけは、なんとしても止めなければならない。
それがドクオに課せられた、バリスタに課せられた使命なのだから。


('A`)「その先鋒が俺ってわけだ……俺は、勝たなければならないんだよ」



刃をゆっくりと引き抜き、斜に構える。腰を低く落とし、シルバーソルの出方を伺う。
慎重に相手の動きを読み、スキを突き鋭い思いを叩きつける。
それが彼のスタンス、何者にも変える事の出来ない彼の意志そのものを具現化したものなのだから。




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