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【新説】虹色の鱗【モンスターハンター】
2.
11:◆d2hCxOK7H.
10月06日01時02分49秒 vcnPsKDQO

その夜、ドクオは不思議な夢を見た。

広い草原の真ん中で剣を片手に持っていた。
体は血糊でベッタリと汚れていた。獣の匂いがする。

ふと風の音に耳を傾けてみた。

すると頭に響くような声が、どこからともなく聞こえてきた。


「何故お前はハンターになろうとするのだ…」



( 'A`)「…沢山の島の人が飛竜の被害に遭っている…それを見過ごすわけにはいかないだろ…?」



ドクオは条件反射で応えた。
ドクオは元来、優しい心の持ち主であった。先程の言葉も本心から出たものであろう。

だが、それに呼応するように頭の中で声が聞こえてくる。

聞いた事があるような…妙に懐かしくなるような声だった。



「この自然にもルールというものがある。人は人の住む場所…竜は竜の住む場所……それぞれに『居場所』があったはずだ…。それを破ったのは他でも無い、人間達ではないかッ!!」



( 'A`)「俺達が奪った…飛竜の居場所をか…!?」



「そうでなければ我々とて牙を剥くことは無かった!!なのに人間は己が欲望を満たすために殺戮を繰り返し…森を奪い…我等の同胞を根絶やしにしようとしたッ!!」



( 'A`)「……ッ!?」



「これを…これを罪と言わずして、なんになるかッ!!」



夢はそこで終わっていた。
気が付くとギルドのベッドの上、汗だくになっている自分がいる事に気が付いた。
手には昨晩ジョルジュから受け取った武器『ハンターカリンガ』が握られていた。



( 'A`)「…必死なんだよ、人間だってさ…」



言い訳の様に呟いた。
が、もう声は聞こえてこなかった。

ただ鮮明に覚えている事があった。


夢の終わりに見た、巨大な虹色の飛竜の姿を…


12:◆d2hCxOK7H.
10月06日01時47分46秒 KCIusI/vO

次の日からドクオの特訓は始まった。

まだリオレウス戦の傷は癒えてはいなかったが、期限の一ヶ月の間にイャンクックを狩る為にはこうでもしないとどうにもならない事はドクオ自身が良く分かっていた。


ドクオはまず平坦な土地にある『トノスの丘』にやってきた。
この丘には『アプトノス』や『モス』、『ケルビ』などの草食モンスターが多数出現する。
それほど強いモンスターがいないので、ハンターとしては半人前のドクオにとっては絶好の訓練所となった。


( 'A`)「あいつは小型だな…親と離れている今がチャンスだな…!!」



ドクオは物陰に隠れながら、ゆっくりと近付き剣を抜いた。
今ドクオが標的としている『アプトノス』は臆病な性格をしており、身の危険が迫ると逃げてしまう。
ギルドにある『モンスター大全』を一通り目にしたドクオは、それを覚えていたのだ。


小型のアプトノスが群れから離れ、足元に生えている草を食べ始めた。
ドクオは好機だと判断し、物陰から飛び出してそのアプトノスを目指した。

かなりの距離はあったが、幸いにも軽装だったドクオは容易に近付く事が出来た。

背後に忍び寄り、足元をハンターカリンガで一閃した。


低いうめき声をあげてよろめくアプトノスを尻目に、ドクオは更に攻撃を加えた。

足を集中的に狙われたアプトノスはバランスを崩し、草の絨毯の上へと倒れこんだ。



(;'A`)「クソッ…巧く斬れない……これでどうだぁッ!!!」



その後、数回に及んで繰り返された斬撃の宴は苦しそうなアプトノスの断末魔で幕を閉じた。

その間に他のアプトノスは逃げ出し、広い草原にはドクオと既に息絶えた小型のアプトノスしか残っていなかった。

それがドクオの初めての『狩り』だった。


15:◆d2hCxOK7H.
10月06日21時58分11秒 KCIusI/vO

( 'A`)「…熱ッ…」



ドクオは湖の側にテントを張り、焚き火をおこしていた。
ハンターが使う「ベースキャンプ」もあるにはあった。しかしそれは名のあるハンターしか使えず、ハンター駆け出しの者達はドクオのようにテントを張り、夜露をしのいでいた。

ドクオは湖の中に沈めていた革袋を引っ張りだした。
中には今日の狩りでの収穫であるアプトノスの肉が入っていた。
まだ夜は寒いこの地区では、このように湖を天然の冷蔵庫としても利用出来た。



( 'A`)「…テーンテテーンテテテーンテテーン、チャラランチャラ…」



ドクオは昔、両親と山でキャンプした時の事を思い出していた。
よく父親が口ずさんでいた歌…軽快で明るく、リズム感溢れるその音楽は、ドクオの疲れた心を癒してくれた。



( 'A`)「…上手に焼けましたー…」



先程のアプトノスの肉が、こんがり焼き色のついたメインディッシュに早変わりした。
しかしドクオの食欲は、それに反比例するかのように減っていく一方だった。

頭の中をよぎるのは、逃げながら我が子を見つめる…親であろう大型のアプトノスの姿だった。



( 'A`)「…仕方なかったんだ……俺も食わなきゃ死んじまうんだ…仕方が……なかったんだッ!!」



自分に言い聞かせ、ドクオは焼けた肉にかぶりついた。だが味など分からなかった。
涙と鼻水と、喉の奥からこみあげてくる吐き気がドクオを襲う。

何とか飲み込み顔をあげ、湖に浮かぶ満月を見た。


こんなにも悲しい色をした月を見たのは生まれて初めてだった。


17:◆d2hCxOK7H.
10月07日07時35分24秒 K+fR0G6BO

ドクオがテントを張っている反対の湖畔で、事件は起こっていた。

ドクオがそれに気付いたのは次の日の朝、顔を洗いに岸辺に近付いた時だった。

対岸に赤いテントが立っている。
昨夜までは違うテントが張ってあった場所だった。



( 'A`)「…どうせよくあるテリトリー争いか何かだろ…」



しかし事態は予想を遥かに上回るほど凄惨なものだった。

不審に思ったドクオはある程度の用意を済ませ、テントを出た。
そして赤いテントに近付く。

他のハンターがどうやって日々を過ごしているのかが気になったのだ。

赤いテントまであと数歩の距離まで近付いた時、ドクオに吐き気が襲いかかった。

目の前にあるもの、それは紛れもなく人間の右腕だった。

ドクオは怯んだが、なおも構わずに赤いテントへ近付いていく。

赤いテントは妙な潤いを保ち、客人を迎え入れた。


人が倒れている。
いや、すでに『人』とは判別できない程に原形を留めていない、数名のハンターの姿がそこにあった。
体には鋭い刃物による傷が数多く残っており、その内のいくつかは致命傷で、もはや彼等は息絶えていた。
赤いテントは徐々にその姿を変え、下の生地が微かにその色を表していく。
テントを赤く染めていたもの、それはここに存在したハンター達の命の痕跡、大量の血液であった。



(;'A`)「うッ……!!」



ハンター同士の争いならここまで悲惨な事態にはならなかっただろう。

これはリオレウス、イャンクックの他に、それらよりも残忍なモンスターがいるという現実をドクオに見せ付ける為のものだったのかも知れない。


18:◆d2hCxOK7H.
10月07日08時10分19秒 y5wNb1MoO

身の危険を感じたドクオは湖の畔を後にしようとした。このままあそこにとどまれば、次は自分が先程のハンターのようになってしまう、それを回避する為であった。

まだ朝靄が残る森を抜けるため、急いでテントを畳む。

その時、テントの周りをうごめく影が徐々にドクオに向かって、その範囲を縮めていくのを背中に感じた。微かに聴こえる草の揺れる音が、ドクオに事態が急変した事を告げる。



(;'A`)「この音は…囲まれてる……!?」



ドクオはハンターカリンガを構え、テントの裏で身を潜めた。
森から出てきたのは、目の醒めるような鮮やかな色をした小型のモンスターであった。
その体長は成人男性のそれと変わらず、青い皮膚に黒の模様が映え、見るものを戦慄させた。前足には鋭い爪が輝いており、その筋肉質な体は、まるで陸上選手を思わせる体型に見えた。


(;'A`)「こいつ…『ランポス』かッ…!!」



辛うじてその名は知っていた。

獰猛で狡猾、常に数匹で行動し、獲物を狩る時は集団で目標に襲いかかる。その素早い動きは人間には脅威以外の何物でもなかった。肉食であるランポスは、今回のようにハンターの宿舎を襲ったり、時には村を襲い壊滅状態においやる事で有名だった。
ドクオの居る位置は彼等のテリトリーの中にあり、相当数のランポスがすでに辺りを埋め尽している。



(;'A`)「迂濶だった……今からじゃ街にも戻れない…どうする…!?」



ドクオは目だけを動かし、辺りの状況を伺う。

群れの中の一匹が空に向かって甲高く鳴いた。
それを合図に周りにいた残りのランポス達が、一斉にドクオに襲いかかってきた。


その数、およそ10匹…素人なら間違いなく助からない、絶望的な状況だった。


20:◆d2hCxOK7H.
10月07日18時51分33秒 3ApRsBetO

群れの中の一匹がずいっとドクオの前に飛び出した。
目の前を右へ跳び、左へ跳び、鳴き声をあげるその姿は、ドクオを馬鹿にしているようだった。
なぶり殺しにするつもりだろう。



(;'A`)「このッ…なめるなよ!!」



ドクオは軸足に自分の体重を目一杯かけ、ランポスが反応する前に斬りかかった。

辺りの草が赤色に染まる。
甲高い鳴き声をだしながら、首筋から血しぶきをあげるランポスにドクオは追い討ちをかけた。
一撃、二撃、三撃…次々と剣を繰り出し、ランポスの反撃を許さない。
四撃目を繰り出そうとした時、やっとドクオは目の前のランポスが既に事切れていると悟った。

急にランポス達の動きに慎重さが出てきた。
どんなに軽率な行動であったにせよ、仲間が目の前で惨殺された事が彼等に冷静さを取り戻させた。



(;'A`)「こりゃ…やばいな……マンドクセ…」



ランポス達の連携を警戒しながら目を配らせるドクオに、彼等は遂に本領を発揮しはじめた。

一匹のランポスがドクオに噛みつきにいった。ドクオは間一髪で避けたが、身動きのとれない空中を狙って、他のランポスが次々と攻撃に参加していく。飛び蹴りや噛みつき、鋭い爪での連続攻撃に対して反応が遅れたドクオは一気に窮地へと立たされた。



(;'A`)「くあッ…く、クソッ…!!」



ドクオのとった行動

それは逃走だった。
一対多数では分が悪いと判断したドクオは、とっさに湖へ飛び込み対岸を目指した。
ランポスは泳げない。
そう思ったドクオの行動は実に素早かった。
だがその策は最良だったとは言い難い。

鉄製の剣と盾を持ち、更にランポスに与えられたダメージのせいで体が思うように動かなかった。

しかしドクオは対岸を目指す。
今はそれしか生き残る術は無いのだから。


21:◆d2hCxOK7H.
10月07日19時11分57秒 sWZd17pBO

ドクオの判断は間違っていなかった。

ランポスは湖の中へは入ろうとせず、湖の畔で顔をキョロキョロと左右に振っている。そして一目散に対岸へ回り込もうと走り始めた。
数匹がドクオの進路を確認しながら動いているその姿は、さながら忍のような素早さと殺し屋のような執拗さがあった。

何とか対岸へとたどり着く事の出来たドクオは、すぐそばにあった洞穴へと身を潜めた。
リスクがあったにも関わらず泳いだ事が幸いしたのか、ランポスはドクオをなかなか見つけ出す事が出来ないでいた。
泳いだ事により体についていた匂いが消え、それがランポス達の嗅覚を狂わせた。



(;'A`)「痛た…クソッ、早く止血をしないと…」



腕から大量の出血。
ランポスの鋭い爪がドクオの腕に食い込み、かなりの深さで傷を残している。



(;'A`)「よっ…と…これで良し……!!誰だッ!?」



生き物の気配を感じたドクオは即座に身構えた。
短時間でも自然の中で神経を尖らせていたドクオは、そんなちいさな空気の違いで物事を判断できるまでに成長していた。

止血を終え、そっと気配のする方へ足を向けてみると、足元に巨大なサボテンが落ちていた。
この地域にはあるはずも無い物を目にし、ドクオは更に洞穴の奥に向かって叫んだ。



(;'A`)「出てこい!!隠れていないで出てこいッ!!出てこないなら……」



ぴゅんと剣と振るいながら叫んだ。
すると奥から怯えきった人間の声が聞こえてきた。
か細く、今にも消えてしまいそうな声で主は呟いていた。



「ごめんなさいですお…ごめんなさいですお……怖いお〜…おっおっお……」



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