名もない話7 「宍戸さん!好きです!」 今日も長太郎(別名:忠犬チョタ公)は朝からそんな具合。 最近は人目も気にせずそんなことを言い出すから少し厄介だ。まぁ、周りの奴らも今日もか…ってぐらいで見てんだろうけど。 「はいはい、ありがとな」 俺はいつもこんな感じ。こう、サラッと受け流す感じ。別に付き合ってる訳でもねぇし、っていうか付き合ってくれなんて言われてねぇし、そもそも外国育ちのコイツにとったらそういうの日常だろうし。って、俺は何言ってんだ。 「今日もかわいいです!…痛っ!」 まぁ、そこは殴るよな男として。在るはずのない尻尾をブンブンと振ったまま、長太郎は頭を押さえる。 「男にかわいいとか言うな、アホ」 かわいいって言われて喜ぶ男なんか男じゃねぇって言ってんのに、なんでかコイツは『好き』の後には必ず『かわいい』を言いたがる。アホだな、アホ。 「だって〜かわ…何でもないです」 グッと睨んだら慌てて口をつぐんだ。そういうところはちょっとかわいいと思う。あ、これじゃ俺もアイツと同じじゃねぇか。 「なになに〜?今日も鳳は宍戸に告白したの〜?」 下駄箱に着くと岳人が背中に乗っかってきた。その後ろから忍足が下駄箱に手を伸ばす。 「本間かいな。鳳もようやるわ」 呆れ混じりに笑うと、背中に乗ったままの岳人をペリッと剥がす。 「だよな。あいつ何考えてんのかいまいちわかんねぇ」 右側だけ踵が潰れた上履きに足を通すと、そんな俺の発言を聞いていたのか、少し拗ねたような声が降ってきた。 「何考えてるかって、いつも宍戸さん好きって言ってるのに…」 「鳳君、再登場〜!」 上履きに履き変えてわざわざ三年の下駄箱まできたのか。やっぱ何考えてるかわかんねぇ。 岳人のからかいを受け、長太郎は更に頬を膨らませた。 「だから、それがわかんねぇって言ってんだっての」 「そのまんまの意味ですよぉ!」 同じクラスの奴がそんなやり取りを見て『ご苦労さん』と肩を叩いて通り過ぎる。それくらいコイツは三年でも有名。 「あー分かった分かった。俺もお前の事好きだよ」 「本当ですか!?」 「あぁ、後輩としてな」 そう付け加えるとあからさまに落ち込む。さっきまで思わず手で抑えたくなる程振られていた幻覚の尻尾が、シュンとうなだれた。 「残酷やなぁ、宍戸も」 笑いながら忍足が言う。人事だと思いやがって。まぁ、忍足からすれば間違いなく人事なんだけど。 「まぁ、鳳もたまには押してばっかやなくて、引いてみるのもありやと思うで?」 だからって、こんなアドバイスまでする事なくねぇか?なぜか微妙に応援ムードなのにイラッとする。 「何なら、宍戸似の黒髪美人紹介したろか?」 なぜか忍足の台詞で終わっていることにイラッとする。 |