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「…ごめん、俺、今はテニスだけだから」


長太郎は陰でクスリと笑った。
ばかだなぁ皆…そう思って、また笑う。
そして宍戸さんもばかだ。
困った様に笑って目の前の男にそう言う宍戸を睨む。

そんな優しい断りかたじゃ、目の前の愚かな男は諦めがつかないじゃないか。

「だよな…俺、宍戸がテニスしてるとこ好きだから、だから頑張ってな」


ほらね、男の目を見て。
絶望的な目じゃないでしょう?まだあなたに惚れてる、そんな目だ。

「ありがとな」

男が去ろうとした時に、宍戸は笑顔を見せた。


ばかだ。ばかだあなたは。
そんな笑顔をそんな奴に見せて。

愚かな男は自分が振られたことも忘れて、嬉しそうに手を振った。そしてその足音は次第に近付いて来て…その男は長太郎の横をすっきりした顔で通り過ぎる。




「可哀相な人だ…」

口角を片方だけあげて、長太郎は聞こえないように呟いて笑った。

宍戸さんは俺のモノなのに。
否、俺のモノになるのに。

そうなるまで、そんなに時間はかからない。
もうすぐ、もうすぐだ。

あと一押しして、引くだけ。



長太郎はまだその場で何か考え込んでいる宍戸を見て、哀れむように笑った。




可哀相な人だ…
もうあなたは檻の前。
あとは自分でその鍵を回すだけ。



早く、入っておいで。
ずっと可愛がってあげるから…


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