-1 「…ごめん、俺、今はテニスだけだから」 長太郎は陰でクスリと笑った。 ばかだなぁ皆…そう思って、また笑う。 そして宍戸さんもばかだ。 困った様に笑って目の前の男にそう言う宍戸を睨む。 そんな優しい断りかたじゃ、目の前の愚かな男は諦めがつかないじゃないか。 「だよな…俺、宍戸がテニスしてるとこ好きだから、だから頑張ってな」 ほらね、男の目を見て。 絶望的な目じゃないでしょう?まだあなたに惚れてる、そんな目だ。 「ありがとな」 男が去ろうとした時に、宍戸は笑顔を見せた。 ばかだ。ばかだあなたは。 そんな笑顔をそんな奴に見せて。 愚かな男は自分が振られたことも忘れて、嬉しそうに手を振った。そしてその足音は次第に近付いて来て…その男は長太郎の横をすっきりした顔で通り過ぎる。 「可哀相な人だ…」 口角を片方だけあげて、長太郎は聞こえないように呟いて笑った。 宍戸さんは俺のモノなのに。 否、俺のモノになるのに。 そうなるまで、そんなに時間はかからない。 もうすぐ、もうすぐだ。 あと一押しして、引くだけ。 長太郎はまだその場で何か考え込んでいる宍戸を見て、哀れむように笑った。 可哀相な人だ… もうあなたは檻の前。 あとは自分でその鍵を回すだけ。 早く、入っておいで。 ずっと可愛がってあげるから… |