キス☆キス 3 そうこうしているうちに、部活は締めの言葉を待つだけになった。 「いってよし!!」 はかなくも、完全に第一段階を失敗に終えた長太郎は、その言葉と同時にため息をつく。 「長太郎?どうかしたか?」 隣で宍戸が心配そうに、長太郎を見上げた。 か、可愛い・・・そんな上目使いされたら、俺は、俺は!! 「俺さ、今日日誌の当番だから気分悪いんだったら先に帰っていいぜ?」 開閉される宍戸の薄い唇に、視線がいってしまう。 「長太郎?大丈夫か?」 そう言って近づいてくる宍戸の顔。 まさか!まさかぁあぁ!! そんな長太郎の期待もむなしく、次の瞬間、感じたのは額に優しい温もり。 「熱はないみたいだな。今日はもう先に帰れ。分かったな?」 「えっ、あっ、だ、大丈夫です!少しボーッとしてただけです!一緒に帰りましょう?俺、大人しく待ってますから」 その大きな背中を少し丸め、見えない耳を垂らしてみせると、宍戸は困ったように笑った。 「ったく、途中で気分悪くなったら先に帰れよ?」 「はい!」 「じゃあ、取り敢えず着替えにいこうぜ!!」 そう言うなり、部室に向かって走りだす宍戸。 それを追い掛ける長太郎は、これが海辺だったらな…などと、ベタなシチュエーションを思い描いていた。 「じゃあ、宍戸、日誌頼んだぞ」 用事があって残れない跡部は、精一杯長太郎を睨み、牽制してから部室を後にした。 慈郎に到っては、 「宍戸を汚すことは死に値するってしってる〜?」 と笑顔でその言葉だけを残し、帰っていった。 長太郎がそんな牽制を受けているとも知らずに、宍戸は必死に日誌を書いている。 それも、長太郎を早く帰してあげたいがために。 そんな中、長太郎はごくりと唾を飲み込んだ。 今、今がチャンスなのではないだろうか… 誰もいない部室。響くのはシャーペンが文字を並べる音だけ。もう、低い位置から差し込んでくる夕日。暗闇はすぐそこだ。 「し、宍戸さん」 普段は愛しいこの名前も、変に意識するとどもってしまう。 「んー?」 視線は日誌に置いたまま、宍戸は返事をした。 その返事に反応はない。 どうしたのかと顔をあげると、そこには妙に息が荒い長太郎。 「長太郎?」 ゆらりゆらりと長太郎は宍戸へと近付いていった。 そして、立つように促しつつ肩をがっしりと掴む。 つつついに、この時が! 長太郎の興奮は最高潮。 長太郎の顔が、徐々に宍戸の顔に近づいていく。 あと少し、あと少しで! コツン 「やっぱ熱あるんじゃねぇの?」 それはもう、ある意味期待通りの事の流れで。 ぶつかり合ったのは唇ではなく、本日二回目のおでこ。 「なんか息も荒いし、日誌、書き終わったから帰るか?今日は俺が家まで送ってやるから」 生まれたのは甘い余韻じゃなくて、心配そうな顔。 「……そうですね…」 今日は神様がやめなさいって言ってるんだ…長太郎はそう考えて、気付かれないように、二度目のため息を零した。 第二段階も、やはり失敗。 続く。 |