キス☆キス 1
その問いは何の前フリもなく、かけられた。
「………はい?」
思わず、相手が先輩だということも忘れて、そう聞き返してしまう。
「だから、宍戸とはどこまでいってんのかって聞いてんのやけど?」
「忍足先輩!?」
慌てて周りを見回してみるも、時、既に遅し。
まだここが、レギュラー専用の部室だと言うのがせめてもの救いだろう。
皆、興味がない振りをして着替えを続けている。
あくまで、『振り』だ。
精神をこっちに集中させているのを、肌で感じる。
こう、チクチクする感じ。
そんな中、一瞬キョトンとしていた宍戸が口を開いた。
「1番遠くて、幟山遊園地だったよな?」
その表情は汚れを知らない、無邪気な笑顔。
楽しかったなと、はにかむような笑顔も見せた。
「はい!また行きましょうね」
ここでレギュラー陣の肩がガクッと下がる。
忍足を除くメンバーは、安堵の意から。
忍足は期待外れの意から。
さらには、跡部達の間で固い握手まで交わされていた。
゙俺達の宍戸はまだ清い!!゙
そう、これが『エンジェル宍戸同盟』。
長太郎と宍戸が付き合い始めた一ヶ月前に結成された。
「いいか、今日は不幸な事に丁度一ヶ月だ。鳳が何もアクションを起こさねぇとは思えねぇ」
「そうだね。宍戸のピュアを守るためならなんでもしちゃうC」
こんな会話がコソコソとされる始末。
そうとも知らずに、例の作戦を実行しようと意気込む長太郎。
そんな様子を客観的に見ていた忍足は、今日は楽しい部活になりそうだと、心の中で呟いた。
「長太郎、早くコートに行こうぜ!」
そんなことも露知らず、宍戸はやっぱり無邪気に部室を飛び出していった。
そんな様子を見て、長太郎の心が少しだけ揺れる。
純粋無垢な宍戸さんを自分なんかが汚していいのだろうか。
たかがキス、されどキス。
この時の長太郎は予想以上の苦労が待っているとも知らず、そんな事を悩んでいた。
続く。
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