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皆でお花見

「桜が満開だなぁ、樺地?」

その意味深な問い掛けに、宍戸は嫌な予感がした。
ウスっと声がしたのと同時に跡部の顔が満足げに笑まれたのを見て、その予感は予感ではなく確信に変わる。


「よし、今日は花見をする」


叫びたかった。宍戸は叫びたかった。
声高らかに叫んでしまいたかった!





「またこの始まり方ですか!?」

日吉に先を越された。



「あーん?またってなんだ?」
「い、いえ…なんでもないです」

頭のてっぺんに桜の花を刺している跡部を見て、日吉はそれ以上を言えない。
満開なのはあなたの頭ですなんて…

「跡部の頭が満開だCー」

言ったぁぁぁあぁぁ!!!
日吉は心の中でスポーツの実況中継で聞こえてきそうなシャウトをかました。
まるで九回裏一点差で負けているその回の最終打者が、さよならホームランを打った時に聞けるような、そんなシャウト。

「あーん?俺様はいつだって満開だぜ!」

解釈のポジティブさに定評がある跡部は、今回もそのポジティブスキルを見せる。

「宍戸さん、跡部さん流石ですね!頭が満開じゃないと出来ない解釈ですよ!普通の人だったら怒ってもおかしくないのに喜んじゃうなんて!」

鳳、笑顔で改心の一撃。

「あぁ、俺様は流石だ!!」

スルースキルの前ではこの攻撃も無意味だった。

「そ、そんなことよりさ、いきなり花見って場所とかあんのかよ」

宍戸は空気を読んで聞いてみた。
隣では鳳が最高に不機嫌な顔をしている。

「勿論、用意してある!忍足が先に行って場所取りというものをしているはずだ!」
「そういえば侑士、杭とロープとシート持って来てたな」

岳人がふと数十分前の忍足の後ろ姿を思い出す。その完全装備で、今頃花見の場所を確保し、一人寂しく体操座りでもしてまっているのだろう。そんな忍足の様子を想像して、鳳は少しだけ機嫌を直した。

「じゃあ、行くぜ?俺様についてきな!」

指を鳴らし、意気揚々と部室を出る。その後ろを重箱を持って着いていく樺地がなんか可愛かった。誰よりもごついのに、誰よりもしおらしく見えた。







そして一同は有名なお花見スポットにやって来た。小春日和の風が気持ちいい午後1時。そこはお花見をする人達で一杯だった。普段いるようなジョギングしているメタボ気味のおじさんも、犬を散歩させているけばいマダムもいない。

皆、上機嫌に頬を染めて、満開の桜よりも持って来た料理やお酒を楽しんでいる。まさに花より団子。


「なんか…あの辺から急に人が減ってませんか?」

そんなお祭り空間で有り得ないことを日吉が言い出し、更にその指差す方を見ろと促す。
その伸ばされた人差し指を辿るようにメンバー達の視線がゆっくりと移動する。

「そう言われればそうだな、でも忍足が場所取ってんのってあの辺じゃねぇの?」
「あぁ、そのはずだが…」

奇妙な光景にいつも自信満々な跡部の発言も、心なしか勢いがないように感じる。

「ちょうどあの1番大きい桜の木の下を取っとけって言ったが…なぁ?樺地」

揚げ句の果てには自分の発言に自信を無くして樺地に確認までしている。それくらい妙なのだ。その問題の辺りも十分に桜は咲いている。むしろこの公園内で1番のお花見スポットではないだろうか。

「…ん?あれ忍足じゃねぇか?」

よく目を懲らすと、桜吹雪の中に一人佇むように立っている人物がいる。その髪の毛は舞う桜の花びらとは正反対の青。

「なんだいるじゃん!侑士が気持ち悪くて皆近寄れないだけじゃねーの?」
「きっと一人でアニソンとか歌ってんだろ」
「フィギュアとままごとだC〜」

それぞれが言いたい放題言いながらやっぱり跡部筆頭にぞろぞろとそこに近付いていく。そして、


「これが庶民の場所取りか!さすが庶民は場所の取り方も地味だな!」

俺様何様跡部様は場所取りなんかしなくても常に専用の場所が存在しているため、初めてのその光景に感動している。
が、他のメンバーは口を開けたまま何とも間抜けな顔でそれを見上げている。そう、見上げているのだ。





「そりゃ誰も近づかねぇよ!!!!!」

宍戸の久し振りの突っ込みが辺りに響く。

「へぇ、縄ってこの為の縄だったんですね」

鳳はいい眺めだと鼻で笑った。

「ま、まだ下剋上してなかったのに…」

日吉は桜の木に首を吊っている忍足に合掌した。

「忍足が命をかけて取ってくれた場所だ!お花見楽しもうぜ!じゃないと俺達ちょいダサじゃねぇか!」
「そうだな!さぁ樺地、ご馳走を広げろ!」
「ウス」


それから始まる宴会。誰もが思い思いにお花見を楽しんだ。それはもう物凄く楽しんだ。上にぶら下がっている眼鏡が邪魔でしかないくらい楽しんだ。


それを薄目で見ていた忍足は早く手に持っている『ビックリでした!』の板に誰か気付かないかなと切実に思っていた。









おしまい。








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もはや『皆でシリーズ』というよりも可哀相な忍足シリーズになっている件。
あと宍戸さんにちょいダサって言わせたかっただけなんだ。
だからその後の忍足のオチがもう言わせて満足とかで適当になった訳じゃないんだから!ごめんね!


あきゅろす。
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