俺達、SSHM番台! ここは、とある下町の銭湯。昔ながらのここは木造のロッカーだったり、冷蔵ケースに入った瓶の牛乳だったり、とにかく絵に描いたような銭湯。勿論、お風呂の壁には富士山の絵が描かれてたりなんかする。 「あら、今日は宍戸の坊ちゃん一人かいね」 「おぅ、佐々木んとこのばあちゃん!長太郎はちょっとおつかい行ってんだ」 お湯に浸かりに来る人も昔馴染み。小学校の時から番台に立っている宍戸は殆どの客の顔を覚えている。 「あらあら、一人なんて久しぶりだから寂しいんじゃないのかい?」 おばあさんはからかうように笑いながら、台に150円を置いた。それとほぼ同時に小さな板が渡される。 「はは、すぐ帰ってくるからどうってことねぇよ。はい、今日も113番な」 小さな板に書かれている文字。113。それはロッカーの鍵でもある板。1月13日がおばあさんの誕生日だとかで、もうずっとこの番号を渡している。 「はいはい、ありがとね」 おばあさんが脱衣所に向かったのを見届けてから、宍戸は冷蔵庫のフルーツオレを一本、手前に寄せた。と言うのも、さっきのおばあさんがお風呂上がりに必ず飲むのがフルーツオレで、体を冷やしすぎるのは良くないといつもこのタイミングで1番冷蔵されない位置に移動させるのだ。こんな気遣いもあってか、この平成の時代でもこの銭湯は潰れずにいた。 「宍戸さん、ただいま!」 ガラガラと音を立てながら顔を覗かせたのは、さっき話題にもなった長太郎。 「おぅ、早かったな。お疲れさん」 「溶けないように走って帰って来ました!」 白い袋を提げて、満面の笑み。肩を上下させているところを見ると、走ったのは本当らしい。 「サンキュ。風呂掃除が終わったら食おうな」 「はい!」 長太郎は袋からアイスの箱を出すと、台裏の小さな部屋にある冷蔵庫へ仕舞う。それから当然のように狭い番台に上り、宍戸の横に腰を降ろした。 「おっ、今日も二人一緒か!もう結婚しちまったらどうだぁ?」 それと同時に店に入って来たのは隣の酒屋さん。既に裸で腰にタオルを巻いた状態で、台の上に150円を置いた。 「はは、結婚なんて面倒臭ぇ事しなくても、ずっと二人でここやってくからいいんだよ」 「おぅおぅ、お熱い事で」 そんな会話も常連さんだから出来ること。 常連さんと冗談を交えた会話を交わす宍戸、その横にニコニコと笑顔でいる長太郎。二人で一人とまでは言わないが、その姿はまさに熟年夫婦。すっかりここの名物になっていた。 そんな平和な空間にも、時々事件は起こる。それはお客さんがお風呂で尻餅ついたとか、小さい子がシャンプー飲んじゃったとか、そんな笑える話じゃなくてもっと面倒臭い事件。 「今、この人、女子更衣室覗きました」 宍戸はその指先がなぜ自分に向いているのか分からなかった。その指先を辿った長太郎も、ポカンと口を開けている。 「…は?」 この宍戸の言葉に、女は更に怒りだす。 「だから、この人が私の裸をみたんだって!」 確かに番台は他よりも高い位置にあるだけあって、男女ともに更衣室の入口が見える。それは昔からある銭湯では普通であって、防犯の事も考えた作りだ。それでも気を使って女子更衣室にはカーテンを引いているというのに。 「見てねぇよ!」 「そうです!宍戸さんはそんなことしません!」 二人で抗議するも、その女は尚も宍戸を責めてくる。 「だから、見ねぇって!」 「絶対見ました!もう最悪!うちのお風呂さえ壊れてなかったらこんな所来なかったし裸も見られなかったのに!」 「わかんねぇ女だな、見てねぇって言ってんだろ!?」 「証拠は?見てないって証拠はあるの?」 女は証拠を出せと言わんばかりに手を大きく開いて差し出してきた。 「……を見てた」 「は?」 「長太郎見てた!こいつがニコニコしててすげぇかわいいから見てたんだよ!」 「…は?」 「し、宍戸さん…!それは宍戸さんの横にいるのが嬉しくてついニコニコしてたんです!」 二人頬を染めながら見つめ合う様子に、女は若干後退りをした。 「じゃあ、ずっとこうして一緒に番台にいるから、俺は死ぬまで長太郎のニコニコ笑顔を見れるんだな!」 「はい!もちろんです!」 文句を付けにいったはずなのに、気付けばそこは二人の世界で。意味が分からないと後退りを続ける女はドンッと何かにぶつかった。 「…っと、危ないねぇ。ちゃんと前みて歩かんね」 ぶつかったのはいつの間に買ったのか、フルーツオレの瓶を持ったお婆さん。 「だ、だってあれ…あれ何なの…?」 女が本日二度目の指差す方向。そこに目を向けると、番台の上で何やらキラキラとした目でお互いを見つめ合う男が二人いた。 「あぁ、あの二人はあれだよ。この辺では有名な」 SSHM、番台!! お互いの事が大好きで、時々自分達の世界に入っちゃうよ!だけどその反面、セクハラ事件や覗きなど銭湯には付き物の破廉恥な事件がないんだ! 「SSHM番台?なんですかそれ?」 「その意味が知りたいなら、ここに通いなさい。一ヶ月も通えば分かるだろうよ。そして癖になる」 女は覗かれたという勘違いもすっかり忘れて、お婆さんの言うことに一度だけ頷いた。 こうして固定客は増えて行くよ! 「宍戸さん、番台はこの狭さがいいですね!」 「そうだな!長太郎のニコニコ笑顔がこんなに近いんだもんな!」 「えへへ」 そんなこんなで宍戸湯と二人の番台は今日も愛の力で続いていくのだった。 ーーーーーーーーーー こちらはすっかり常連さん、あやね様からのリクエストです!うーん…ちゃんとSSHMになっているでしょうか… 前フリが長かったような気もしますが、二人が仲良く番台をしている姿が書けていたら嬉しいです!そしていちゃいちゃで問題解決!(解決?) サラッと気が利く宍戸さんが好きっす。でも恋愛には鈍い宍戸さんが好きっす。 あやね様、リクエストありがとうございました! |