ボーリング遊び 大変です。 球が投げれません。 球が投げれないんです。 だってだって…―! 「もう!何でそんな所に傷があるんだよ!」 長太郎は憤怒していた。 ただの言い掛かりとしか思えない、その台詞が心なしか震えて聞こえる。 その怒りの矛先は白い彼ら。 赤いラインなんか引いちゃって、お洒落を気取っている彼ら。 顔が小さくて腰が細くて、でもどっしりと構えている彼ら。 っていうかボーリングのピン。 「あの真ん中のやつ…額に傷があるんですよね…」 聞かれてもいないのに、一人もどかし気に歯を食いしばる長太郎。 「何だってそんなところに…」 球を掴む手が震えている。 「そんなところに傷があったら宍戸さんにしか見えないじゃないか…!」 投げられない、投げられるはずがない…また、心の中で嘆いた。 「だがしかし、あそこを狙わなければストライクは有り得ない…」 長太郎はその一点を見つめた。 描かれた三角系の頂点に君臨する一つのピン。長太郎が言うように人間でいう額の部分に、確かに傷がある。 それに気付いてしまったが最後。長太郎にはそれが宍戸の化身としか思えなかった。 「どうすればいいんだ…あそこだけ残して9本倒す?いや、そんなテクニック、俺にはない…」 宍戸さんを昇天させるテクニックはあるけど!力強く心の中で付け足す。 「仮に、仮に9本倒してもスペアを狙うために宍戸さんに似たピン、略して宍ピンを狙わなければならない…そんなのもっと出来ない!拷問だ!!」 長太郎はその場に膝を着いた。ガクリとうなだれたその背中には、絶望さえも見て取れる。 「神様はなんて残酷なんだ…俺が…俺が宍ピンを倒せないと知っていてこんな試練を…」 揚げ句の果てには十字架までにぎりしめる長太郎。目には涙を浮かべ、手を組み祈りまで捧げ始めた。するとその祈りが天に届いたのか、愛しい人の声が耳に入ってきた。宍ピンなんかじゃなくて、本物の宍戸の声。愛しくて愛しくて、録音して閉じ込めてしまいたいくらいの声。 「さっさと投げろ、アホ」 そして次の瞬間、後頭部に運命と勘違いしてしまいそうな衝撃。 ビビッ!と来たそれと共に滑り出すせっかちな長太郎の心。 と、長太郎自身。 スーッと音もなく滑っていく長太郎は、みるみるうちに宍ピンに近づき、気付けば熱い接吻まで交わしていた。無機質なそれも、宍戸さんの化身だと思えば、柔らかい唇にさえ思える。 そして輝くストライクの文字。 長太郎はガッツポーズを決める宍戸の姿を見ながら、暗闇へと巻き込まれていった。 後に従業員に怒られたのは言うまでもないが、なぜか長太郎の表情は満足そうだったという。 ―END― ーーーーーーーー これ、五回目くらいの拍手分\(^O^)/ そうだね、あかりの頭、ちょっとおかしいね! |