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宍戸さんの白執事

みなさん、おはようございます。

鳳、長太郎です。
お金持ちみたいな名前ですが、代々ある家に仕える執事です。
小さい頃から色んな勉強をして、俺もようやく去年から仕えています。




「宍戸さん、起きてください!遅刻しますよ!」
「無理。まだ眠たい」
「宍戸さん!また御祖父様に怒られてしまいますよ!」

被っている布団を無理矢理剥ぎ取ると、俺の仕えている主人がそこに縮こまっています。


彼が宍戸さん。宍戸亮さんです。
ねぼすけだし、勉強は嫌いだし、とてもお坊ちゃまには見えない人です。

「朝ご飯が卵かけごはんなら起きる」

嗜好もまるっきり庶民です。

「そういうと思って、料理長さんに頼んでます」

そう言うと、宍戸さんはむすっとしながらもやっと起き上がります。

「…長太郎のくせに」

ぼそっと言ったその言葉は無視です。あんまり言い返すと宍戸さんはむきになるからです。




「おはようございます」
「…はよ」
「おはようございます」
「…はよ」

宍戸さんがそれでも使用人の皆に好かれる理由の一つ。
ちゃんと皆の挨拶に答えるところです。
これはなかなか出来る事じゃないと、父が言っていました。
なにせ、この屋敷には鳳家の執事も合わせて、20人も使用人がいるからです。
つまり、宍戸さんは毎朝20回も"おはよう"をいうわけです。


「今朝の朝食は宮崎県から取り寄せた最高級の地鶏の卵を使った卵かけご飯です」

料理長さんがその台詞を言い終わるまで宍戸さんは食べ始めません。料理長さんが毎朝噛まないようにと練習しているのを知っているからです。

「いただきます」

食べるのはそのあとにきちんと"いただきます"を言ってからです。20人の使用人に見守られる中、最初の一口が宍戸さんの口に運ばれます。


「うん、うまい」

宍戸さんが今日初めての笑顔を見せます。
使用人皆も笑顔になります。


ぐぅ〜


そんな和やかな空気に妙にマッチしている間抜けな音。

「す、すみません!」

使用人の一人が謝ります。
使用人全員が下を向きます。
そこに居座るのは沈黙です。



「……ぶはっ!」

その沈黙を破ったのは宍戸さんの笑いを我慢できずに噴き出す声。

「料理長、あと20人前用意できるよな?どうせなら皆で食おう」


その提案に皆が慌てて首を振ります。
使用人規約の第65条に主人と同じテーブルで食事を取ってはいけない。67条に主人よりも先に食事を取ってはいけない。とあるからです。


「使用人規約重要五箇条以外でその規約より優先しないといけないのはなんだ?」

宍戸さんが皆の考えていることを読んで、そう問います。

「主の命令です」

宍戸さんと目があった俺は、そう答えました。

「だよな?じゃあ料理長とコックに命令、20人分の朝食の用意を。それと使用人全員に命令、一緒に朝食をとること、いいな?」







……前代未聞です。
こうやって主人と使用人が一緒に食事をとるなんて、執事界で聞いたことがありません。


「うまいな」
「はい、本当に」


宍戸さんは、さっきよりも笑顔です。
使用人達ももちろん、さっきより笑顔です。


宍戸さんが皆に好かれる理由、それはそのお坊ちゃまらしくない性格にあるのです。

気さくで、気取ってなくて、言葉遣いは綺麗じゃないけど、優しいところです。



だから俺は、そんな宍戸さんが大好きなのです。

そんな宍戸さんだから、俺は宍戸さんの執事なのです。


あきゅろす。
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