小説
強く優しく
〜甘(犬かご夫婦)
まるで割れ物を扱うように
あなたは私に触れるから
『強く優しく』
「かごめ……」
夜になって二人きりになると彼は昼間とは全く別人になる。
胡座の上に私をのせて後ろから優しく包み込む。耳元で甘く鳴く彼は、敵と戦うときとは大違い。
そう、頼れる逞しいその腕で壊れ物を扱うように私を包んでくれるのだ。
優しさが感じられるのは嬉しいが、最近少し物足りないと思うのはワガママだろうか。
「ねえ、犬夜叉。」
「んー?」
犬夜叉は頬を私の髪の毛に擦り寄せながら、曖昧に相づちを打つ。
「…強く抱き締めて?」
「はあ?」
すっとんきょうな声をあげて、一瞬体を離される。そして大真面目な顔をして目を覗き込まれた。
「お前、潰れるぞ。」
「やだ、そんな本気に抱き締めなくてもいいのよ。」
真顔で何を言うかと思えばこの人は。思わず吹き出すと、それにムッとしたらしい。
「なんだよ。…じゃあ、手本としてかごめが俺を本気で抱き締めてみろよ。」
不機嫌そうな顔から、一瞬にしてニヤリと口角を上げる犬夜叉。その顔は子供のように幼くも見えるし、大人のような色っぽさも滲ませていた。
完全に遊ばれているのは分かっているけど、負けず嫌いは犬夜叉と同じくらいな私。
「いいわよ!骨が折れても知らないからね!」
へいへい、と軽く笑う犬夜叉の腰に手を回して少し引き寄せる。息が出来なくなるくらいまで締めてやろうと思って、腕に力をいれる。
「……まさか、これが本気か?」
「!」
不満げに尋ねられた。本当はかなり本気だったが、ここで引き下がるわけにもいかない。
「これは練習よ!!」
腰から腕を解き、今度は犬夜叉の首に回す。
「…ふーん。」
彼は少し嬉しそうにして、体を私に預けた。今度こそ首の骨を折ろうと目一杯に力をいれて抱き寄せる。
「……もう、いいぞ。」
数分もしないうちにあっさり引き剥がされた。
「何よ、首折れそうだったの?」
「……いや、…。」
「?」
どもる犬夜叉に首をかしげると、いきなり抱き締められた。
「どうしたのよー?」
「……抱き締めたくなったんだよ。」
甘い空気の中では、素直になる犬夜叉が可愛い。その言葉が嬉しくて、彼に身を任せる。
「…苦しくなったら言えよ。」
「ん、分かった。」
密着する体と比例して、背中に回されている腕の力も強くなる。通常より速い二人の心臓の鼓動が、静かな空気に溶け合うのが分かる。
「……っん」
呼吸が上手く出来なくて、つい口から乱れた吐息がこぼれた。
「言え、っつったのに…」
苦笑しながら腕の力を緩めた犬夜叉。口には出さないけど、なんだかすごく残念。
「今のどれくらい本気だったの?」
「……このくらい。」
そう言いながら、犬夜叉が私に見せてきた指の間は…
「…これ、指くっついてるじゃない。」
0だった。
「本気出してかごめを潰すわけにはいかねえだろ。」
くしゃっと頭を掻き回される。不覚にもそんな彼にドキッとしてしまう私はどうかしてるのかしら。
「犬夜叉になら、潰されても良いのに…」
「何言ってんだ、ばか。」
「ばかって何よ、ばか!」
あなたの腕の中で、あなたに殺されるのなら本望だわ、なんてね。
「犬夜叉……」
「…ん。」
「…好きよ。」
「…いきなりかよ。どうした?かごめ、今日はやけに甘えてくるな。」
喜んでいるのか、その声は微かに笑みを含んでいるようだった。
「私にもそういう日だってあるのよ。」
へぇ、と犬夜叉が楽しそうに言いながら再び体がくっつきあう。
「じゃあ、明日は俺がそういう日にするぜ。」
「あんたはいつもそうじゃないっ。」
「…いや、そんなこたねえだろ。」
漏れる静かな笑い声が、夜の空気に混ざって消える。
その空気に寄り添う二人の寝息が混ざるまでは、もう少し時間がかかりそうだ。
了
しっとり雰囲気で書いてみた!友達との会話から思いついた話です。
…普段どんな会話してんだ、とか言わないで!←
お読みいただきありがとうございます!m(__)m
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