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小説
星空を見に

〜甘













「後は頼んだぜっ!」


「あ、待ちなさい犬夜叉!!」


妖怪退治を終えたあと、まさに風のように去っていった仲間。

これからいただく品を一人で持って帰るのか、と少し気が重くなる。


と、同時にさっさと愛しい妻の元へ戻っていく彼に頬の緩みを抑えられない。


――まったく…本当に骨抜きですね


夕暮れの色と同化する彼が駆けていった方向を眺め、つい笑ってしまった。


『星空を見に』



なんてことねえ雑魚妖怪。
あんなもん弥勒一人でも殺れるだろ、と心の底から思う。

お礼の品には興味ねえし、ただの荷物運びになるなんざ御免だ。

それに、

一刻も早くかごめの隣に帰りてえ。


村に戻ろうと走っていると、かごめの匂いが違う方向から風に流されてきた。


おおかたいつもの薬草摘みの場所だろう、と方向を替えまた走り出すのだった。













「あ、おかえり犬夜叉!」

自分を暖かく迎えてくれたかごめは桃色の小袖を羽織っていた。


その笑顔につい頬が緩みそうになるが、羽織物をしているのが気になった。


「その羽織…」


「これ?珊瑚ちゃんが貸してくれたの!」


可愛いでしょ、とにこにこしているかごめ。

いや、お前の方がよっぽど可愛い…じゃなくて、


「さみいのか?」


その問いに、少しね、と答えるかごめを見て苦笑する。


「さみいなら帰れよ。無理すんなっつってんだろ。」


「もう!心配性なんだから〜。」


分かったわよ、とぶちぶち言いながら、薬草の入った籠を持とうとするのをさらっと遮る。


「俺が持つ。ほら、帰るぞ。」


「ありがと、犬夜叉。」


少し照れ臭そうに笑うかごめの膝裏に腕を入れる。とても軽い妻を横抱きにして帰路につく。


おぶるのも良いのだが、今は背中に薬草を背負っているからそれは難しい。

それに横抱きだと、愛しい妻の顔がいつでも見ることが出来るので犬夜叉としては嬉しくもある。


桃色の小袖をしっかり掴んで、犬夜叉の胸に頬を寄せるかごめ。

――幸せ…だな。


まだ、慣れないかごめのそんな仕草に頬が赤くなる。


「犬夜叉、夕陽がきれいね。」


「あ?…あぁ、そうだな。」


「今夜はきっと星がきれいだわ。」


楽しそうに空を見つめるかごめを見てつい魅とれてしまう犬夜叉だった。














――


「犬夜叉!星を見に行きましょう!」


「はあ?」


夕食も終わり、穏やかな時を過ごしていたときだった。

先ほど羽織っていた小袖を持って、はやくはやく、と犬夜叉を急かす。


「ばか、外さみいんだぞ。」


「だって星が見たいんだもの!」


理由になってんのか、これ。まるで駄々をこねる子供のように何度も「行こう」を繰り返している。

行くのを渋っていると、かごめが痺れを切らしたらしい。


「じゃあ、一人で行ってくるわ〜!」


と、小屋の外へ出ていってしまった。


「あっ、おい!…ったく…」


鉄砕牙を腰に差し、かごめの後を追って夜の外に出るのだった。



明るいところから暗いところに出たため、一瞬視界が真っ暗になる。闇に慣れると、目の前にいたのはにこにこしているかごめ。


「勝手に出んなよ。夜に一人とか危ねえだろ。」


「犬夜叉なら来てくれると思って。」


やっぱり来てくれた、と嬉しそうに言うかごめ。


「ね、行こう。」


そして、手を差し伸ばされる。かごめからのスキンシップはとても珍しいので、素直にその手をとる。

寄り添って歩く二人は、夜の森に溶けていった。












「きれー……い」


小高い丘に立って空を見上げるかごめ。明日も晴れだということを主張するかのように星がまたたく。

繋いだままの手は先ほどより冷たい。やはり夜になると冷え込む。

「かごめ、座れ。」


空を見上げたまま、すとんとその場に座るかごめ。その横に胡座をかいてかごめを膝の上に乗せる。


「犬夜叉。」


「…ん?」


「あったかい。」


きっと今のかごめは笑顔なんだろう。その顔が見られなくて残念だ。


「俺もだ。」


僅かな温もりを逃がさぬように後ろから抱き締めると、胸にかごめが寄りかかってきた。



…流れている空気が甘く感じるのは俺だけか?



かごめは、そんなことを思っている犬夜叉に気にも止めず、星空を見上げようとする。犬夜叉が眼中に無いらしく、無防備な顔をさらけ出している。


少し悔しくなって、その額に唇をあてる。


「いっ…いぬや…っ!?」


離れようとするかごめを逃がさないようにがっしり捕まえる。


「逃がしゃしねえよ。」


低い声で耳打ちをすると、かごめが静かになることくらい知ってる。


「さみいんだろ。」


こくりと反応が小さく返ってきた。当然のように衣を脱いでかごめにかけてやる。


「犬夜叉が寒くなるじゃない。」


腕の中で心配そうに尋ねてくる。
その問答は過去にずいぶん繰り返されてきたから、お決まりになっている台詞を言う。


「俺はそんなにヤワじゃねえよ。」


それに、と呟きながら衣ごとかごめを包み込む。


「こうしとけば何よりあったけえ。」


な?と反応を窺うと、可愛らしく頷かれた。


「そういや、なんで星なんか見に来たかったんだ?いつでも見られるじゃねえか。」


ずっと気になっていたことを聞いてみると、誇らしげな顔が向けられる。


「流れ星が見られそうだったから!」


こいつは…、と苦笑した。そんな流れるか流れないか分からないものを勘に頼って来たのか。

それを言うとむくれそうだったので、無難な質問を投げかけた。


「何か願い事したりすんのか?」

きっとするんだろうな、と思っていると全く違う返答だった。


「しないわよ。だって、今は幸せ過ぎるんだもの。」


叶えて欲しい願い事は思い付かないわ、と何とも嬉しいことを言ってくれる。


「犬夜叉は?」


と、逆に聞かれる。叶えて欲しい願い事…か。


「そうだなあ…明日の飯も美味いといいな。」


「何よそれー!」


「んだよ、俺は真剣なんだぜ。」

「笑いながら言っても、説得力ないわよ。」


しばらく二人で笑い合う。

ひとしきり笑うと、ふう、とかごめが口を開いた。


「そんなこと、星じゃなくて私が叶えるわ。」


そうよ、と片手に拳をつくって気合いを入れているようだ。


「犬夜叉の願い事は全部私が叶えてみせるわ!」


だから、と続ける。


「何か願い事があったら私に言ってね?」


かごめに叶えて欲しいことなんてたくさんある。それこそ星の数くらい。

だけど、それはさすがに多すぎだから。今はひとつだけ頼むことにする。


「じゃあ、今一個言っていいか?」


「いいわよ!なあに?」


その愛しい人の頭を撫でながら目をつむる。


「星なんかより、俺の顔見てくれよ。」


「やだ!そんなこと?」


はいはい、と言いながらかごめがごそごそと膝の上で体ごと方向転換する。


「向いたわよ?」


少し見つめあうと、どちらかともなく重なる唇。










流れ星が流れても、願い事はしない。

ただ、愛しい人が隣に居てくれれば他に何も望まない。



「明日」がある日々を、

「未来」に繋げてく今を、


共に生きる君と願おう。








→あとがき

衝動的…←笑

犬夜叉は夫婦になったら過保護になればいい!(^O^)
…にしても過保護過ぎだけど笑

お読みいただきありがとうございます!m(__)m

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