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小説
Alone(孤独)


シリアス
犬かご





























賑わう町。人が行き交うこの路(みち)はその数だけ悩みや葛藤も通り過ぎていく。

俺は影に身を潜めながら、その様子をじっと眺めた。小さな身体は夜でも明るい町の闇に紛れやすい。

そう、確かそれは屋敷を追い出されてから初めて見た町だった。


『Alone(孤独)』


「……」


ふと立ち止まる。すぐ後ろからついて来ていたかごめ俺の背中にぶつかり、小さな声をあげた。


「ちょっ、どうしたの犬夜叉?」


おでこを擦りながら不満げにこちらを見上げる彼女。


「いや…なんでもない」


そう言ってまた歩き出す。日暮れ時だったため、弥勒が手早く寝床を確保し、豪華な屋敷の中でみんな各々の時間を過ごしていた。ここまではいつも通り。


「ちょっと外に行ってくるぜ」


ここがいつもと違う。最近は一人で出歩くことはなくなった俺が突然外に出る、と言うのだ。不自然極まりないだろうな、と考えながら襖を開ける。

後ろはやけに静かだ。俺は振り向かない。多分みんな驚いているような顔をしているんだろう。静かに襖を閉め、外へ出た。

夜の町は昼間とは違うが夜独特の賑わいがある。

彷徨うようにふらふらと歩いた。緋色の衣のせいでやけに目立つが気にしない。
それに、どうせ他人だから別に気にしちゃいないだろうし。

見覚えのある茂みに立ち止まった。そうだ、俺はガキの頃ここにしゃがんでたっけな。

あの頃より大きくなった身体では隠れきれないが、そこに胡座をかいて座る。人と時間こそ違うが見える景色は変わらない。

ほぉ、と息を吐く。この感じがなんとなく、懐かしくて、でも少し哀しくて。

切り離されている感じ、疎外されてる感じ、誰にも見られていない感じが身体に伝わってくる。

胸がざわつく。その正体が分からず目を瞑った。

視覚を閉じると聴覚が鋭くなるらしい。ざわざわという声が鮮明に聞き取れるようになる。


「早く帰らなくては…」

「あそこの娘さん、離縁して家に帰ってきたらしいわよ」

「もったいないわねぇ」

「…あんの野郎、ただじゃおかねえ」

「お客さん、ちょっと寄ってかないかい?」

「お、あそこの娘さん可愛いな」

「ちょっと、あんた!」

「見て見て、この簪綺麗でしょ!」

「わあ、どうせあの人に買っていただいたんでしょう?」

「羨ましいなあ…」

「……腹減った…」

「違う、俺じゃない…俺じゃないんだ」


様々な想いがすれ違っては離れていく。目を開けた。ガキの頃に戻ったようにあの頃の感覚が思い出される。

あの頃は、馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返しながら生きていた気がする。


―誰も信用しちゃいけねえ。信用して、裏切られた時のあの気持ちは味わいたくねえから


あの狂気染みた屋敷から出た夜は、不安だったが少しだけ心が軽くなったのを覚えている。

もう、独りなんだ。独りになれたんだ。

命が危険に晒された時もあった。それでも独りで戦って、独りで生きて。

独りが楽だった。

だから独りを好んだ。

それなのに、あの時俺はこの町の雑踏に立ち止まった。

大勢の人を目の前にして、孤独のなんたるかを知った。

誰も信用しない代わりに、誰も信用してくれない。

そんな当たり前のことに気付かなかったんだ。


「あ、いたいた!」


突然目の前にあった景色が遮られて、俺の身体が誰かの影に染まる。


「探しちゃったじゃないの!ほら、帰ろ?」


手を差し伸ばされて、躊躇した。先程までの思考のせいだろう。


―この少女までもが俺を裏切ったら…?


ざわりと逆立った心が急激に痛くなる。


「犬夜叉?」


ちょこんとその場にしゃがんで、俺と目を合わすように覗き込む少女。


「今日のあんた、ちょっと変よ?」


どうしたのよ、と困ったように微笑まれて息を吸うのが苦しくなった。


「……かごめ」


「ん、なあに?」


「お前は、俺のこと…」


―信用してくれるか?


ざわめく人達のせいで聞こえなかったかもしれない。そのくらい小さな声で呟いた。

その返事が返ってくることはなく、かごめは急に立ち上がった。逆光で顔がよく見えない。俺もつられて立ち上がる。


「行こう、みんなの所に」


すっと差し伸ばされた手がとても自然で。だから俺も自然にその手を握っていた。

独りを好んだ臆病者の手には、今、守りたいものがある。

だから、独りに戻ることは出来なくて。独りに戻る必要はなくて。

要は大切なんだよ、お前らが。

守り守られる関係なんざ知らなかった。孤独に耐えることが強いと思ってた。

そんな固定概念を壊してくれたのは、紛れもなく隣にいる少女。


「ねえ、犬夜叉」


「あ?」


「いつでも…ううん、ずっと」


そう言って立ち止まった彼女に合わせて俺も足を止める。頭1つ分以上も小さな彼女の顔を覗いた。


「犬夜叉のこと、信じてるよ」


顔をあげたかごめ。そこには俺の好きな笑顔があって。一瞬息をするのを忘れた。


「だから犬夜叉も私たちのこと、信じて」


―信じて、いいんだよ


その言葉は緋色の衣の中に消えた。俺は周囲の目も憚(はばか)らずに心優しき少女を抱き寄せたのだ。周りの音はしばらく消え、また再びざわめきが戻る。


「いっ……いぬや、」


「……」


「…どうしたのよ、もう」


ぽんぽん、とあやされるように背中を叩かれて、胸が潰れそうになる。潰れそうなくらい……


「かごめ…」


―愛おしい


どのくらい抱き合ってたのかは分からないが、どちらからともなく離れた。

恥ずかしい、という情が今頃でてきやがった。

火照る顔を隠したくて、今度は俺がかごめの手を引いて歩く。小さな歩幅が、手の温もりが、呼吸の音が、全てがいちいち胸をつく。




もし、ガキの頃の俺に一言いえるのなら言ってやりたい。


―お前が、心から信用できる奴に必ず逢えるから


夜の町を抜け、豪華な名主の屋敷が見えてきた。きっと帰ったら色々聞かれんだろうな、と苦笑する。

でもそんなお節介も煩わしいとは思わなくて。むしろどこか心地好くて。

俺は、俺の居場所に早く着くため、足を速めた。








さて、ちょっと長いあとがき?の始まりです!

今回アルファベットを題名にして小説を作ろう!と何故か思い立ちました(^-^;

冷静に考えると、26あるわけで…頑張ろうと思います笑

とりあえず「A」いきました。お読み頂きありがとうございました!

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