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小説
優しい体温





☆父の日

シリ甘夫婦犬かご







じっとりと湿り気を帯び、立っているだけでも汗が滲むこの季節。

かごめは夫の帰りを待ちながら、家の何処が一番涼しいか探していた。


『優しい体温』


試行錯誤するものの、やはり何処も同じくらい蒸し暑い。

今日はもう楓ばあちゃんの手伝いがないから、と巫女装束を脱ぐ。流石に暑さには勝てない。

本当は水浴びのひとつでもしたいところだが勝手に行こうものなら、旦那様にものすごく怒られてしまうのだ。


「あ、あったあった」


最近珊瑚ちゃんにもらった小袖を見つける。着方はいまいち分からないが、きっと巫女服と同じようなものだろう。

着てみると少し着崩れてしまったが、今はこのくらいが丁度いい。

暇を持て余していると、いつの間にか目を閉じていたのだった。


――


さっさと、という速さでもないが割りと素早く依頼を済ました。

理由は…いわずもがなである。


「おう、帰った…ぞ?」


家に入るといつも迎えてくれるあの笑顔がない。ざわりと心が乱れた。身体が勝手に血の匂いや、不穏な音を感じようとする。


「……」


結局その類いの空気は何も感じられず、逆に安堵するような控え目な寝息と匂いを感じ取った。


「……って、おい」


そしてその姿を見てガクリと項垂れる。胸元がギリギリまではだけ、小袖の裾から白い足が垣間見える。なんともまあ無防備かつ艶やかに眠ってくれたものだ。

その上、この湿気のせいでうっすら額や首筋などに汗が浮かんでいる。

はあぁ、と無意識に出た長い溜め息。こいつは俺を誘ってんのか。

しかし寝込みを襲うほど落ちぶれちゃいないだろ、と自分に言い聞かせ、寝苦しそうな妻の頬を手の甲でぺちぺち叩く。


「かごめー、起きろー」


キュッと眉をひそめて身悶えするかごめ。そのせいで更にはだけた胸元にぎょっとする。


「おい、起きろ」


慌てて理性を総動員させ、彼女の髪に指を絡めながら耳元で名前を呼ぶ。


「……かごめ」


「ふぁ……」


彼女は間の抜けた声を口からこぼしようやく起きた。ほっとしたのも束の間。次の瞬間、俺はかごめに力一杯抱き締められていた。


「……パパ…」


ぱぱ?聞き慣れない異国の言葉に首をかしげる。どうやら寝惚けているようだ。

同じ言葉を繰り返しながら首にかじりついてくる妻を優しく引き寄せた。


「どうした」


「…っ……っ……!」


嗚咽が耳に入る。泣いているのか?あやすように、ぽんぽんと軽くその背を叩く。彼女の次第に収まっていく呼吸に息をついた。


「パパ……」


なおも言い続けるその単語に眉が寄る。何だそれ、人の名前か?気になる。


「……かご」


「パパ…大好き……」


眉間のシワが深くなったのが分かった。おい、誰だそれ。

いや、ここで苛つくな。かごめは寝惚けているだけなのだから。泣き止んだことを察してそっと身体を離す。


「あ……犬、夜叉?」


「おう」


「そうだ!おかえり犬夜叉!ごめんね、なんか寝惚けちゃってて」


「……いや、」


もう一度愛しい笑顔を自分の胸の中に収める。


「ぱぱ、って誰だよ」


「え…」


「寝言で言ってた」


「あ、ああ…」


にっこり微笑まれて、眉間をちょい、と突つかれる。


「お父さんのことよ」


「……」


何秒前かの自分を消し去りたい。よりによって親父さんに嫉妬するとは…。


「あのね、夢でパパが出てきたの」


かごめ、って呼ばれてパパに抱き着いたら犬夜叉だった。


「あったかくて、優しくて…なんだか犬夜叉、パパみたい」


懐かしむように目を細めるかごめは、笑っているようにも泣いているようにも見えた。

ばーか、と一言呟いてその頭を撫でる。


「俺はお前の…夫だっての」


一瞬目を見開いて、驚いたような表情になったかごめは俯いてそうだね、とこぼした。


「けどな…、」


確か、かごめの親父さんは彼女の物心がついたときから居なかったはずだ。

そんな彼女が慕う父親に間違われたのは複雑だが、嬉しくもある。

俯いている彼女の顔をそっとあげて、愛されて育てられた愛しい女性(ひと)を見つめた。


「俺が親父さんの分まで、お前を大事にする」


―そして、お前を愛するから


強く抱き締めると胸の中で小さく頷かれるのが分かった。


抱き合っても心地好い空気。外の温度は、いつの間にか下がっていたらしい。







…いや、あくまで父の日の記念です、はいm(__)m

かごめちゃんのお父さんは原作で居なかったんですけど…

亡くなった、とか消えた、とかいまいちピンと来なかったので設定がかなり曖昧です(^-^;

お読み頂きありがとうございました!

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