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小説
泡沫

シリアス
(夫婦犬かご)
















「かごめさまーっ!」


「今日もお話、してください!」


小屋に七宝と数人の子供たちが入ってきた。


「今日はどんなお話が良いの?」


「おらはお姫様が出てくるのが良いぞ!」


不定期に開かれるこの読み聞かせ会は子供たちはもちろん、かごめの楽しみでもある。


「かごめさま早く早く!」


「う〜ん、そうねえ…」


頭に浮かんだのは、哀しいお姫様の物語。


『泡沫』


「帰ったぞー…って、何だこの状況」


今日は割りと早く依頼が片付き、久しぶりにゆっくり過ごせるなと帰ってみると、


「あ、おかえりなさい」


苦笑混じりの妻の笑顔が向けられた。彼女の周りに、七宝や村のガキ共がすがりつくように泣いている姿があった。


「ガキ泣かせてんなよ」


「違うわよ、ばか」


そう言いながらかごめは床を指差した。そこにばらまかれている何枚かの紙に絵が描かれているのを見て合点がいく。

どうやら異国の物語を話していたようだ。

異国の物語ということもあり、かごめはよく絵を書いて説明するようにしている。多分これらはそれの一部だろう。


「ちょっと哀しすぎたかしら」


泣きじゃくる子供たちを優しく撫でながらかごめが呟く。


―10人近くいるガキ共を一斉に泣かせる話って何だよ


いつもはお話の会など「ガキくさい」と鼻で笑うが、今回ばかしは興味の方が勝った。
















「いいわよ」


夕食も終わり、先ほどの物語を聞かせて欲しい、というと何処か嬉しそうに頷いてくれた。


「なんて話なんだ?」


「[人魚姫]ってお話」


「にんぎょ…?」


「こういうの!」


ヒラリと目の前にかざされたものは、さっき床に散らかしてあった紙の一枚。


「妖怪じゃねーか」


上半身は女、下半身は魚。半妖という可能性もあるなと思ったとき、笑いながら否定された。


「違うわよ、あくまで想像上の生き物なの」


「そいつが主人公か?」


「そう。彼女は人魚の国のお姫様だったの…」


――


海の下にある国が彼女の故郷でした。15歳の誕生日の夜、人魚姫は運命の出逢いを果たします。
それは船上でパーティーをしていた王子様です。


――


「なあ、[ぱーてい]ってなんだ?」


「う〜ん…この世界でいう宴のことかしら」


「船の上で宴か…身分の高え奴なんだな」


「まあ、貴族だしね」


で?と目で話の続きを促される。その好奇心に満ちた瞳は、先ほどの子供達の反応に似ていた。


「でもね、その日は嵐だったの」


そんな彼を見て少し笑ってから話を続ける。


――


大きな波がその船を襲い、王子様は海に落ちてしまいました。

人魚姫は彼を助け、砂浜にその身体を横たわらせた後、海へ帰りました。


――


「なんで帰っちまったんだよ」


「そりゃー人魚と王子様だし…海と陸では住む世界が違うでしょ?」


「…そう、か」


「でもね、人魚姫はある決心をするの」


――


彼女は海の魔女のもとを訪ね、声を失う代わりに人間の足を手に入れました。

そう、彼女は人間となり、王子様の近くに居ることを決意したのです。

しかし、彼女は忠告をひとつ受けます。それは、もしこの恋が実らなければ人魚姫は泡となり消えるだろう、ということでした。



無事王子様に逢うことが出来た彼女ですが、再び逢った彼には婚約者がいました。そして彼は人魚姫に言うのです。

「彼女はね、僕が船から落ちたときに助けてくれた女性(ひと)なのさ」と。

それは違う、と否定しようにも声が出ない人魚姫。ですが、幸運にも王子様に気に入ってもらい、彼の侍女となりました。


――


「なんで下半身が変化するのに喉に影響が出んだ?」


「そ、そこはお話だから多目に見てよ」


「…てか、嫌な女だな。嘘ついて婚約者になるとかよ」


何処か表情が暗い犬夜叉に気付く。そんなにそのことがショックだったのだろうか?

尋ねようとすると続きを催促された。

なんとなく頭に引っ掛かるものを感じながらも、物語のクライマックスを語る。


――


とうとう、王子様と娘の結婚式が行われることになりました。

悲しみを覚えながら、人魚姫は夜に外に出ると、目の前に広がる海から誰かが泳いできます。

よく見ると、それは自分の姉たちではありませんか。

姉たちは言います。


「私たちの髪と引き換えに短剣をもらった。この剣で王子の胸を一突きにしなさい」


愛しい人の流した血によって人魚の姿に戻れる、というのです。

返事を返せないまま、人魚姫は夜中、王子様の寝室に訪れます。

その安らかで愛しい寝顔。一時だけの儚い恋。

短剣を振りかざすも、振り下ろすことは出来ず。
落ちたものと言えば、人魚姫の清い哀しい涙。

愛しい人を殺すことは出来ない、彼女は手から短剣を離しました。

そして、白い泡となり始めている足で窓に向かいます。

[姉さん…ごめんなさい。王子様、さようなら、…お幸せに]


――


「そして、人魚姫は海へ身を投げ泡となりました……って、どうしたの?そんな顔して」


「……いや、」


犬夜叉は眉をしかめ、俯きながら答えた。どこか苦しそうな、哀しそうな顔をして。


「続きはねえのか?」


「え?…えっと、その後人魚姫は空気に溶けて風の精になるの」


「そうか…」


さすがに子供たちのように泣きはしないが、何か堪えているようにもみえる。

そっと肩に手を触れると、強く握り返された。


「泣いても良いのよ?」


「誰が泣くかよ。…ただ哀しい話だと思っただけだ」


「でしょう?泡になっちゃうなんて、ね…」


「ちげーよ。それもだけど俺が言ってんのは…」


ふっと細く息が漏れる音がした。手は強く握り締めているのに、犬夜叉は決して視線を合わすこと無く呟く。


「想いを伝えられなかったってことだよ」


種族が違っても、生きる世界が違っても、誰かを想う気持ちはそんなもんで割りきれねーだろ。

たとえ、そいつに契り交わした奴がいてもよ、


「てめーの気持ち大事にしてやった方が良かったんじゃねーか?」


まさか、犬夜叉が童話にここまで深く考えてくれるとは思わなかった。

嬉しくも、可笑しくもあって、彼の話をもっと聞きたくて。


「でも、どっちにしても実らなかったら死んじゃうのよ?」


「だったら尚更言うべきだろ。伝えねえで死んだ方がぜってーツラい」


必死に訴えるように話す彼。少し心配になって顔を覗き込むと、その瞳は微かに揺れていた。


「俺は、……」


重ねられていた手が離れ、私の腰に回された。いつもより少しキツめに抱き締められて、初めて彼の鼓動が速いことを知る。


「…お前に言えて、良かった」


やっと分かった。

種族が違うから恋を諦めなければいけないのなら。私と犬夜叉は今、結ばれてはいない。

犬夜叉はきっと自分と人魚姫を重ねていたんだろう。彼がお姫様で私が王子様なんてちょっと面白いけど。


「じゃあ…犬夜叉が人魚姫だったらどうするの?」


「…言った後に泡にでもなる」


「何を言うの?」


「っ!…分かってんだろ」


「うーん…分からない!」


お前なあ、と不貞腐れる犬夜叉。その頬がほんのり赤いのがとても可愛らしい。そっと笑みを忍ばせると、私の顔に影が射した。

何だろう、と思って顔をあげると甘い瞳が目の前にあった。

ゆっくりと閉じられるそれに一瞬息を飲む。端正な顔立ちのせいもあって、例えようがないほど美しい。

つられて目を閉じると、間をおかずに感じた唇の熱。


「……好きだ」


少しだけ唇を離して呟かれる。たった一言、しかもありふれた言葉なのに。

彼に言われたということが堪らなく嬉しくて愛しい。


「…もう一回、言って」


「…っ好きだ、かごめ」


再び私の身体に回された腕。彼の体温が心地よい。


「…泡になんか、させないからね」


「……おう」


哀しいお姫様の物語。

想いを口にすることが、どれだけ大変で、どれだけ大切なことか。

優しくも哀しい人魚姫は、泡となり、風の精となり、きっと王子様を見守っていたことでしょう。



実らない想い


健気な心


そう、それは




泡沫の恋













事の発端は「金太郎」←
どんな話だったかなーと考えてたら「人魚姫」にたどり着きました\(^O^)/

思考回路の意味不明さ笑

報われない童話って珍しいよなあ…と思ったんですけど、そうなんでしょうか?´`;

というか、話をかなり要約したんですけど…あってるんでしょうか?(´Д`


そしていつの間にかかごめちゃん視点笑


お読み頂きありがとうございます!

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