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小説
手探りで

シリアス〜ギャグ甘?←
犬かご&少弥珊















目を開けたはずだった。

それなのに、目の前に広がるのは暗闇。


「かごめ?」


貴方の声はするのに、どうして姿が見えないの。


『手探りで』


「かごめちゃんの目が見えなくなった!?」


夜が明けた頃、帰ってきた珊瑚に怒鳴られた。


昨日は宿目当てに尋ねた村から2つ依頼が来ていて、二手に別れたのである。

七宝は村に置いていき、弥勒と珊瑚は村の東へ。俺とかごめは西へ向かった。

雑魚妖怪は一発で片付けたはずなのに…。




しばらくして、かごめの診察を終えた珊瑚が小屋から出てきた。


「原因は毒の煙だね」


「昨日の煙妖怪のせいか?」


「ああ、そうかもしれないよ。その類いの妖怪は厄介だからね。」


「厄介、というと?」


「煙の妖怪だったんだろ?そういうのは目とか肌から毒が染みるんだよ」


どうやら戦った相手が悪かったらしい。その毒は俺には特に影響はないが、かごめには影響大ありだったようだ。

つい舌打ちが出る。その場に弥勒と珊瑚が居なかったからといって、かごめをこんな目に遭わせちまうとは…。


「とりあえず、かごめさまの目が治るまでこの村に留まりましょう」


「ああ。あたしもそれがいいと思う」


「のう…」


真剣に話し合う三人の間におずおずと入る七宝。


「治るんじゃろうな…かごめの目は…」


目に涙をうっすら浮かべ、この幼子は泣くのを我慢しているようだ。


「七宝、大丈夫だよ」


「ああ。珊瑚、七宝と楓さまの村に行って薬草をもらってきてくれないか?」


「分かった。さあ、七宝!かごめちゃんを助けにいくよ!」


珊瑚がその小さな背中を軽く叩くと、「おらがしっかりせねば」と七宝は拳を作った。


「じゃあ行ってくるよ」


「雲母はどこじゃ?」


「たしかかごめさまと遊んでいましたな」


小屋の中では雲母を抱きかかえるようにしてかごめがうずくまっていた。


「なるべく早く戻ってくるよ」


「頼む…珊瑚」


「!…ああ」


きりっとした面持ちで出かけた珊瑚が戻ってきたのは一時間もかからなかった。

すぐさま包帯に薬草を浸し、かごめの目に巻く。

よほど不安なのだろう。先ほどから犬夜叉の衣の裾を離そうとしない。すがりついて震える少女を見ていると泣きそうになる。


「かごめ…すまねえ」


仲間が居ることも忘れ、ただかごめの不安を和らげようと抱き締める。しばらくそうしていると、小さな寝息が聴こえた。


「かごめさまが起きたら散歩に行ってみてはどうだ、犬夜叉」


散歩は心にも身体にもいいものですから、と微笑む弥勒はまるで徳の高い法師のようだ。


「あたしらはここに居るからさ。行っておいでよ」


「…分かった」


良い仲間を持てたことにしみじみ感謝する。それもコイツのおかげなんだな、ともう一度彼女を抱き締めた。




――


起きたかごめちゃんを散歩に連れて行った犬夜叉を眺める。アイツはいつからあんなにも素直になったのだろうか。

そして、そんな不器用な彼に愛されるかごめちゃんが少しだけ羨ましい。


「珊瑚」


「なんだい?」


弥勒に話しかけられ、仲間の進展に馳せていた想いを一旦中断する。


「あの男は、いつからあんなに素直になったのだろうな」


「!…あたしも同じことを考えてたよ」


「そうか、気が合うな珊瑚」


「はいはい」


それにしても、と呟く。


「かごめちゃんのことが本当に大好きなんだね、犬夜叉」


かごめちゃんに何かがあると見ているこっちまで不安になるほど余裕がなくなるからね、と弥勒を見ると真剣な眼差しを向けられていた。


「珊瑚、私とて同じだ」


「法師さま?」


いつの間にか両手を握られていた。目を白黒させながら彼の次の言葉を待つ。


「お前に何かがあったら…私はきっと目を宛てられないほど狼狽えますよ」


「いっ、いきなりどうしちまったのさ…法師さま…」


頬に熱が昇っているのが分かる。彼の突然の不可解な行動に慌てる。すると、ぱっ、と手を離された。


「ですから、羨ましいなどと思うな」


「!?」


「今あの二人を眺めてそう思っていただろう?」


「なっ、なんでそれを…っあ!!」


「あれくらいいつでもやってやりますよ」


さて村を散歩するとしますか、と笑いながら小屋を出ていった弥勒に呆然とする珊瑚。


「あっ…あのばか法師〜っっ!」


我に帰った珊瑚は、先に出掛けた法師を追いかけるため外に出るのだった。


それは遠回しな彼のお誘いだったと彼女が気付いたか、否か。


――


ゆっくり、ゆっくり歩く。目的地までは普通なら五分とかからないが、かごめに気を配りながらだと時間がかかる。

一度背負(おぶ)ることも提案したが、やんわりと断られた。自分の足で歩きたいらしい。

いつ治るか分からないから慣れておいた方が良い、と力無く笑うかごめに胸が痛んだ。

自分の無力さを呪う。あの時、かごめと共にいたのが珊瑚だったら…、弥勒だったらこんなことにはならなかったかもしれない。

だけど、それは今更悔やんでも遅すぎる話。だから今は彼女が不自由に思わぬよう気を遣っていたいのだ。

枝や小石に注意を払い、根が飛び出ているところは彼女を抱えて目的地まで歩く。


「着いたぜ」


「お花…畑?」


「おう、よく分かったな」


「人間の鼻もバカに出来ないでしょ?」


弥勒に教えてもらった花畑。想像以上に広く、また花が咲き乱れていた。

ふと右袖から重みが消える。かごめは一歩一歩、確かめるように歩き始めた。

なにも言わずその姿を眺める。口出ししてはいけないことくらい分かっていた。それにこの場所だったら転んでも大丈夫だろう。


花畑の中央付近まで歩いてかごめは止まった。その手は何かを探すかのように、宙を彷徨う。


「…かごめ」


すぐさま隣に行き、手を握ると強く握り返された。ほぉ、と息を吐き出しているところを見ると、かなり恐怖を抑えていたらしい。


「無理すんなよ」


「…ん」


小さく頷く頭に手を置く。しばらくそうしているとかごめが口を開いた。


「犬夜叉、包帯とって」


「いいのか?」


「うん。なんか薬草の臭いでお花の匂いが少し消されちゃうから」


「分かった」


頭の後ろにある結び目に手をかける。珊瑚はキツく結んだようだったが、爪を立てると簡単に解けた。


「…見えるか?」


「前よりうんとマシよ」


にこりと笑いかけられるが、その瞳は何処か焦点が合っていないように思える。

無性に苦しくなった。こんなに近いのに、こんなに傍に居るのに認識してもらえないなんて。


「……すまねえ」


抱き締めた。さっきよりも大分強く。

何も見えないかごめの方がきっと不安なのに、見てもらえないことに俺も不安を感じる。

このまま、もし、かごめの視界が暗いままだったら…俺はどうお前に償えばいいんだ。


「…犬夜叉?」


ほんのりと頬を染める彼女の目尻に唇を押し当てた。

突然のことに目を閉じた彼女の両まぶたにも同様に口付ける。早く毒が抜けて、俺のことが見えますようにと願いを込めて。


「あ、あの…犬夜叉…」


唇を離すと何処かソワソワしている照れたかごめがいた。


「どうした?」


「あの……るから…」


「あ?聴こえねー」


「だから!あの…見えてるから…」


「は?」


詳しく聞きたいような、聞きたくないような…心臓がうるさく主張するのは、なんとなく彼女が言わんとすることが分かったからだ。


「見えるよ…少し霞むけど…」


その赤い衣も、白銀の髪も、とかごめの華奢な手が俺に触れる。


「その黄金色の瞳も」


とても優しく微笑まれた。

…消えたくなった。いや、今ならきっと、このとてつもない羞恥で死ねる。

頭をかかえてその場にしゃがみこんだ。見なくても顔が赤いことがよく分かる。


「あの、ごめんね、心配かけちゃって…」


申し訳なさそうに隣に座るかごめ。全くだ、という文句は言わないことにしておこう。


「早く、完治するように頑張るから!」


そう言って意気込む彼女を見て、知らず知らずの内にため息が出る。


「てかよ…そういうことは早く言え、ばか」


「え…?ちょっ!犬夜叉!」


さっき解いた包帯をもう一度かごめに巻き付ける。


「えー!もっとお花見せてよ!!」


抵抗するかのようにバタバタ動くかごめだが、それが本気ではないことなどすぐ分かる。


「っざけんな!完治するまで外すんじゃねえぞ!!」


ギュッと最後にキツめに縛り、今度は後ろから抱き締める。

何が何だか理解できていないかごめの耳に口許を寄せた。

…わざとではないだろうが


―俺を騙した罰、だ


ふっ、と息を耳に吹き掛けるようにかごめに囁く。


「約束してくんねーか?」


「な、…なに?」


込み上げてくる笑いを必死に噛み殺す。照れを隠そうとする彼女がなんとも可愛らしくて。


「それ、外れたらよ」


「外れたら…?」


「一日中俺だけ見てろ」


「!」


固まっているかごめを抱き上げて歩き出す。そろそろ帰った方が時間的にも俺の理性的にも良さそうだったからだ。


「帰りはこれでいいか?」

すでに横抱きにして歩いているとかごめにひとつ、胸元を叩かれた。


「寂しかったんでしょ」


「!」


「あ、図星?」


「な、なんでだよ…」


「鼓動、速いわよ」


クスリと笑われ、思う。俺はコイツに敵うことはないだろうな、と。


「…分かってんならいい」


「寂しがり屋さん、ね」


「うるせ」


小屋に帰るとぎこちない弥勒と珊瑚の姿があった。それをかごめに耳打ちすると「楽しかったのかな」と控えめに笑った。


「よく分かるな」


「雰囲気で分かるわよ」


とても楽しい、と頭を寄せられてドキリとする。そんな姿をニヤけている二人が見ているなんて気付かずに。

包帯越しの彼女の瞳を思い浮かべて、微かに笑ったのだった。




翌朝、かごめの目が治ったと分かった途端に犬夜叉と彼女の姿が消えたのは言わずもがな、である。








何も見えない状況って怖いよね…

いや、ただただ包帯好きなんだな←

なんかこう…憧れる笑

だから、決して、目隠しをしたかったというわけではないんですよ!!

そうなんですよ!(^Δ^;)

こんなあとがきまでお読み頂きありがとうございました!

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