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小説
狂い月

甘甘(夫婦犬かご)













「おかえりなさい」


そう言って自分を迎えてくたのは、愛しい妻の笑顔だった。



『狂い月』



「お前、起きてたのか。」


時は丑三つ時。妖怪退治の依頼を済ませた後、村人にもてなされて帰宅が遅くなったのだった。



「うん、犬夜叉の帰りが遅くて心配だったから…」


そんなことで待っててくれたなんて…

嬉しさと申し訳なさが胸をつく。

自分の帰宅をこんなに暖かく迎えてもらう日が来るなんて、昔は考えもしなかった。


「ばーか、あんな雑魚妖怪に俺がやられるわけねえだろ。」


「はいはい」


笑いながら、俺の手荷物に目を向ける。


「わあ!こんなにいっぱい!しばらくは食材に困らないわね!」


大根や干し柿、干し肉などがごっそり入った袋を覗き込む。


「これ、どこに置けばいいんだ?」

「ん〜。こっちかな?ありがとう!」

「おう。」

「じゃあ、ご飯持ってくるね!」



とたたっと台所に駆けていき、飯を運ぶかごめ。


――幸せだな、と感じる瞬間。










「でっけー鎌もっててよ。アイツが暴れてたんなら村も大変だったよな」



「へえ〜、大変そうだったわね…犬夜叉、お疲れさま!」



「かごめは何やってたんだよ」


「村の子達に薬草について教えてたの。みんな可愛いかったわ!」



「お前、本当にガキ好きだなー」



「あら、妬きもち?」


「んなわけねえだろ」




クスクスと笑うかごめ。愛しさは尽きることなく、胸に灯り続ける。



夏の夜は明るい。月のせいか、小屋には柔らかな光が差し込んでいる。



穏やかな時のなかでくつろごうと襟を緩める。



と、かごめが声をあげた。



「あ〜!犬夜叉、あんた怪我してるじゃない!!」



「あ?あ〜、これか?」


右肩から左の脇腹まで伸びた切傷。と言ってもかすり傷程度にしか感じない。



「たいした傷じゃねえよ」


「ばか!悪化したら大変じゃない!」



そう言って白い箱を持ってきた。薬独特のツンとする匂いが鼻をつく。




「痛くないの?」


「痛かねえっての」



もう、と呆れながら俺の襟に手をかける。


「ちょっとごめんね。」



衣がはだける。思ってたより傷が浅かったのに安心したのか、かごめが息を吐く。



その吐息がさらされた肌にかかりくすぐったい。



「しみるけど我慢してね〜」


と言いつつ、傷に消毒し始める。


これが、予想外に痛かった。





「…っっ!!?」


「あ、大丈夫?」


心配そうに覗きこまれる。その表情に…正直ドキリとした。



「だ、大丈夫に決まってんだろ!//」



「そう?じゃあ、もう少し我慢ね!」



容赦なく傷に消毒液を塗っていく。


真剣なその表情さえ、可愛いと思う俺はびょーきか?





「一応包帯も巻こうか?」

一通り処置が終わった後、白い箱を片付けながら問われる。




「別にいらねえよ」



「う〜ん、やっぱり巻こう!」



「無視かよ!」




ニコニコして包帯を探す姿。その横顔が窓から差す月明かりに照らされて、息を飲んだ。







本当に綺麗だと思った。




弥勒に言ったら「またですか」と言われるだろうが、事実なんだから仕方がない。



「…かごめ」


「ん?なあに?」




振り向きながらにこりとする。特に何があるわけでもなく、無意識に呟いていたことに気付く。



「あ…なんでもねえ…」


「そう、変な犬夜叉。」




くすっと笑って、また包帯を探し始めた。






急に沸いてきた焦燥感にも、緊張感にも似た感情。





脈がどくどく鳴って、全身が熱い。



俺は、まだ少し灯っていた囲炉裏の火を消した。













ふっと消えた小屋の中の明かり。月が明るいから目は見えるけど、包帯が探せない。


火を消したであろう人物に問おうとしたとき、





ふわりと体を包まれた。犬夜叉の腕が軽く腰の前で交差する。


まだ、衣をきちんと着ていないのか背中越しに素肌の熱を感じた。





「犬夜叉……?」


「…」


「どうしたの?」


「…」




いやいやとでもするように犬夜叉が頭を振り、首筋に顔をうずめた。




…この速い心臓の音は、いったいどちらのものなんだろう。



夫婦になったからと言って、こんな甘い雰囲気に慣れたわけではない。

少しどぎまぎしながら包帯を探すのを止めた。



「…なにかあったの?」


なるべく普段通りにしようと思ったが声が少し震える。



「……いや…」



耳元で低く、少し掠れた声で返事が返ってきた。



そんな声に更にどきどきする自分は、よっぽど犬夜叉が好きなんだと思う。




「…座ってもいい?」



こくん、と小さく反応が感じられたので静かにその場に座る。



そうじゃなければ、いつしか足の震えに気付かれてしまうと思ったからだ。



座っても犬夜叉は離そうとしない。


顔を見ようと上を見上げると目があった。




手が緩み、犬夜叉の膝の上で向かい合うような形で見つめ合う。








……綺麗な瞳…


黄金色の瞳は暗い中でもよく分かるほど輝いていた。


その瞳が、少し潤んで見えたのは気のせいだろう。



しばらく見つめていると、ゆっくりと体が後ろに傾いた。











かごめの頭が床についたのを確認して肩から右手を離す。



左手で床に押し付けて、右手でかごめの両手をまとめて持つ。



自分の銀色の髪が床に流れて、かごめの黒髪と絡まるのが横目で見えた。





ひどくぼんやりする。


頭の芯が熱を帯びて、視界が揺らぐ。



しかし、瞳はかごめの驚いた顔をちゃんと捉えていた。




「……かごめ…」



自分でも驚くほど低く、甘い声が出た。


かごめはその声に我に返ったようだった。






「い…いぬ、や…しゃ?//」



月明かりにかごめの朱色の頬が照らされる。




胸がうずく。




脈の音がうるさい。




内側から熱が出てきそうだ。











『それはですね、欲情と言うんですよ、犬夜叉。』


どっかで弥勒の声がした。





これを止めるだけの理性は、もう俺には残ってねえみてえだ。







右手を胸近くに持ってくる。


かごめの小さな両手は右手に引っ張られ、もうされるがままである。







その小さな愛しい手を軽く唇で挟む。




なんか、俺…もう止まりそうにねえ…。















噛まれたわけでもないのに食(は)まれている指先が痛い。


痛いの胸の方かしら…




もう、心臓の音が犬夜叉に聴こえるんじゃないかって程大きい。





息が自然とあがってくる。肺に充分な酸素が行き渡ってないのだろう。




「い、犬夜叉……ど、うした…の?///」






予想以上に言葉がうまく言えない。ほぼ喘ぐように呟く。









ちろりと黄金色と視線がぶつかった。


その伏せがちな瞳は驚くほど色っぽくて。



もう思考回路がめちゃくちゃだ。その瞳に射ぬかれたように動けなくなった。





「……いぬや、しゃあ…」















絞り出されたような声に、反応する。


耳が良いってのは案外やっかいかもしれない。


小さな呟き声さえちゃんと聴こえる。

そんな色っぽい声で名前呼ぶんじゃねえよ…






肩を押さえつけていた手で、きちんと着こなされているかごめの襟ぐりを広げる


真っ白な巫女装束と同じくらい白い肌と鎖骨が目にはいる。




その白さに吸い込まれるようにして首に熱っぽい唇を押し当てる。



いい匂いがする首もとにゆるゆると軽く歯を立てる。

「……っ!///」

その小さな反応にすら欲情される。






緩めた襟ぐりを更に前に開こうとしたとき、










「だ…っ、だめ…っ!!」





かごめはそこで初めて、拒絶を見せた。













反射的に放った言葉。


犬夜叉の動きが止まった。


もしかしたら数秒の間だったかもしれない。


でも私には長い時間が流れたように思えた。





その沈黙を破ったのは犬夜叉だった。




両手が急に強く引かれる。

体が浮かんで、起こされた。




勢い余って犬夜叉のさらされた胸におでこをぶつけてしまった。







顔をあげて、犬夜叉を窺おうとすると目元を長い指で拭われた。


気づかない内に泣いていたらしい。






何か言葉を発そうと思ったとき、強く優しく犬夜叉に抱き締められた。



―いつもと同じ、犬夜叉の抱き締め方。





「すまねえ…」





耳元で声がする。

今にも消え入りそうな、儚い声で犬夜叉は鳴いた。




それはまるで仔犬みたいで、自由になった両手で犬夜叉の首に手を回した。




「…大丈夫よ」





その声に、犬夜叉は、はぁと息を吐いて更にきつくかごめを抱き寄せた。





「いったいどうしちゃったの?」


いまだ原因不明の犬夜叉の行動に苦笑混じりで聞いてみた。




「……した…」





「え?なあに?」




「〜〜っ…!…よ、欲情した。」



簡潔な回答に思わず笑ってしまった。



「!…んだよ…///」



「ううん、なんでもない…」




犬夜叉の逞しい胸からは早鐘のように、心臓がなっている。

愛しい、と思った。




「……悪かったな」


「?」





ぽそりと呟かれた言葉に首をかしげる。


意味を理解していないことが分かったのか、犬夜叉がため息混じりに言葉をこぼした。



「お前、嫌だったろ…?怖がらせちまってわりい…。」



泣かせてしまった事を謝っているらしい。





確かに怖かった。


いつもの犬夜叉ではないみたいで…。



自分が知らない犬夜叉が怖かった。




あの

色っぽい瞳が、

声が、

仕草が…





改めて、目の前にいるのは一人の男なのだと実感した。







「…怖かったけど…もう大丈夫だよ」




胸から顔を離し、すまなさそうにしている瞳を見て笑いかける。




それを見て、一瞬驚いた犬夜叉の顔はすぐに苦笑に変わった。





「ばか…」



もう一度優しく包まれ、言葉の続きを待つ。





「…無理すんなよ」





その優しさに胸がいっぱいになる。不器用だった犬夜叉の優しさは、最近では素直で、愛されている感が伝わってくるようになった。



幸せすぎて、涙があふれてきた。






「…大好きだよ、犬夜叉……」






まだ熱い胸にそっとつぶやくと、ばか、と言われた。



「んなこというんじゃねえよ…」


「なによ〜」



少しムッとした顔で下から軽くにらむと、おでこに口付けをされた。


赤く染まった私の顔を見るそのイタズラ気な瞳は、先ほどの色気を帯びていた。














「…また襲いたくなっちまうだろ」










まだ明けそうにない夏の短い夜。

一人の男を狂わせたのは、月の光か、愛する女か。






後日談


「なあ、弥勒。おめえ、珊瑚をおっ…押し倒したことあるか?//」

「(こいつ…爆笑)ありますよ?」

「泣かれたか?」

「涙目で殴られました。」

「そ、そうか……」

「かごめ様に泣かれましたか?」

「っま、まあな…//」

「そういう時はですね…」


要らない知識を増やす犬夜叉であった。











再びブログからの引用笑

過去ブログでは一番甘甘な話かな?

どこまでがギリッギリセーフか分からんのう…でも多分ここは大丈夫☆笑

書き方が初期っぽい( ̄▽ ̄)


一瞬理性吹っ飛ぶ犬くん。結局お預け、ってのが好きなんですよ笑

ここまでお読み頂きありがとうございました!

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