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小説
戦場で♭


パラレル

騎士犬×かごめ姫

暗いです、ひたすら。












「あ、ありがとう…」


「いえ、お怪我は?」


「貴方のおかげでないわ」


「それは良かった」


助けてくれたのは今朝方この城に訪れた旅人だった。彼はつい階段で足を滑らせたかごめの腕を引いてくれたのだった。


「姫は見かけによらずおてんばなのですね」


くすり、と笑む顔はまるで王子様のようだ。


「よく言われるわ…あ、お名前を聴かせてください」


「いえ、名乗るほどの者ではありませんので」


「そう言わずに…是非」


しばらく頼み込んでいると困ったように頬を掻きながら口を開いてくれた。


「本名は言えませんが…みな私のことを『犬夜叉』と呼びます」


「犬夜叉…様…。覚えておきますね」


「…また逢えるか分からないのに、ですか」


おかしな姫君だ、と再び上品に笑う。しかしその優しげな表情とは反対に瞳は切なさをたたえていた。


『戦場で』


「姫、これを…」


執事と付き人に渡されたのは黒光りする銃器だった。


「…私も、持たなければいけないの?」


「護身用です。かごめさま、私とてこんなものをあなた様には渡したくなかった…」


「いいの、あなた達のせいじゃないわ」


この国は隣国と非常に仲が悪い。いざこざなんてしょっちゅうだったが、今回はその程度の話ではない。


「いつ…攻めるの?」


「攻めはしません。こちらは和解を望んでいるのですが、ね」


執事である弥勒は首を横に振り、付き人の珊瑚はそうもいかないのだと苦しげに話す。


「分かったわ。これを使わないことを祈りましょう」


「…はい」


「珊瑚ちゃん、後でもう一度射撃を教えて」


「かしこまりました…」


彼らが出ていった後、私は窓を開けた。いつもは気持ちの良い宵風が、今日は妙に冷たい。


「……犬夜叉様」


ふと口から出た名前は、つい先日この城に来た旅人の名前だ。しかし彼はふらりと訪れ、ふらりと消えてしまった。


「何処にいるのかしら…」


冷たく光り、重量感を与える銃をそっと一撫でする。それはどんなものよりも不気味なほど、よく手に馴染んだ。

















「うわぁぁあぁあああ」


悲鳴とも、警報器とも思える音に目が覚めた。


―来た


まだ夜は明けていない。夜に襲ってくることは最初から予想していたので、頭の中で手順を復唱する。

布団から出て、銃を手にする。昔から珊瑚に射撃術を教えてもらっていたので、射撃は得意な方だ。


隠し通路を通って外に出る。そこで弥勒と珊瑚とおちあう計画だった。


「……っう」


外は悲惨だった。倒れている人はもう動かないことが一目瞭然だ。


「っひどい……っ」


自然と頬を伝う涙。何故憎み合わなければいけないのだろうか。和解という選択が何故出来ないのだ。

ギリリと銃を持つ手に力が入る。こんなものを持って救えるものは…一体なんなのだ。


その時だった。


後ろで気配を感じた。

振り向く。

銃を構える。

睨み付けた先には、一人の男。そして男もまた銃を構え、かごめを睨み付けていた。


「動くな」


「動かないで」


今は月が雲に隠れ、顔がよく見えない。しばらく構え合っていると、月明かりが差し始める。


「!!」


白い月明かりに照らされたのは、一度きりしか逢ったことの無い…


「いぬ…や、しゃ様…?」


「…お久しぶりです」


愕然とする。しかし頭は冷静に状況を判断していた。


「一体何者なの、貴方」


「名乗るほどの者ではありませんよ、姫」


「っふざけないでよ!!」


「…至って真面目なつもりですが」


特に貴女は知らなくてもいい、と笑う。そう、あの時と同じ表情で。


「城の者を何人手にかけたの?人殺しさん」


「いちいち数なんて覚えちゃいませんよ」


そうそう、と彼は視線を空に泳がす。その一瞬の隙を付こうと思ったのだが向けられた銃口に動くことは叶わなかった。


「この城には腕の立つ者もいるのですね」


意図が掴めず、眉をひそめる。そんな気持ちを察したのか、左手の人差し指をこちらに向けて口を開く。


「確か名前は…ミロクとサンゴ」


「…っ!?」


無意識にトリガーに手をかける。呼吸が上手く出来ない。頭に銃口を向けたいのに定まらない。何よりも、手が震える。


「殺しますか、私を」


「っは…っは、は…」


「構いませんよ、貴女に殺されるのならば」


そう言いつつも銃を降ろそうとはしない。喰えない人ね、と思いながら嘲笑する。

―こんな風に出逢いたくなかった、なんて

乾いた涙痕が再び濡れる。これが何を意味する涙かは分からない。


「…申し訳ない」


唐突に謝られ、急いで視界の揺らぎを瞬きで正常に戻す。


「私の汚れた手では、貴女の涙は拭えない」


「っ!」


「そんな感情、捨ててください、姫」


「…私の勝手よ」


「そうもいきません」


普通の会話をしているという錯覚さえ覚える。目の前には人殺しの道具を構えられ、構えているというのに。


「犬夜叉様、私は……」


「言うな」


続けようとした言葉をばっさりと切り落とされる。叩きつけられた命令口調は、今までの敬語より自然な感じがした。


「でも…っ」


「取り返しがつかなくなる。…言うな」


ぼやける視界に映った彼の唇は、哀しいほどに震えていた。


「…出逢わなきゃ、良かった」


「そんなこと…っ!!」


「分かれよ」


ふっと少しだけ口角をあげて笑う彼はとても穏やかだった。


「そう、思わなきゃ…やってけねえだろ…?」


「……そうね…分かった」


銃を持っていない方の手を差し伸ばされる。私はそれに自分の手を重ねた。迷いはなかった。

静かに手を持ち上げられ、静かにキスを落とされる。

自分はそんな感情「捨てろ」と言ったくせに。


「私が旅人の成りで城を訪れた目的は、貴女を殺すことでした」


再び敬語に戻った彼はとつとつと語りだした。


「国王からの命です。かごめ姫を亡き者にすれば、この国に大きな打撃を与えることができ、戦力は落ちるはず、という考えです」


「…その時目的を果たせばよかったじゃない」


「殺せたら今の私は存在しませんよ」


「それもそうね」


「あの時、殺すべくは…己の心だったと思います」


「…心?」


ええ、と言いながら彼は口元に寄せていた私の手を、自身の胸元へと当てる。


「貴女への想いと、貴女を殺せない弱いこの心をですよ」


「犬夜叉様……」


東の空が白じんできていた。どうやら夜明けは近いようで。相変わらず銃を構える二人の影を徐々に伸ばしていく。


「…タイムリミットです」


「そのようね」


視線と握られたままの指が絡む。


「お名前を教えて頂けますか?」


「いつ逢えるかも分からないのに、ですか?」


「逢えた時に名前を呼びたいじゃない」


「…可笑しな方だ」


固く握り合った二人の手は、まるで何かを祈るかのようで。

お互いの体温を心に刻み、

離れた。


「…またいつか逢いましょう、かごめ姫」


「次に出逢ったときは…かごめ、って呼んで頂けますか?」


「では私のことは犬夜叉、とお呼びください」


「…ええ」


辺りはひどく静かだった。まるで、二人のために時が止まっているかのように。


「さよなら、犬夜叉」


「さようなら、かごめ」














鳴り響いた銃声は、透き通った空にこだました。


静かな、朝だった。
























戦場で




出逢ったあなたは



敵でした




















なんだろう…私の書くパラレルはとことん暗い←


次は幸せパラレル書く予定です笑


これは昔、友達がノートに書いてた詩をもとに作りました\(^O^)/

最後の詩とかそうです

あ、ちなみに弥勒珊瑚は死んでません。一応。

ここで説明する悲しい感じ…orz

イメージは犬夜叉は朔犬バージョンです笑

とか言っても、あまり彼らしくないというか…まあ紳士な感じが書きたくて笑


お読み頂き、ありがとうございました!

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