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小説
むぎわらぎく

シリアス(夫婦犬かご)





















『むぎわらぎく』



初夏ののどかな昼下がり。

辺りは花の良い香りに包まれている。


今、隣には花畑にしゃがみこむ愛しい妻のはしゃぐ姿がある。


風が吹くたびに花びらが舞い上がり、なんとも幻想的な景色を魅せてくれる。



「見てみて!この花、犬夜叉みたい!」


「はあ?」


その手元を覗き込んでみると、そこには中央が黄色い赤い小さな花が咲いていた。

どこかで見たことがある花だった。



「この花…」


どこでだっただろう…と記憶を辿っていると、かごめが嬉しそうにその花を見て話す。


「赤い衣に、黄色い瞳。ね?犬夜叉そっくり!」


子供のように無邪気に笑うかごめ。

そして、その優しい笑顔を見て思い出した。


「なんていう花なんだろう?」


「…『むぎわらぎく』っつうんだ。」


「え?」



不思議そうに見つめ返してくるかごめの隣に座る。


「ガキの頃、屋敷の庭に咲いてたんだ。名前は…おふくろから聞いた。」


「そっか…」


二人の間に柔らかな風が吹く。


「十六夜さん…どんな人だったの?」


「おふくろ、かあ…」


かごめの家族には何度も会ったことがある。
いい家族だな、と心から感じていた。

それに比べて、俺は家族ってやつには程遠いものだった。

その中でも、おふくろだけはいつも味方でいてくれた。

愛を教えてもらった最初の女性(ひと)かもしれねえ。
でも、ガキの時の話だし記憶もすでに薄らいでいる。




「犬夜叉?」


ハッと現実に戻された。

大丈夫?と心配気に尋ねられる。

どうやら思い出に浸っていて呆けていたようだ。


「…いや。」


少し微笑むと安心したように笑う。



俺の傍にいてくれる

いつからかかごめの隣が、俺の居場所になっていた。


俺に微笑みかけてくれる

その笑顔が愛しいと思ったのは、いつからだろう。



俺を愛してくれる

その愛はまるで、おふくろのように優しくて、暖かくて…。


「かごめ…みたいな人だったよ。」


「やだ!十六夜さんには一生敵わないわよ!」


くすくす笑う姿に、おふくろが被るのは気のせいなのだろうか?











『犬夜叉。これは『むぎわらぎく』というのですよ。』


『むぎわらぎく?』


『そう。初夏から秋にかけて咲く菊の仲間なのです。』


『へえ、小さいね。』


『そうね。この花の花言葉を教えてあげる。』


『はなことば?』


『ええ。それはね……』









「…永遠の記憶、永久」


「え?何それ?」


そうだ。確かにおふくろはそう言っていた。


「こいつの花言葉ってヤツだ。」


「永遠の記憶…永久…なんか、寂しい花言葉ね。」


寂しい、というのはどういう意味だろうか?思わず首をかしげると、「なんでもないわ」と笑って流された。


不服に思いながらも、かごめと同じように花を見る。
あの頃となんら変わりない花…。







「十六夜さんに…逢いたかったな…」


かごめがぽつりと呟く。


「一回逢ったじゃねえか。」


初めて親父の墓に行ったときだ。あの頃はかごめが妻になるなんて考えれなかったが。


「そうだけど…そうじゃなくて、犬夜叉の小さい頃とか、どんな子だったか、とか聞きたかったの!」


「けっ、知ってどーすんだよ。」


「もう!…伝えたいことがあったのよ。」


「伝えたいことだあ?」


ちらりと視線が合う。そうよ、と言ってかごめは空を見上げた。


「犬夜叉を産んでくれてありがとうございます、って。」


じゃなきゃ出逢えなかったんだもの、と言いながら俺の肩に頭をのせる。


「かごめ…」



腕は自然にかごめの肩にまわしていた。


ずっと一緒にいたい。

この人だけは守り通したい。


なのに、人は儚い。


おふくろもそうだった。


愛しい人ほど、別れは早く訪れる。



「…嫌だ。」


「犬夜叉?」


「なんで…いなくなっちまうんだ…」


「…犬夜叉…」


ふわりと頭に暖かみを感じた。かごめの細い指が俺の髪を軽く絡めている。


それに甘えて、かごめの肩に顔をうずめる。


花とかごめの匂いが混じりあって鼻に届く。

心地よい。

けど、今はそれが悲しい。


さわっと頬に何かが触れた。


「?」


かごめから顔を離すとそこには一輪のむぎわらぎく。


「犬夜叉にあげる。」


ね?と言う口は僅かに震えていた。


その意味は



――永遠



「…っ……」


俺は半妖と言えども、そこらの人間よりは長く生きる。


いや…生きなきゃならねえ。



いつか独り残される俺を、お前は案じてくれんのか?


「私はずっと、ずーっと、犬夜叉を想っているわ。」


むぎわらぎくを持つかごめの手を両手で優しく包む。


「…俺もお前に、この花やるよ。」



命を懸けて守ると決めたんだ。

一生大切にすると誓ったんだ。


それほど愛しい人を想わない奴がどこにいるってんだ。


「…ありがとう……」


かごめが作った小さな笑顔。その瞳が潤んで揺れている。


涙を見たくなくて、小柄な体を胸に引き寄せた。









「だから…っ、私のこと、わ…忘れないで、ね…っ」


「ばか。忘れるわきゃねえだろ…っ」















「絶対」が存在しないこの世界で、何故その「離別」だけは絶対なのだろうか。



いつかその日が訪れても、
俺はお前を忘れたりなんかしねえ。



だから、せめてそれまでは



隣にいてくれ、かごめ――








過去にブログにアップしたものです!う〜ん。初期な感じが滲み出ている笑


十六夜さんはすごく好きです!でも自分で書くとイメージからかけ離れてく気がします…orz

むぎわらぎくの写真と花言葉を見てざかざかと書いた記憶が…笑


お読みいただきありがとうございました!

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