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小説
敵わない相手






野郎に勝てたことなんて一度もないんだ。



『敵わない相手』


旅の宿で夜を明かし、各自出発の準備をする。
初夏の風は木々の匂いを運んできて、気持ちのいい朝だ。

今、かごめと珊瑚は七宝と雲母をつれて近くの小川で顔を洗いに行っている。

野郎二人で語るも何もないので自分の得物を手入れしていた。黙々と作業をしていると、弥勒が唐突に「それ」を提案してきたのだった。


「犬夜叉、賭け事をしましょう。」


「はあ?いきなりなんでい。」


暇じゃないですか、と笑う弥勒。ふられた話題なので一応それに乗ってみる。


「賭け事って…何を賭けるんだ?賭けるものなんてねえぞ?」


「そうですねえ…。私の言うことを聞くってのはどうです?私が負けたらお前の言うことを聞きますし。」


どうです?とにこやかに問われる。…これはぜってえ何か裏があるときだ。


「例えばなんだよ。」


「かごめさまに触れないっていうのはどうです?」


もともと考えていたのだろう。即答だった。


「けっ、ばかばかしい。」

「おや、お前にとっては酷じゃありませんか?」


「ばっ…!んなわけねえだろ!!」


にやにやとこちらを窺う弥勒。拳に力が入るが、そこはぐっとこらえる。心を落ち着かせてから、弥勒に尋ねる。


「じゃあ、お前は珊瑚に触らねえってことでいいな?」


「ええ。いいですよ?」


どうせ私が勝ちますし、と軽口を叩いている。なんだこの余裕は。


「やりますか?」


「ぉ、おう!やってやらあ!」


賭けの内容は、かごめと珊瑚のどちらが先に部屋に入ってくるかだった。

先に入ってくるのがかごめだったら俺の言うことを、珊瑚だったら弥勒の言うことを聞くというものだ。

実にくだらないが、乗り掛かった船である。しばらくすると賑やかな声が近づいてきた。


「いいですか、賭けは絶対ですよ?」


「お、おぅ。」


よろしい、と小声で言ったかと思えば


「珊瑚ぉ―っ!!」


大声で珊瑚を呼ぶのだった。


「なっ!てめっ、ずりいぞ!!」


「法師さま!?どうしたのさ!!」


すぱーんと襖が開き、姿を現したのは…


「なんでもありませんよ、珊瑚♪」


「変な声出さないでよ、驚くじゃないか…」


珊瑚だった。

がっくし肩を下げていると、いつの間にか弥勒が隣にいた。


「そんなに残念なのですか?かごめさまに触れ…」


「だあ〜っ!!言うな!//」


お、俺はただ純粋に賭けに負けたことを悔いているんだ!

決してかごめに触れることができないからとかそういうんじゃなくて…っ!!//

「ねえ、犬夜叉?」


「っぅわ!?///」


「ちょっと、どうしたのよー?」


顔が近い…っ。いつもこんな距離だったか…?//


どぎまぎしている犬夜叉を、弥勒は含み笑いで眺めていた。






――

犬夜叉は心の中でげんなりしていた。何故か。「触れてはいけない」と意識すればするほどに、かごめを近くに感じてしまうのだ。


その髪に

その頬に

その唇に


今すぐ触れたい衝動にかられる。



そんな日に限って、かごめは自分の近くでふわふわ笑いながらくっついてくる。


一度くらい、と手を伸ばしたら弥勒に錫杖で思いきり殴られた。

…俺が人間だったら死ぬぞ、といういきおいで。



「だあーーーっ!!もう無理だっ!!!」


案外あっさりと限界がきた。

かごめを強引に井戸の方に連れていく。かごめには触れずに、袖を引っ張ってるからきっと許容範囲だ。


「えっ!ちょっと!犬夜叉!?」


唐突な行動に驚くかごめ。
そんな二人を呆然と見送る珊瑚。


「犬夜叉の奴…一体どうしたんだ?」


「…逃げましたね。」


まあそれが狙いなのですが、と弥勒は内心で微笑む。

存分に楽しんできてくださいね、犬夜叉。


「さて、珊瑚!今宵は二人で愛を…」


「誰がするかあ!!//」


ぱちーんと小気味良い音が辺りに響いたのだった。












――

「ねえ、犬夜叉あ―!」


「……」


現代に帰ってきたのはいいものの、かごめを連れてきた本人はムスッとして一言もしゃべらない。

そしてちゃっかりベッドを陣取っているものだからかごめは仕方なく椅子から声をかける。


「犬夜叉ってば!」


話しかけると彼の耳がぴくりと動くので、一応ちゃんと聞いてるらしい。


「もう…なんなのよ…」


つかつかベッドへ向かい、ぼふっと犬夜叉の隣に座る。


「犬夜叉?」


もう一度声をかけると、視線が合った。拗ねているような、気まずげな瞳は幼くて可愛いと感じた。

その銀色のしなやかな髪に触れようとすると、するりと逃げられる。

ベッドの上で、自分から器用に逃げる犬夜叉が面白くてなおも追いかけると、しばらくして盛大なため息が聞こえた。


「…あのよ……」


がしがしと頭を掻きながら目を伏せられて、今の状況に気付く。

追いかけるのに夢中で、いつの間にか犬夜叉を壁まで追い詰めていた。


「あ…ごめん…//」


そろりと後ろに下がろうとすると、目でそれを制される。


「…なに?」


「…触ってもいいか…?」


はあっ!?何言ってるの?痴漢発言じゃない!!…という顔をしていたのか、犬夜叉が顔ごと目を逸らした。


「…っなんでもねえ!忘れろ!!///」


「…弥勒さまに何言われたの?」


「なっ…んで、それを!///」


やっぱりね、と苦笑する。犬夜叉が変な風になるのは、最近になって弥勒のせいだとうことが分かった。


「何言われたか知らないけど、気にしない方がいいわよ?」


どうせろくでもないことでしょう?と笑って見せる。


「だから逃げないでよ。」

犬夜叉の赤かった顔がだんだん直ってきた。良かった、と思ってベッドから降りようとすると腰を掴まれた。


「…わかった。弥勒の言うことは気にしねえことにする。」


「いぬや…っきゃ!?」


世界が反転した。さっきまで視界には床が映っていたはずなのに、今は天井が見える。

そして、次に見えたのは銀色の髪と紅い衣…


「えっ!?///」


つまり押し倒されているのだ。


「ほら、触りたかったんだろ?」


犬夜叉が頭を振って、その銀の髪を私の目の前に流してきた。ちょっと!色っぽいこんな仕草、見たことないわ!!//


「ちょっと…//」


「俺も…触りたかった。」

さっきの痴漢発言が繰り返される。なんのことだろう、とぼんやり考えていると頬に手がそえられた。


「…かごめ」


無意識に目をぎゅっと閉じる。次に感じたのは唇に押し付けられる熱。


「…っん…」


とん、と軽く胸を押し返す。緊張のせいもあって呼吸がすぐに乱れる。


「…わりい」


空気を取り入れられるように唇は離してくれたが、言葉をこぼすだけで微かに触れ合う。


「…?//」


あまり唇を動かさないように目で問いかけると、耳元でぼそりと囁かれる。


「…今日はもう止まんねえ」


「っ!?///」


その言葉と、耳にかかる吐息に体が一気に熱くなる。


「止めてほしくなったら言霊使えよ。」


それがおそらく最後の理性だったのだろう。


「…ん、わ…分かった…////」


言い終わるか終わらないかのところで、再び唇を重ねられた。





長い


深い


甘い


時間












――

「おや、犬夜叉。お帰りなさい。かごめさまはどうした?」


時は夜中。涼しい風が吹き抜ける井戸を出ると、弥勒がすぐそこにいた。


「お、おう…まだ寝てるよ…」


「そうですか。珊瑚も疲れて寝てますよ。」


その言葉と満足気な顔を見て合点がいった。


「てめえ、珊瑚と二人きりになりたかっただけか?」

ばれました?となんの悪びれもなくいい放つ。


「ああすればお前は絶対耐えきれずに逃げると思いましたしね。」


私も楽しい時を過ごしました、と夜空を仰いでニヤニヤ笑っている。



…やられた。全部この生臭坊主の策略。


「…てめえにゃ敵わねえよ…」


色んな意味で一番厄介な仲間は、お互い様ですよ。と楽しそうに笑っていたのだった。


それはそれは、爽やかに黒い微笑みだったとか。











→あとがき


「しちゃだめ」と禁止されるとしたくなる悲しい人間の性笑


なんか、微妙に裏か…?っていうのは気にしない方向で笑

お読みいただきありがとうございましたm(__)m

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