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小説
エゴイスト

シリアス→甘
(夫婦犬かご)














かごめは分が悪くなると、よく俺の知らない言葉を使う。

なんだか今日はやけにそれが癪に触った。


「てめえの顔なんざもうみたくねえ!!」



『エゴイスト』



言ってしまった後に気付く。

かごめは何もかも置いてきたのだ。俺にもう一度逢うために。

その俺に拒絶されたということは、どういうことなのかそれくらい分かってんだろ、自分。

すぐに後悔した。でも、それを無かったことには出来なくて。


「……分かった」


ただ、静かにかごめは出ていった。俺は訂正も、謝罪も、彼女を追うことすら出来なかった。

微かに残る淡い匂い。

それもすぐに風に掻き消されてしまった。

いっそ言霊を使ってくれりゃ良かったのに。そうすれば追いかけるきっかけが出来たのに。

こんな時でさえ、かごめ任せな俺。情けねえ。

言われた言葉はおすわりよりも痛かった。














「かごめちゃん?来てたけど…」


「昼過ぎくらいでしたね」


「なんかあったのかい?」


「犬も食わない痴話喧嘩、とやらですか?」


からかい体勢に入った弥勒は無視する。

あれからしばらくしてからかごめを追うことにした。

結局珊瑚のところに訪ねてみたわけだが、どうやら今はいないらしい。

日は沈みかけている。いくらかごめが巫女だからといって、こんな時間に女が1人で歩き回るのは危ない。


―何処にいっちまったんだ


焦る理由はもう1つある。

鼻が聞かないのだ。今宵は朔だと、かごめを探そうとして気付いた。

しかし朔なんかよりも、かごめの安全の方が心配で。

普段使わない頭を捻った。
珊瑚のところではなかった。そうなると他は…何処だ?

自身に嘲笑する。かごめのことを何も知らない自分が可笑しくて仕方がない。




自分の黒髪が頬にかかる。

鬱陶しい。手でそれを払い耳に掛けると、視界が広くなったせいだろうか。よく見知った道が見えた。

何度も通った道。

そう、あの日も――

自然と足はその道を駆けていた。



道が突然ひらける。俺がかごめと再び出逢えたところ。

井戸は沈黙を保っていた。確信じみた胸の動機が足を速めさせる。

そっと覗くと……いた。

考えるより先に井戸の中に飛び込んでいた。足にしっかりと土の感触を確かめてかごめを見下ろす。


「……」


かごめは寝ていた。少し拍子抜けしながらもゆっくりとその場に座る。

いくらかごめが小柄とはいえ、さすがに井戸内で二人で向かい合うのは厳しい。
起こさないようにそっと、かごめの身体を、己の立てている足の間に納める。

暗くてよくは見えないが、かごめの頬には涙が乾いた跡があった。

それを軽く拭って抱き締める。

かごめの髪と衣がひんやりと冷たい。きっとあの後ずっとここに居たのだろう。

いくら暖かくなってきたとはいえ、夕方は風邪を引きかねない温度まで気温が下がる。

かごめの身体に回した腕に力を入れる。

もはや喧嘩したことなどどうでも良い。今はただ、彼女の冷たい身体が哀しい。


「あまり…よ」


かごめが寝ていることを良いことに、そろりと言葉をこぼす。


「俺の知らねー言葉を使ってくれるな」


ああ、そうだ。確かこうなったのもそれが原因だったな。

彼女の頭に顔を寄せると、大好きな匂いが胸を締め付ける。


「距離、感じちまうだろーが」


俺がどんなに頑張っても埋まることのない500年。
今、かごめが傍にいるこのときでさえも不安で。

もともとそんなわだかまりが心にあるから、かごめが言う知らない言葉には敏感になった。


でもそれは、きっとかごめも同じはず。
もう繋がることの無い井戸の向こうの世界。そこでの生活はよく分からねえけどこっちよりは、数段も便利そうだった。

そんなところからこっちに来て、不便を覚えなかった筈がない。

その溝を徐々に埋めていくかごめに比べて俺はどうだ。

不安なのは事実でも、これは単なる我が侭だろう。


「…すまねえ」


「…ごめんね」


二人の声が重なった。寝ているとばかり思っていたから突然のことに驚く。


「今日、朔だったの忘れてた」


先ほどの喧嘩には触れようとしていないのが分かった。分かったからこそ、辛い。


「っかごめ…」


顔が見たかった。半ば強引にこちらを向かせる。


「…顔見たくなかったんじゃないの」


いつの間にか井戸には星明かりが降り注いでいて。かごめの顔がよく見えた。

目を赤く腫らし、頬には新しい涙痕があった。


「…んなわけ、ねえだろ」


三年間もの間、ずっと想っていた。

声が聴きたくて。

温もりが欲しくて。

顔が見たくて。

かごめに、逢いたくて。


なのに叶った途端にそんな想いを忘れてしまった。かごめが隣にいることが再び「当たり前」になりつつあったのだ。


「もう、あんなこと言わねえから…」


「……うん」


そして、かごめが一番頼りにしたのは井戸――すなわち家族だった。そのことが更に胸を痛める。

そして俺がもしかごめを裏切ったら、こいつは何処にも行けなくなるんだ、ということを強く噛み締めた。


「…犬夜叉、」


「ん?」


「…もう、使わないようにするから」


向こうでの言葉、と哀しそうに笑う。



違う。そんな無理に俺に合わせなくていいんだ。

無理に向こうの世界のことを切り離さなくていいんだ。


「使えよ。意味はわかんねーけど…」


「いいの?」


「ばか、いいに決まってんだろ。昼間のは…俺が短気過ぎただけだ」


「…ありがとう」


背中に細い腕が回った。こんな俺の傍に居てくれるかごめ。泣きたくなるほど愛しい、という気持ちが今なら理解できる。


「私が言った言葉、覚えてる?」


「『えご』ってやつか?」


「そうそう!」


「どういう意味だ、これは」


「『我が侭』って意味よ」


それはまさに俺のことで。つい笑ってしまう。


「どうしたの?」


「いや、なんでもねえ」


「変なの」


しばらく二人で笑い合っていた。本来なら暗い井戸の底では、お互いの顔なんて見えないが。今は星明かりに感謝する。


「ねえ、犬夜叉…」


「ん」


「…くっ…口付け…して」


白い頬を朱色に染める彼女が可愛すぎて。でもそんなこと口に出して言えるような男ではないから。

その柔らかい髪をくしゃりと掻き回した。


「そんくらいのエゴ、いつでも受け止めてやるよ」


「!」


ますます朱色を帯びていく彼女の唇を掠め取る。掠めただけなのに、そこの温度が高いことが分かった。


「…使い方、合ってるか」


「…ばっちり」


人差し指と親指で丸を作る姿に再び笑みがこぼれる。

俺はもう一度唇を重ねた。

彼女がここに存在する意味を、



己の胸に刻み込むかのように。












朔犬くん笑

この二人はゆっくり分かりあってけばいいよ
ヽ(´∇`)ノ


そういえば、題名考えるのすっごく難しいですね

毎回困ってます

あえなく沈没笑

最近「半ば強引に」って言葉が好きです←

犬夜叉にぴったりだ!とか勝手に思ってたり…(^^;



お読みいただきありがとうございました!

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