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小説
抗って、


痛い←またか
(妖犬かご)













私の名を呼ぶ掠れた低い声。ただそこに甘さは一切入っていない。


「かごめ」


「っ…!!」


いつもの彼と違うのは


荒々しい動作と、紅に翠の瞳。



『抗って、』



「…っいた」


ぎり、と手首を掴まれる。力加減はしているようだけど、犬夜叉にしたら私など簡単に折ってしまえるだろう。


「知るか」


変化した彼は怖い、というより冷たい。冷めた言葉とは不釣り合いな燃えるような紅い瞳。

ククッと喉を鳴らすような笑い声がする。


「こんな簡単に皮膚が裂けるんだもんな」


ぐっと指先に込められた力のせいで長い爪が皮膚に食い込む。


「……っ!」


そのまま、右斜めに爪が滑った。見なくても分かる。生ぬるい液体が、私の腕を伝っては落ちた。


傷が熱くて痛い。でも声はあげない。あげてしまったらいけない気が、した。


「んだよ、啼かねーのか」


ざらりと腕の血を舐め上げられる。傷口に新たな痛みが、背中には悪寒が走る。


「つまんねー奴」


びっ、と犬夜叉の人差し指が私の肌を滑った。

5本の紅い線に新しく1本増える。じわりと滲む私の血に再び彼の舌が這う。


「っく…!!」


痛さに喉から声が漏れる。それを満足気に見下ろす彼は私に顔を寄せてきた。


「…声、あげてもいいんだぜ」


耳元で囁かれた後、そのまま肩に軽く歯が立てられる。


「…血が甘え」


肩口から鈍い痛み。どうやらそこからも出血したようだ。


「もったいねーな、お前」


半妖の俺なんかにはよ、と愉しそうに口を歪める。


「極上の女だ」


その言葉に、私の心が反応する。

――桔梗よりも?

なんて。

こんな時でさえも、あの人と比べようとする自分が可笑しい。


「……何笑ってやがる」


怪訝な翠色の眸で彼がこちらを窺っていた。

どうやら心の中で自分の浅はかさを笑った筈が、表にも少し出てしまったらしい。

だってそれほど可笑しい話だもの、とまた笑いそうになるのを堪える。


「…何でも、ないわ」


「言えよ」


顎を乱暴に持ち上げられる。いつもの甘く揺れる黄金は、そこにはない。あるのは細められた紅蓮。

その視線に射竦められて、言葉をこぼす。


「…にも…るの……?」


「あ゛ぁ?」


「犬夜叉は…っ!…桔梗にも…こういうこと、するの?」


「!」


彼の眉がぴくりと動いた。


かと思うと、



「……ざけんな」


だんっと背中を壁に打ち付けられる。



一瞬息が詰まる。


空気を肺に取り入れようと顔を上げるが、出来なかった。

呼吸する暇さえ与えられず、一瞬で口が彼の口に覆われていた。


がちっ、と私の歯に彼の牙が強く当たる。


「っ…ん!」


その衝撃で口の端が切れたらしい。彼の舌に口内を犯されるのを感じながら、自分の血の味も感じる。


「てめえは…」


きっと酸素不足。意識が薄くなる直前で唇が離される。

ぐいと口の周りに付いた唾液を拭う彼の眸が少し揺れているのに気付いた。


「鋼牙にも、こういう姿見せんのかよ」


今の私がどんな姿なのかは分からないけど、そんなことは絶対にない。


だって、私が好きなのは…


「……見せっ、ない…」


未だに整わない息の乱れを抑えて、言葉を繋げる。


「…じゃあ分かれよ。同じだ」


そっと頬に手が添えられ、切れた唇の端を舐められる。さっきとは全く違う優しい行為。


「…結局俺は、お前を泣かしてばっかだな」


犬夜叉はぽつりと呟いた後に私の髪をゆっくりとすいた。自分が泣いていたことに今更気付く。


「愛なんか、知らねえ」


はっ、と自嘲じみた彼の笑いはどこか哀しかった。


「犬夜……」


「力尽くで手に入んだったら、苦労なんざしねーのによ」


吐き捨てるような言い方が耳に痛かった。


「だったら、もう何も要らねえ」


きっ、と見据えられる。でも怖くなんかない。


「愛も、仲間も…お前も」


どうせ生きる時間も世界も違うんだ、と犬夜叉は淡々と続けた。頭に感じる彼の手の温もりが愛しくて泣ける。


「ずっと傍に居られねえなら…いっそ俺に近付いてくれるな」


変化した彼の苦しそうな顔を初めて見た。

変化した彼の悲痛な本音を初めて聴いた。


でもその願いは叶わないんだ、犬夜叉。


「もう…離れられないよ」


つ、と彼の頬にある紫の跡をそっとなぞる。


「大好きよ、犬夜叉」


言葉だけでは足りない。伝わらない。それでも、言葉にしなければ分からないことだってある。


「ごめんね、こんなに…好きになっちゃって」


「……ばかやろう」


小さな声だった。でも、とても悲痛な叫びだった。何か声をかけようと思ったとき、


「肩かせ、かごめ」


半ば強引に、私の肩に顔を押し付けられる。

さっき付けられた傷が、ズキンと痛んだ。けれど、それよりも犬夜叉の本音に胸が痛んだ。


「犬夜叉…」


名前を呼ぶ。

目の前にある彼の耳がぴくりと動いた。


「っ犬夜叉……」


もう一度呼ぶと彼の腕が私の背中に回った。

服を握りしめられて気付く。きっと今の彼の頬に紫の跡はない。


小さな子供をあやすように髪をすく。さらりと指からこぼれ落ちる銀が妙に切ない。


肩に



傷の痛みと、



犬夜叉の頭の重みと、



微かに、服が濡れていくのを感じた。







痛い(ノΑ`;

最近こんなんばっかだな、おい!笑

妖犬かごは好きなんだけど…ドシリアスにしないと危なくなる。

何がって……ねぇ?←笑


そろそろ甘いものに飢えてきました(/--)/

書こうか!おー!


お読みいただきありがとうございました!

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