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小説
花揺らす風♭



パラレル

死神犬×標的かご

御察しの通りハッピーではないです…


















「日暮!?」


「かごめちゃんっ!!」



目の前で一人の女が倒れる。

それをただ眺める俺はいつものように、仕事の手順を頭の中で復唱していた。



『花揺らす風』



白い薬品臭い部屋。ここはある病院の一棟。そして、一人の少女が入院している場所。

彼女はどうやら寝たらしい。微かに聴こえる寝息に耳を澄ます。

俺の仕事は至って簡単だ。こうやって彼女の隣にずっと居ればいいのだから。

そう、彼女が死ぬ一週間後まで。

普通の人間は、俺の姿は見えないし、声も聞こえない。だから存在を気付かれないまま標的を看取ることが出来る。

所謂、死神だ。

今回の標的はまだ十代半ばというところだろうか。

その若さで死んでしまうとは…なんて。

今さら同情や罪悪感なんて湧かない。

そんなものが生まれても何にもならないことくらい分かっている。



「……空が、見たい」



唐突に部屋に響いた声。内心驚きながらも、焦点の合わない瞳が空(くう)を彷徨っていることから、ただの独り言だと気付く。



―まあ、老い先短けえしな



立ち上がって窓に寄る。そっとカーテンを手で弾けば目の前に広がるのは青い空。



「き、れい…」



視線を外から中へ移せば、うっとりと空を眺める少女の姿。



「ありがとう、神様」



そんな微笑みを見せられても、お前は俺に殺されるんだぜ?

感謝されるのはお門違い、だ。


ただ、その笑顔が


消えない。




――



「今日もありがとう、神様」



にこにこと空を見上げる少女は毎日同じような言葉を繰り返す。

俺が来てから4日経った。俺の仕事はというと、観察の他にカーテンを開けたり窓から風を入れたりするだけ。

それなのに、感謝されるのは変な感じがした。

それでも、そんなことを繰り返すのは…



「かごめちゃん、遊びに来たよ!」



「珊瑚ちゃん!!」



勢いよくドアが開き、一人の女が入ってくる。歳はこの少女と同じくらいだろうか。



「調子はどうだい?」



「珊瑚ちゃんのおかげで元気よ!」



「それは嬉しいな」



笑いあう少女等は、かごめと珊瑚という名前らしい。タイプこそ違うがどちらも美しい。

それから二人は他愛のない話を続け、すぐに空は暗くなっていった。



「じゃあ、あたしは帰るね…」



「いつもありがとうね、珊瑚ちゃん」



「当たり前じゃないか!明日も来るよ」



「うん…待ってるわ」



妙だと思った。別に今の会話が、ではない。4日経ったというのに、この病室に訪れるのは珊瑚と医者どもしかいないのだ。



―親、いねえのか…?



知りたい。この少女のことを。けれど聴く術も尋ねる権利も俺は持っちゃいない。

この少女を、ただただ見つめるだけ。

己のせいで弱っていく彼女を…



「……神様、」



その言葉に反応する自分に苦笑する。俺はそんな御大層な身分じゃないだろ、と。



「また明日、逢えるといいですね」



おやすみなさい、と微笑む彼女が切ない。あと何日かしたら、もう「明日」は来なくなるというのに。



4日目が、終わった。



――



「もう、立てなくなっちゃった」


6日目の朝。


困ったように笑うかごめ。その笑顔は枕元の白い花に向けられている。

花の名前は知らない。それは俺が開けた窓から入ってくる風に静かに揺れている。


窓辺に腰掛けながらその様子を眺める。こうやっていると穏やかな日々だと錯覚してしまう。

明日で終わる、この日常。

ふとかごめと目が合った。否、かごめは俺の後ろにある空を見上げた。



「生まれ変わるなら…あなたになりたいなあ」



かごめの羨ましそうな声。例え自分のことではなくとも、その表情を俺だけが見られることが嬉しい。



「綺麗に咲いて、褒められて。時期が過ぎれば散ってくの」



素敵な生き方、と楽しそうに微笑むかごめ。悲観しているわけではないようだが、なんだか胸にくる。



「神様、私がもし生まれ変われたら…お願いしますね」



その綺麗な瞳に吸い込まれる。何がか、俺がだ。

こんな感情、捨てたはずなのに。


いつしか、俺は

この少女が…、




――



「先生!日暮さんの容態が…!!」



ああ、今日か。

何度も見てきた人が死ぬ瞬間。

リプレイを見ているように白衣の人々は慌て、知人らは口を手で押さえ、そして親族は涙する。

毎回同じだ。

彼女に出逢うまでは。


この部屋には俺含め5人しかいない。

かごめと医者らが3人。

真っ昼間ということもあって学校がある珊瑚はここにはいない。



「……最善は尽くした」



しばらくして、医者の一人が呟いた。これも毎度のこと。まあ、俺がいなけりゃその「最善」は報われるんだが。



部屋にはかごめ1人と俺だけが残された。

うっすら瞳を開けているかごめは今にも消えそうだ。



「……空が、…見たい」



俺は黙ってカーテンを引き、窓を開ける。



「…きれ、い…ね」



ふっとため息のように漏れた言葉。


俺の中で何かが、切れた。


かごめの枕元に寄る。どうせ見えやしない。触れないようにギリギリまで近付く。

出来ることなら抱き締めたい。

しかし今触れたら、一発で彼女の命は散ってしまう。

元々俺ら死神は生在るものには触れてはいけない。

枯れたり、死んだりしてしまうからだ。


―ただ、ひとつだけ触れることが許される方法がある




かごめの枕元で咲いている白い花を一本抜き取る。

はたから見りゃ花が勝手に宙に浮いてるように見えるだろうが、今はそんなことどうでもいい。



白い花に口付けを落とす。




祈った。




誰に?




神に。




誰のために?




彼女のために。
















辺りが白に包まれた。

足元を見る。

思った通り半分消えていた。



―ただ、ひとつだけ触れることが許される方法がある


それは死神(おれ)が消えること。


死ぬってこんな感じなんだな、と他人事のように薄れていく自分の身体を眺める。

今まで看取ってきた奴らはどんな思いで逝ったのだろうか。


今更ながらの罪悪感に苦笑する。流石に遅すぎだろ、と。



かごめの方を見やる。未だに空をぼんやりと眺めていた。

最期まで俺の存在は気付かれないまま、か。


でもそれでいい。


…それで、いい。




背後で鳥が羽ばたく音がした。その音につられてそちらを振り向く。


そこには広く、青い、何処までも続く空があった。



「……かごめ」



名前くらい呼んでもいいだろう。振り返ると微笑みを讃えた彼女の姿があった。


きっと鳥を見て微笑んだのだろうが、俺を見て微笑んだことにする。


そろそろ意識が朦朧としてきて。

それでも、目はかごめを捉え、その綺麗な姿を、瞳に焼き付ける。




















とうとう貴女の命を散らせることは出来なくて



いつかは消える運命(さだめ)でしょうが



その日が来るまでどうかお幸せに



俺がもし人間だったならば



命を奪い

殺すのではなく



命を育み

共に生きたかった


























――



「かごめちゃん、明日退院だってね!おめでとう!」



「ありがと!また珊瑚ちゃんと遊べるわね」



「飽きるほど遊ぼうじゃないか!」



「楽しみーっ!」



「…あれ、この花枯れてるじゃないか。替えようか」


「あっ、だめ!」



「え?」



「その花が……いいの」



そっと手に取り、枯れた花に口付けをする。



甘い香りはしなくとも、どこか優しい匂いがした。




開け放った窓から柔らかな風が頬を撫でて、花を揺らして、



消えた。










死ネタ……?←

色んなものに影響された作品第二段!笑

小説とかでも死神ネタはお気に入り♪


昔のノートに詩が書いてあってそのまま引用( ̄▽ ̄

交われない感じが好きですorz


てか、「犬夜叉」って言葉が一文字もない( ̄□ ̄;

一応犬かごですよ←



お読みいただきありがとうございました!


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