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小説
しみる傷口

痛い←
(犬かご)
















「っう…!!」


弓矢に手を伸ばすが、一拍遅かった。


だんっ


手を床に叩きつけられていた。


《ふっ…貴様の心は傷だらけだな》


「……っ!?」


《しかし身体と心の傷とが不釣り合いだな……》


「っや、やめ…!!」


ぱっと空(くう)に紅い飛沫が散った。



『しみる傷口』



ぴくっ


「……どうした、犬夜叉」


「いや…」


かごめの血の匂いがする。そして、その近くにはほんの僅かな妖気。

…行かなければ。


「かごめ、か…」


「!」


「行くのか、犬夜叉」


「……すまねえ」


身を翻すと行く手を死魂虫に阻まれる。


「…?」


「行ってくれるな、犬夜叉…」


「桔梗…」


衣の裾を引かれる。そして身体には死魂虫が巻き付いてくる。動けない身体に桔梗の腕も回る。


「傍に居てくれ」


いつもと違う微かに甘い声。こういうことをされるときは、何か桔梗の身にあったとき。しかし、その間にもかごめの血の匂いが濃くなっていく。


…かごめ









――


行って、しまったか…


あの後、一言だけ謝罪の言葉を残して走り去っていった彼。

紅い残像だけが暗闇に残る。

目が覚めるような紅。もうその紅は自分の方を振り向いてくれないのか。

ふっと自嘲気味に笑う。


かごめの魂と自分の魂は同じもの。何が違うと言うのだ。


私が死人だからか。血が通っていないからなのか。


きっとあの時、犬夜叉はかごめの血の匂いを嗅ぎとったのだ。

私にも匂いはあるが…やはり生在るものを選ぶのか。


…堕ちたものだな、私も


死人になってなお、お前の心が欲しいなど。

しかしかごめ、お前を私は認めたりなどしない。

巫女である前に私とて一人の女なのだから。


「ゆくぞ」


青白い光が緋色の彼と逆方向に、消えた。









――


「おかえり」


「…っかご!?」


小屋の中で充満する大嫌いな血の匂い。臭気にむせかえる。


「お前…何して…っ」


そしてその臭いの元かごめのかごめは。


「あは…は、なあに?」


右手に鎌。そして左肩から肘にかけて刃物の傷が。


「自分で…やったのか…」


びくりと肩が動く。肯定と判断していいのだろうか。一歩かごめへと近付く。


「来ないでえぇ!!」


今度はこちらがびくりとなる。立ち止まった。それは初めて見たかごめからの完全な拒絶。


「来たら、私…」


かごめは鎌を持ち上げ、刃を首に当てた。


「死んじゃうよ」


「!!」


「あは…っはははは!」


耳に響く狂った笑い声。ゾクリと肌が粟立つ。


「……」


黙って鞘から刀を抜く。


「…てめえ、誰だ」


刃を向けると、笑い声がぴたりと止む。


《かごめ自身の闇だ》


「!」


その可愛らしい唇を歪めて吐き出される、這うような低い声が耳にまとわりつく。


《この女の心は心地よいのう》


「…どういう意味でい」


《解らぬのか》


くくくっと目を細めるかごめ。いかにも愉しそうに微笑む姿に微かに戦慄を覚える。


《貴様のおかげで、心が壊れかけているからだ》


「っ…!」


《まあ、妾(わらわ)は存分に楽しんだ。礼を言うぞ小僧》


ふわりとかごめから離れた何か。それに妖気を感じたが、追う気にはなれなかった。


「…かごめ」


「…殺してよ」


俯いているため顔が見えない。が、その声だけはしっかりと耳に届いた。


「もう苦しいのよ!!」


顔をあげたかごめの目は、赤く腫れていた。


「これ以上っ、私を醜い女にさせないで…っ!!」


あんたには解らないでしょ、とかごめは軽く微笑む。


「だから、心と同じくらい身体を傷付けたら解ってくれると思って」


今はその途中、と再び鎌を構える。


「…止めろ」


「どうして?」


その質問に口ごもる。

理由はこれ以上傷付いて欲しくないから。だがそれを俺が言える立場なのか?


今日だって…


「…もう、いいの」


乾いた笑い声が耳に痛い。


「犬夜叉が殺せないなら…あんたの前で自分で死ぬから」


だから、もういいの、と溢す唇が小さく震えていることに気付く。


「…さよなら」


「解った」


「…?」


血の匂いに目眩がする。もう嗅ぎたくねえ。もう、たくさんだ。

鞘から出したままだった鉄砕牙の刃を自分の首に当てる。


「お前が死ぬところなんざ見たくねえ」


ぐっと手に力を込める。刃先が触れただけで皮膚が裂けた。


「お前の前に、俺が死ぬ」


ぽたりと落ちたのは己の血だろうか。立ちすくむかごめに、滅多にしないような顔で微笑む。


「…ごめんな」


ズッと肉が裂ける感触。その時だった。


「っやめてぇぇえ!!」


「…!」


ドン、と胸に衝撃。不覚にもよろけて後ろに倒れ込んだ。


「死なっ…ないで!!」


鉄砕牙は手から落ちた。そして俺の上でかごめが泣きじゃくる。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…っ!」


ああ、元に戻ったと安堵する。きっともう「死ぬ」なんて言わないだろう。


「……ああ」


起き上がって冷えた彼女の身体を抱き締める。


「っ…哀しくて……」


「ん」


「こっ、怖くて…っ」


「…ん」


「いぬっや、しゃあ…」


「解った…」




血の匂いが、胸を締め付ける。


涙の匂いが、喉を熱くする。


俺は、もう一度だけ謝った。




――


「すまねえ」


掠れた彼の声は、涙の勢いを加速させた。




何もあなたは悪くないのに



私はあなたを苦しめたのに



ごめんなさい


謝らなければいけないのは私の方で



本当は、最初から意識はあったの



妖怪のせいなんかじゃない



私の心が弱かったせい





ただ、それをあなたには言わない


ズルい女よね


あなたには、私は操られていたと思っていて欲しいの



こんなにも、醜い女だって知って欲しくないの











今更傷口が痛みだす



身体の傷はいずれ治ってしまうけど



心の傷は、あなたがあの人を追いかける限り治らないのでしょう



その度に、私は苦しくならなくちゃいけないのかな



それでも、傍に居たいの




苦しみたくない


傍にいたい



どうしたら、こんな気持ち無くなるのかなあ…









涙が、ひとしずく。


傷に、しみた。







生物のノートに書いてあった単語を組み合わせて作ってみた(>д<)

授業中にどんだけ病んでんだ、自分!笑


そして妖怪の存在地味!笑いっそ出さなくても良かった…かな?←
そして参考書は「ひぐらしのなく頃に」

あれの詩音は正直びびった←笑


お読みいただきありがとうございました!

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