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小説
にほひたり

甘(犬かご)














「じゃーな、かごめ!」


遠ざかる蒼い竜巻に手を振る。鋼牙くんは仲間の怪我の処置の仕方を聞き、少しの薬草を持ってすぐに帰った。



『にほひたり』



――また、犬夜叉怒るかしら


仲間が待つ小屋の前でしばし立ち止まる。

くん、と袖の匂いを嗅ぐが鋼牙くんの匂いはおろか、自分の匂いさえ分からない。

犬夜叉の機嫌が悪くなったら辛抱強く聞き流そう…!

そう思い、小屋の引き戸を開ける。


「…おう、何処行ってたんでい」


弥勒と珊瑚は居ないようだ。犬夜叉は一人床にごろりと寝転んでいる。その姿はなんだかいつもよりダルそうに見えた。


「具合悪いの?」


「…別にそんなんじゃねえよ」


そして違和感。私は小屋に入る前に鋼牙くんに会った。ん?会ったんだよね?


「あんた、もしかして鼻利かないの!?」


つい大きな声が出る。彼はちらりとこちらに一瞥をくれた後、ゆっくり起きあがった。


「…だったらなんだよ」


すごく不機嫌そうだ。


「でも…朔の日でもないのに…」


「俺の鼻が利いちゃまずいとこにでも行ってたのか」


「そ、そういうわけじゃ…」


かなりご機嫌斜めのようで。ここで鋼牙くんの名前を出したら大変になることくらい私もわかる。


「……っけ」


どたっと再び床に倒れ込む犬夜叉。具合が悪い、ということは当たっているらしい。


「鼻にくる風邪かしら…」


ぽつりと呟いて、犬夜叉の傍に寄る。すると眉間にシワを寄せて彼が振り向いた。


「…んだよ」


「ちょっとごめんね」


犬夜叉の前髪を上げ、額と額を合わせる。


「……っんな!!?」


「ん〜…熱もあるかしら。少しあついかも」


「だっ、誰のせいだと…っ!」


「顔も赤いし…大丈夫?」


「うっ…うるせえ!!」


がばっといきなり犬夜叉が上体を起こすものだから、後ろに尻餅をつく。


「放っとけよ!!」


やっぱり顔が赤いし、ふらふらしてる。風邪決定ね。

「っげほ…」


「ちょっと!無茶するから!」


背中に手を添えて軽く叩く。咳き込む犬夜叉をあまり見たことがないから、心配になってきた。


「少し待ってて」


自分用の寝袋を開いて布団のように広げ、犬夜叉にかける。


「よし!おいで、犬夜叉」


「おいで、って……」


膝をぽん、と叩いた私に犬夜叉は項垂れていた。













「どう?少しは楽?」


「…ああ」


最初はあまり重みを感じなかったが、彼はだんだんと身体を預けてくれた。

顔を覆ってるため、表情が見えないのを少し残念に思ってたり。


「…っごほ…っ」


「犬夜叉…」


「…っ気にすんな」


「そんなこと言ってられないでしょ」


リュックの中からお茶を取り出し、犬夜叉の上半身を起こしてそれを渡す。


「はい」


「……ん」


彼はひとつ喉を鳴らしてお茶を飲み込むと、ゆっくり私の膝に倒れ込む。


「なんか…あの時みたいね」


「あの時?」


「蜘蛛頭のときよ」


出逢ってから初めて見た犬夜叉の人間の姿。あの時もこんな風に犬夜叉に膝枕をしたな、と思い出したのである。


「…んなこと忘れろよ」


「そういえば…」






――お前、いい匂いだ



――気にくわないって言ったくせに



――あんなの…嘘だ




甦る記憶。結局あの後詳しいことは聞けなかったけど…


「実際はどうだったの?」


「……何がだよ」


「私の匂い」


いい匂い?と聞くとこれ見よがしに盛大なため息がつかれた。


「めんどくせー女の匂いだよ」


「…何よそれ」


「すぐ怒るし、すぐ泣くし、よく食べるし、自分勝手だし…」


「はいはい!もういいわ!要するにあんた私のこと嫌いなのよね」


膝枕なんかしなければ良かったわ、と呟くと下から覗き込まれた。


「でもよ、」


その黄金色の瞳から目が離せず、気付けば頬を両手で包まれてた。


「俺の好きな匂いだ」


ぐいっと少し強引に顔を引かれ、感じたのは重なった唇の熱。

一瞬で離され、すぐに目を逸らされた。


「……寝る」


彼の顔が、これでもかというほど紅いのは熱のせいではないらしい。


「お、おや…すみ」


どうやら私にもその熱が伝染したみたいで。頬が火照っているのが自分でも分かる。

いつもより速い自分の心臓の鼓動を聴きながら、いつしか眠りに落ちていた。


――


寝た……か?


微かな寝息を確認してから起きあがる。

かごめは壁にもたれかかって気持ち良さそうに寝ていた。彼女の頭を起こさない程度に撫でる。


「嫌いなわけねーだろ、ばか」


むしろ好き過ぎておかしくなりそうなくらいなのに。


細い輪郭を指でなぞる。女性特有の柔らかい肌が、指に気持ちいい。


そして自分の今の状況に苦笑する。


風邪などではない。

珊瑚の新しく作った妖怪退治用の臭い玉のせいだ。

そして作った丸薬を小屋の前で乾燥させていたものだから、気付かずに踏み潰し即刻やられたのである。

おまけに以前より強力に作ったらしく、鼻の麻痺に加えて喉にも影響を与えたのだ。

ぶっ倒れた俺を心配した珊瑚が、弥勒と七宝を連れて地念児のところへ向かったのだが。


……んな情けねえこと、かごめに言えるか!!



はあ、と軽く息を吐いてかごめを見やる。鼻が治ってきたのか、今では優しい匂いが感じられた。



そして、ムカつく狼の匂いも。


「…お前、起きたらただじゃおかねえからな」


そう言いながら、額に軽く口付けをする。





唇にするのは…お仕置きの時までとっておこう。



もう一度かごめの膝に頭を乗せて、いい匂いをめいっぱい吸い込む。








――たまには、こんなのも悪くねえかもな








俺は、好きな匂いに包まれているのを感じながら、今度こそ眠気に身を委ねたのだった。







ツンデレ←笑

初期の頃の犬夜叉を思い出しながら…まあ唇重ねちゃいましたけど( ̄▽ ̄)笑

蜘蛛頭の朔犬…っ!v

5巻すっきー笑
…桔梗出てくる前までは←


そして鋼牙くん、まさかの出オチ!笑

今度はちゃんと君のこと書くから!いつか!


お読みいただきありがとうございました!

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あきゅろす。
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