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小説
夜を駆け抜ける想い

甘最後シリアス
(犬かご←鋼)










喧騒と迷惑を夜風に乗せて一筋の竜巻が近づいていた


『夜を駆け抜ける想い』


夫婦になってからの朔の日は良くも悪くもあった。

昔と変わらず爪も牙もない人間の姿は嫌いだ。

村に住むようになり、旅をしていたときよりも安全とはいえ妖怪に襲われないとは限らない。


「犬夜叉、来て?」


良いことっていうのは、これだ。


「おう」


やたらかごめが甘えてくること。素直にかごめの隣へ座ると、華奢な身体を擦り寄せられる。

そっと手を細い髪に絡ませると、気持ち良さそうに目を閉じる。猫みたいだ。


「やわらけーな、お前」


白い頬を指でつつく。爪がない分、いつもより強く触れることが出来るのが嬉しい。


「犬夜叉の犬耳の方が柔らかいよ〜」


「…いつ触ってんだお前」


「寝てるときよ」


呆れた、という意のため息をつくと眉を下げられた。


「…いや、だった?」


「呆れただけだ」


そっと抱き寄せると笑みをもらす。甘いひととき。


「…かごめ」


「ん」


低く名前を呼ぶと大きな瞳を閉じられる。これが口付けの前の暗黙の了解。今夜は牙もない。普段より気を使わなくても良い。

ささやかな喜びを胸に秘め、かごめに顔を寄せたとき……


「かごめーっ!」


がららっ


空気の読めねえ狼が来やがった。


「こっ鋼牙くん!?」


「……」


「かごめ…っ」


妙な空気が流れちまった。先ほどの良いむうどが一瞬にして無くなった。


「犬っころてめえ〜っ!かごめに手出しやがって!」


「ざけんな!俺の嫁だ!てめえにゃ関係ねえだろ!」


うっかり嫁などと恥ずかしいことを口走ったなんて気付かなかった。


「ちょっと、喧嘩は止めてよ…」


少し頬を染めて仲裁に入るかごめに動きを止める。鋼牙も同時に止まったことから同じことを考えているらしい。


「「(…可愛い)」」


夫になったからといって恋愛に余裕ができるわけではない。さっきの行動は…深くは触れないでおく。


「鋼牙くんいらっしゃい。今日はどうしたの?」


「おぉ、忘れるところだったぜ」


どんっと足で蹴り飛ばされる。起き上がってみると鋼牙はかごめの両手を握っていた。


「こいつの治し方、教えてくんねえか?」


言うなり鎧を脱ぎ出した。

「わあ、これはひどいわね…」


鋼牙の腹には何かに切られたように右斜めの傷跡がある。毒が含まれているのか、傷跡からじくじくと血が噴き続けているようだ…ってことよりも、


「これは毒消しからね…」


いくら怪我の治療とて、男の裸の上半身をまじまじと観察する妻に肩を落とさずにはいられない。

元を正せば生傷ばっか作る俺の治療をしてくれたことが原因なんだが。


「鋼牙くん、ちょっと我慢してね」


「……ってぇ…っ」


かごめの消毒は本当に痛いのだ。鋼牙の痛がる様子にざまあみろと思った時だった。


「鋼牙くん、今日泊まっていって?」


「いいのか!?かごめ!」


「うん!その傷で野宿は心配だし…」


「俺は認めねえぞ」


「犬夜叉……」


認められるわけがねえ。ただでさえ朔の日で誰にも姿を見せたくないってのに…


「てめえが弱っちい人間の姿だからかごめも不安なんだよ!ばーか!」


「なっ……!」


「違うわよ!!鋼牙くんも適当なこと言わないの!」


もう、と言いながらかごめは布団の準備をする。


「この薬、副作用で眠くなっちゃうの」


どう?と促すと鋼牙は少し不思議そうに目を擦る。


「どうりでなんか眠いわけだ……」


三人分の布団が敷き終わる頃には鋼牙がまぶたを閉じていた。


「…ずいぶんと効くのが早えな」


「薬の効力が強い分、副作用も強いのよ」


私たちも寝ましょう、と布団に潜り込んだかごめをヒョイと持ち上げる。


「え、犬夜叉!?」


「…お前鋼牙の隣で寝んのかよ」


「私が真ん中だったら喧嘩にならないかな、って思って」


「思うな、んなこと」


俺が痩せ狼の隣ってのは気に食わねえが、かごめを奴の隣にするよりは全然ましだ。

布団にそっとかごめを降ろして、毛布をかけてやる。


「俺の身にもなれよ、お前」


「なんで?」


「なんでも、だ」


「変なの」


くすくすと笑うかごめに口付けしたい衝撃をこらえる。


「寝るぞ」


「はあい。おやすみ、犬夜叉」


「おう」


目を閉じた。

まぶたの裏には、先ほど楽しそうに笑っていた妻の姿が消えずに残っている。


――今夜はいい夢が見れる気がするな…


そんな予感と、期待を胸に秘め、睡魔に身を委ねた。













「ったく…見せつけるんじゃねえよ」


二人分の寝息が聞こえるのを確認し呟く。


人間の薬の副作用は妖怪(おれ)には効かねえよ、かごめ。


ただ、人間用でもバカに出来ないもので。腹の傷の血は完全に止まっていた。

そっと上半身を起こして、隣を眺める。

黒髪を絡めながら幸せそうに眠る二人は、もう昔とは違うということが解る。

それでも想い人に逢いに来るのは、旅をしていた時の気持ちが疼くから。


「…なんてな」


――でも、今だけはここに居てもいいよな…?


潜り込んだ布団からは優しくも切ない匂いがした。




朔の夜が、明けようとしていた。






最後はシリアスに…!
鋼牙くんはちょくちょく遊びに来るといいな〜(´Д`)


視点がころころ変わるのはご愛嬌です←


いざ精進!笑


お読みいただきありがとうございました!

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