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小説
茶屋で一回休み

ギャグ?←
(犬かご)













初夏の風が吹く。木々が鮮やかな緑色を揺らし、木漏れ日が暖かく地面を照らしていた。


『茶屋で一回休み』


「あ、お店屋さんがあるわ!」


「ちょっと寄っても良いだろ?」


村の近くに茶屋や呉服屋が立ち並んでいる。やはり、そういう類いのものはおなごが好きなもので。


「まあ、少し寄るくらいならいいですよ」


やったね、とはしゃいで店に走っていくかごめと珊瑚。


「…また休憩かよ」


ムスッとそっぽを向くのは犬夜叉。しかし文句は言うも引き留めはしない。なんだかんだで休憩を喜ぶ彼女を見るのが好きなのだろう。


「犬夜叉、お前も少し息を抜け」


焦っても情報は入ってこない、と諭せばぴくりと耳が反応する。


「けっ、仕方ねえからお前らに合わせてやるよ」


これだから人間は、と言いつつ真っ直ぐかごめの方へと向かう。

敏感な彼の耳に入らないように密かに含み笑いをする弥勒だった。


――


「犬夜叉!ここのお団子美味しいのよ!」


茶屋に近付くと可愛い頬を膨らませて、団子を頬張るかごめを見て苦笑する。

女っぽいのか子供なのか分からない。


「そんなにか?」


「食べる?」


質問を質問で返された。確かに美味そうなので軽く顎を引く。


「はい、あげる」


満面の笑みで差し出される団子。そのままかぶり付くわけにもいかず先の方の団子をつまんで口にいれる。


「美味しいでしょ?」


「…おう」


その微笑みにつられてこっちも笑顔になりそうなのを口を抑えることで隠す。
珊瑚はそれに気付いてるのか。くすくすと漏れる声にムッとする。


「あたしは法師さまのところにでも行ってくるよ」


「行っちゃうの?」


ああ、と珊瑚は軽く頷いて笑いながら立ち上がる。


「法師さまの悪い女癖、叩き直してくるんだ」


じゃあまたあとで、と遠ざかる珊瑚に軽く手を振るかごめの横にちゃっかり座る。


「犬夜叉もお茶飲む?」


「…おう」


「はーい、っと。おばちゃん!お茶一つ下さい!」


元気な奴、見てて飽きない奴、なんてぼんやり横顔を眺めていると注文を終えたかごめと眼が合った。


「ありがと」


不意打ちな笑顔に心臓が跳ねる。


「…何がだよ」


「ここを休憩の場にしてくれて!」


村も賑わってるし、団子美味しいし!と笑うかごめは本当に楽しそうだった。


「あんまし休憩して食ってばっかだと太るぞ」


「し、失礼ね!そんなに食べてないわ!」


「ほぉ。その串の量は何だ?」


「犬夜叉だって食べたじゃない!」


店先で始まった喧嘩もどこか心地好い。やはりのどかな季節のせいか。


「そろそろ行こうか?」


「ああ」


同時に立ち上がって、一歩踏み出したところで顔を見合わせる。


「かごめ、お前もしかして…」


「あんたが持ってると思ったから…」


「…逃げるか?」


「何言ってんのよ!犯罪じゃない!」


支払うお金がないのだ。


「じゃあどうすんだよ!」


「今考えてんじゃない!」


「…あの、お客さん」


控えめだがしっかりと聞こえた声に二人は固まる。穏やかに微笑む店員に、先に折れたのはかごめだった。


「すみません!今払えるお金を持ってないんです!」


「あらまあ…」


「長居は出来ませんが何かお手伝いさせて下さい!」


思いきり頭を下げたかごめの黒い髪の毛が宙に広がる。


「あんたも頭下げなさい」


ぼそりと呟かれた声は無視する。何が悲しくてこんなばばあに頭下げにゃ――


「…おすわり」


どぉん


「ふぎゅっ!!」


呆気なく頭――いや体ごと下げられたのだった。


――


「あら、お嬢さん似合うわね〜」


「そうですか?」


「お兄さんも素敵ですよ」


「……」


無銭飲食の代わりは店を手伝うことだった。

優しいおばさんはお連れさんが来るまででいいわ、と言ってくれて今二人はいつもと違う服に袖を通している。

かごめは濃紺の小袖に紅い帯、髪は後ろでひとつに結わえられている。

犬夜叉はというと同じ濃紺の小袖に深緑の帯で頭は白い手ぬぐいを巻かれて上手く耳は隠れている。


「お嬢さんはお客さんにものを運んでね」


「犬夜叉は何をすれば…?」


「薪を割ってくれると有り難いわ」


「鉄砕牙使っちゃダメよ」

「分かってらあ」


じゃ、と軽く言葉を交わしお互いに仕事に専念することにする。


――


表で働くかごめの足音に神経を尖らせながら薪を片手で割っていく。

どうやら見かけ以上に繁盛しているらしく、訪れる客の色んな匂いが混ざり合う。


「…気に食わねえ」


無意識に呟いていた。さっきからかごめの近くに同じ匂いがまとわりついている。

からんっと俺に投げ捨てられた斧の音が後ろで聞こえた。


――


「お、お客さま困ります……」


さっきから執拗に絡んでくる男に控えめに抗議した。無銭飲食なのに働かせてもらってる手前、事を荒立てるわけにもいかない。

途方に暮れる、とはこのことだ。


「ねーちゃん、つれないねえ〜。」


団子を頬張りながら口を開く男。口から団子の欠片が飛び出してくるのは言うまでもない。


「仕事ですので…私はこれで…」


その場から逃げようと男に背を向けたとき、


「お客さまに奉仕すんのがてめえらの仕事だろうがぁ!!」


紅い帯の結びを掴まれた。

――奉仕、は意味が違うんじゃ…

世界が回る。巻かれている帯が引っ張られているから巻き付けられている体が回るのも道理だ。


「へっ、生意気な小娘が意気がってんじゃねえよ!」

おら、相手しろよと髪の毛を引っ張られる。抵抗しようにも目が回って気持ち悪い。


「立てっつってんだよぉぉ!!」


振りかぶられた手が揺れる視界に映る。反射的に目をつむった。


ばちんっ


痛々しい音がする。しかしその衝撃がなかなか来ないことに恐る恐る目を開ける。


「てめえ、ナメた真似してんじゃねえぞ」


殴られたのは犬夜叉だった。ただその男は犬夜叉より痛そうな顔をしている。

なんでだろう、と消えそうな意識の中で思った。


――


「っ……えっ…げほっ」


何故か右腕を変な方向に曲げた男が走り去るのを見送った後、すぐかごめを茶屋の裏に連れていった。

背中をさすると堪えていたのだろう、苦しそうに胃の中の物を出している。


「すまねえ」


水で口をゆすがせて、小袖の襟を揃えてやる。


「っ……だい、じょぶ…」

頭を軽く撫でるとすがりつくように懐に顔を押し付けられた。


「…すまねえ」


それしか言葉が思い付かねえ自分が情けない。震える肩に腕をかけるとその小ささに気付かされる。


「でも……どうして?」


「ん?」


「薪割ってたんじゃなかったの?」


「…」


まさか、かごめのことが気になって途中から覗き見してたなんて


「犬夜叉?」


恥ずかしくて…


「ねえ、なんで?」


上目遣いの潤んだ瞳は反則だ。ぷつんとどこかで何かが切れた。


「お前にまとわりつく奴の臭いが気に食わなかったんだよ!!」


「え!?なんで怒るの!」

「気付け、ばか!!」


目が点になっているかごめに目眩を覚える。どこまで鈍感なんだお前は。


「お前が他の男と一緒にいんのを見ると痛えんだよ!」


胸が、というのは残っていた冷静で抑える。


「自分の格好分かってんのか!?今のお前……」


今のかごめ――帯はなく、小袖の前と結った髪が乱れている状態。

同時にそれを見て、同時に顔を合わせる。


「犬夜叉の変態ーっ!!」

ぱっちーんと叩かれた頬はさっきの男のものより痛かった。


――


「その顔はどうした、犬夜叉」


「…てめえにゃ言われたかねえよ」


お互い顔に鮮やかな紅い手形をつけている。


「どうせかごめさまにイヤらしいことして怒られたんだろう?」


「お前も同じだろうが」


「…本当にしたんですか?」


墓穴を掘った。…いや、あれはイヤらしくないだろう。


「しかし楽しそうですな」

かごめさま、とにこりと微笑みながら俺を窺う弥勒。

どんな口説き文句を使ったんですか、などと興味の塊のような法師なぞ放っておく。


夜を連れてくる風に乗って愛しい人の香りが鼻に届いた。


誰にも気付かれないように、少しその空気を深く吸い込んだ。


日は、沈もうとしていた。






色んなものに影響されながら書いた←笑

お、と思った台詞があったら多分それ引用してるものです( ̄▽ ̄

季節感皆無は微笑みながらスルーしてください笑


お読みいただきありがとうございました!

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