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小説
そんな甘い夜に


2月14日、聖バレンタインの日。

そんな夜に井戸に腰かけて愛を囁き合う二つの影――


















「ダメなものはダメって言ってるでしょ!」


「理屈になってねぇだろ!」






――があるわけではなかった。




**






そこには非常に不機嫌な犬夜叉と、困ったように説得するかごめの姿があった。



「これ食べたら体壊しちゃうのよ!」




「弥勒や珊瑚にはやるのにか。」





不貞腐れた犬夜叉はさっきから同じような言葉を繰り返す。





かごめとて渡したい気持ちは山々なのだ。夜遅くまで心を込めて作ったチョコなのだから。


しかし、思い出してしまったのだ。



“犬にネギ類、チョコを与えてはいけません”







犬扱いしようものなら彼は絶対に傷つくだろう。

しかし、犬耳といい、よく利く鼻といい、あれは完璧な犬妖怪である。




半妖なため死に至るほどの症状にはならないだろうが、心配なものは心配なのだ。







「ねぇ、わかってよ、犬夜叉。今度はクッキー持ってくるから!」


「く…きー?なんだそりゃ?」





予想外にも興味を示してくれたので、内心ほっとする。




「焼き菓子よ。チョコよりおいしいんだから!」





ふーん、と不思議そうに話を聞く犬夜叉はまるで仔犬のようで、かごめは思わず微笑んだ。








「…余ったそれはどうするんでい。」



「私が食べるわ。」




さぞ当たり前かのように即答するかごめに犬夜叉はそっぽを向いてしまった。





「けっ…勝手にしやがれ。」










――悪かったかしら、と思いつつチョコを次々に口に入れていく。




残り二個のところで犬夜叉に声をかけられた。





「かごめ、ここに『ちよこ』付いてるぞ。」




「え!嘘っ、どこ?」





ぺろりと舌を伸ばすが、どうやら違ったらしい。




頬近くに付いているらしく、見えないかごめには拭うことができない。





「あ゛ー!違えって!」





しびれを切らした犬夜叉がかごめに手を伸ばす。









「え……んっ!?」















親指の腹で軽くひと撫でした犬夜叉



「ぁ…ありが…あーっ!」


そしてそれをぺろりと舐めたのである。





「食べちゃダメって言ってるのにーっ!」





――何かあったらどうしよう!




心配するかごめをよそに、犬夜叉は口内と指から広がる匂いを不思議そうに見る。









「甘ぇ…」




「…お、美味しい?」




食べられてしまったものは仕方がない。

味を気にするかごめに、カップラーメンをあげたときのような顔をして犬夜叉は振り返る。





「おぅ。」




「本当に!?よかった〜!」




「…くきーってのも甘ぇのか?」




何かを考えるように尋ねる犬夜叉。



「クッキー?まあ、種類によるけど…普通は甘いわよ。」






「ばれーたいんってのは甘ぇもんを食う日なのか?」




大真面目に聞いてくるものなのでかごめはクスッと笑う。





「な、何がおかしいんでい!」






「う〜ん、ちょっと違うけど、そういうものかもしれないわね。」





そうか、と小さく呟くと犬夜叉はじっとかごめを見た。





「な、何よ。」






「ちよこは食っちゃいけねえんだろ?」




「そうよ?どうしたの、いぬや…っ!」



















犬夜叉が始めて、犬夜叉が終わらせた。









「…っは!え、なに!?///」





真っ赤な顔のかごめを楽しそうに見つめながら再び引き寄せる犬夜叉。







「甘ぇもん食う日なんだろ?」







ぺろりと先程チョコが付いていたかごめの頬を軽く舐める。




「〜…っ!?///」






「そっちの菓子なんかより…」






顎に手をかけられる。

























「こっちの方が充分甘ぇよ」



















月に照らされる二人の重なる影。





口の中が甘いのは、どうやらチョコレートのせいだけでは無いらしい。
















――2月15日の朝



「ん!これは美味しいですなあ。かごめ様がお作りになられたので?」



「うん!本当は昨日渡すつもりだったんだけど……」




「いいんだよ、かごめちゃん。そうだ!今度あたしにも作り方教えてくれないかい?」




「もちろん!喜んでもらえてよかった!」



かごめの笑顔につられるように微笑む二人。


かごめが七宝に話しかけている間に、つつつと寄り合う。






(まあ、良いものを見させてもらえてこちらも嬉しいですよね、珊瑚?)




(覗きなんてやめなよ、趣味が悪いなあ…)


(おや、珊瑚だって食い入るように見てたじゃありませんか。私だけ責められるのはおかしいですよ?)



(…わかったよ、法師様。いや、珍しかったものだからさ。)




(はっ!もしや珊瑚もしたいのでは……今宵は二人で…)


「せんでいいっっ!!!」

ぱしーん






急に殴られている弥勒を呆れた眼で眺めながら、ふと七宝が尋ねる。



「なあ、かごめ。犬夜叉の奴はどこに行ったんじゃ?」




「みゅ〜」




「そういえば…どこかしら?」















「……。」




一人樹の上で風に吹かれる犬夜叉。



少しぼんやりするのは、昨日の『ちよこ』とやらのせいだろうか。






昨夜のひとときが夢でなかったことを確かめるように、



何度も何度も、軽く己の唇をなぞる姿があった。








→あとがきバレンタインねたです!

時期がずれていることは、目をつむってやってください…orz

今度からは季節にあったネタでやろうと思います!笑

お読みいただきありがとうございましたm(__)m

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