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小説
月下の歌声

甘(犬かご夫婦)




ちゃぷ…


月浮かぶ湖に響く水の音。

清少納言が記した枕草子の中にあるように「夏は夜」が一番風情がある。

水が澄んでいるのだろう、仄かな螢の光が幻想的で昼間とは全く別な世界のようだ。


『月下の歌声』


「っふう〜…」


昼は薬草摘みや、子供たちとの戯れでなかなか休憩がとれなかった。

今、私は水浴びをしているのだ。

夏の夜はまだ少し熱を帯びている。水も冷たいわけではないので入れないことはない。

村の人達には「禊」と言われていて、覗かれる心配もないのでゆっくり入れ…


「犬夜叉、覗いちゃダメよ!」


「別にいいじゃねえか」


「ダメって言ったらダメ」


「…けっ」


…るわけではないのだ。

ふいっとそっぽを向くのは過保護過ぎる夫。

夜に出歩くのさえ危ないのに禊なんざやんじゃねえ!と言いながらも、見張りに来てくれたのだ。

覗くなと釘を刺してるため一応樹の裏に紅い姿を隠している。

一応犬夜叉もいるから、私は安心して水浴びを楽しむことにする。

すぃと水の中に潜ると、月の光がゆらゆら水面に揺れながら底まで届くので、つい魅とれてしまう。

それでも息が続かないから一旦空気を吸うことにした。


「っぷは〜…ふぅ」


ざばっと静寂を破る水音も気持ちが良い。髪を掻き上げて月を見上げる。


「……おい」


「ひゃあ!?」


突然声が聞こえて、変な声が口から飛び出していた。


「な、何よ!」


泳いでるうちに犬夜叉が座っていた樹の側まで来ていたらしい。すぐそこには後ろ向きの彼の姿があった。


「……あのよ、見ちゃダメか?」


「ダメに決まってるでしょ!」


何言ってんのよ、と文句を言うと怒鳴り声が返ってきた。


「ちげえよ!そういう意味じゃなくてだな!!」


「じゃあどういう意味よ」


「……だから…」


ゴニョゴニョと呟く犬夜叉の声は後ろ向きのせいもあってよく聞こえない。


「…なあに?」


さっきより優しい口調で尋ねると、ため息をつかれた。


「…不安……なんだよ」


「どうして?」


「お前が水ん中に居ると匂いが途切れんだよ」


どうやら存在が確かめられなくて不安らしい。


「でも、耳があるじゃない」


「聴こえんのが水の音だけなんだよ」


「じゃあどうすればいいの?」


しばしの沈黙。


「俺がみ……」


「見ちゃダメ」


「……じゃあ、歌ってくれよ」


「へっ?」


「昼間歌ってただろ?ガキどもと一緒に」


突然な頼み事に驚く。というか、あんた聞いてたのね…


「嫌よ、恥ずかしいもの」


「なら見るぞ?」


どうする?という彼は顔を見なくても分かる。明らかに笑ってるようだ。


「…下手だけど笑わないでよ?」


「笑うわけねえだろ」


きっぱり言い切られてしまう。今度は私がため息をつく番のようだ。


「…はあ。じゃあ歌うわ」


「おう」


歌ったのは「ほたる」。季節もちょうど良いし、一番簡単な音程だから。

初めは恥ずかしかったけど、静かな湖畔で響く声があまりにも心地好くて。

気付けば、頼まれてもいないのに三曲くらい歌っていた。


「あ、あがるわ!」


歌い終わった後に沈黙になるのが怖くて、さっさと着替えるために湖から上がった。

着替え終わってから先ほど犬夜叉が座っていた場所に向かう。


「いぬや…しゃ…?」


そこには小さく寝息を立てる番犬の姿があった。


「…番するんじゃなかったの?」


思わず笑みがこぼれる。ここで夜を明かせば風邪を引くかもしれないのだが


――もう少し、このままで…


そっと隣に腰かけると、耳が微かに動いたように思ったが、その眠りを妨げることはなかったようだ。


「歌、良かった?」


軽く頬を撫でると、眉をしかめられた。その反応が面白くて、しばらく触れていると穏やかな顔になる。


――どんな夢、見てるのかなあ?


子供を見守る母親のような気分で、しばらく眺めているとだんだん悪戯がしたくなってきた。

普段は絶対に見せない無防備な寝顔にときめきながら、顔をそっと寄せる。


――いつも犬夜叉からだもの。たまには…


頬を手で軽く挟み、顔を少し傾けて唇を合わせる。

寝息が消えた。

自分からにしては少し長めの口付けを落とし離れようとしたが、後頭部に置かれていたのは手。

明らかに自分のものではない手に心臓が飛び出そうになった。


「……っん、っ…」


そろそろ呼吸が難しくなったことを見計らったように顔が離される。


「お、起きて…ったの?」


ぜはぜはと乱れる呼吸の中、かろうじて言葉を発す。


「俺が寝るわけねーだろ」


ばーか、と意地悪い笑みを浮かべた犬夜叉。


「そういうことは、俺が起きてるときにしろよ」


まあ、今回は得したけどな、と満足気に微笑む夫に脱力した。


「帰るか」


手を引っ張られ背中に乗せられる。未だにくすくすと笑う彼に腹がたつ。



今度は本当に寝てるときにやろう、と密かに決心したのは内緒の話。





どうも最近かご→犬が多い笑

奥手なんだよ、うちの犬夜叉くんは(´Д`)笑

まあ、がっつり書いたら危ないからということもあるんだけどね〜( ̄ω ̄)←

お読みいただきありがとうございました!

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