小説
私とワルツを♭
パラレル
シリアス(犬かご)
ざわざわざわざわ
あれが犬夜叉様らしいわ
まあ、なんて美しい方なんでしょう!
しかしあんなお若いのに可哀想よね
家族と恋人がお亡くなりになられたとか…
しっ、聞こえるわよ!
ざわざわざわざわ
『私とワルツを』
今宵は仮面舞踏会。全国の貴族たちがきらびやかに飾り立てて、踊る人を見定めている。
私もその中の一人。笑顔の仮面をつけて、本心を隠す。
私は故郷から逃げてきた。親も、兄弟も、大切な人たちも置いて。
理由は、一国の姫だったから。小さな国だったけど、私一人が犠牲になれば国には手を出さない、と言われ今は追われる身となっている。
偶然拾われた名家に事情を話し、今は珊瑚さまの侍女をやっている。
「かごめちゃん!」
仮面をつけていても分かる。
「珊瑚さま!いかがなされました?」
問うと、困ったように笑われる。
「敬語は禁止、って言ったのになあ」
「いいえ、このような正式な場では…」
「かごめちゃん、友達に正式も糞もないさ」
男勝りで友好的な珊瑚さまに拾われてよかったと思う。
「…ありがとう、珊瑚ちゃん」
「ふふっ、ねえ躍りに行かないかい?」
「うん!」
手を引かれ、会場の隅へ連れていかれる。そこには二組の男性の姿があった。
「お、来ましたか珊瑚」
「待たせたね。こっちがかごめちゃん!あたしの友達だよ」
「弥勒と言います。よろしくお願いしますね、かごめさま」
「はい、弥勒さま」
仮面の下からでも分かる人の良さそうな顔。思わずこちらまで微笑んでしまう。
「ほら、犬夜叉。あなたも名乗りなさい?」
もう一人の男性には見覚えがあった。先ほど貴婦人方が噂していたお方だ。
間近でみると、漆黒の髪は女のそれより美しく、整った顔立ちは弥勒同様仮面など関係無しにうかがえる。
綺麗、という表現が一番妥当だろう。
「けっ。名乗ったら仮面の意味ねえだろ」
…黙っていればの話だが。
「あ、あの。私はかごめと……」
「さっき聞いた。何度も言わなくても分かる。」
「……」
苦手だ、この人。珊瑚ちゃんに助けを求めようと振り返ると、
「あれ?いない!?」
「あっちだ、あっち。」
指差されて見ると、会場の真ん中付近で優雅に踊っていた。
「あの二人は許嫁だからな」
知らなかった。しかし、楽しそうに躍る二人は確かにお似合いだった。
「いぬ……あれ?」
横に居たはずの犬夜叉に眼を向けると、消えている。
慌てて見渡すとすぐに見つかった。闇より深い髪が非常に目立つ。
「犬夜叉さま!どちらへ…」
「こういう場所、好きじゃねえんだよ」
振り向きもせずに言い放ち、ついた場所は会場から少し離れたバルコニー。
「おめえもなんか訳ありだな」
唐突に言われて、つい胸を抑える。どうして、と尋ねるのを遮るかのように犬夜叉が言葉を発した。
「あそこにいる奴等どもを見てどう思う?」
顎で示されて、そちらを向くと全員が仮面をつけ本性を隠して踊っている。仮面をつけることで、大事なものを脱ぎ捨てていくような…
「奇妙、だと思います」
だろ、と笑う犬夜叉に眼を向けると、俺も同じように思うと言われた。
「仮面とれよ、かごめ」
そう言いつつ仮面を取った彼に不覚にも胸を鳴らしてしまった。
思った通り端正な顔立ちは漆黒の髪によく似合う。
だけど、と一つ気になる。
――哀しそうな瞳なのは何故?
「…へえ」
仮面をはずすと、品定めするような視線が感じられた。少々嫌気がさしたが、そこは黙っている。
「かごめ姫、か。確か今逃走中だったな」
「!」
「安心しろ。誰にも言いやしねえよ」
ふっと笑われて警戒心が解ける私は甘いと思う。
「今は…お互い独りか」
ぼんやり星を見上げる姿は寂しげで儚かった。その言葉で合点がいく。この人も親や恋人を失っているのだった。
「あの、犬夜叉さまは何故誰とも踊らないのですか」
話題を変えようと、さっきから気になっていたことを尋ねる。…即答だった。
「面倒くせえから。お前知らないだろ。ああいうのは恋人作り目当てだぜ?」
いらねえよ、そんなもん。最後はボソッと呟いた。
――あぁ、そうか。
失う時がいつか来ることをこの人は知っているのだ。
それこそ哀しいくらいに。
だから関係を持たないようにするのは、自分も相手も傷付けないため。
――どうせ傷付くなら自分だけで良いと、あなたは孤独に独りで踊ってきたのでしょうか。
はたりと落ちた滴が自分の涙だと気付くのに時間がかかった。
「お、おい、なんで泣いてんだよっ…」
「あっ…なたは…」
声が震えてた。完璧に泣いてるなあと思いながら続ける。
「優しい…お方です…ね」
止めどなく流れる涙は、せっかくのドレスを濡らしていく。分かってはいるのだが止まらないものは止まらない。
「……んなこたねえよ」
そっと目元に指を添えられ涙をぬぐわれる。滲んだ世界に映った彼もまた、泣きそうに見えた。
「いっ…ぬやしゃさま…」
「……ん?」
ごしごしと袖で涙を拭く。ドレスのことは後で珊瑚ちゃんに謝ろう。
「…っどうか……」
独りの寂しさは痛いほど分かる。
あなたはどれだけの孤独に耐えたのですか?
あなたはどれだけ自分を傷付けてきたのですか?
同じ境遇であるなんて、独りよがりな考えかもしれない。
でも、失う哀しみを知っているもの同志なら支えあえるかもしれない。
「どうか私とワルツを…」
「!」
驚きのためか灰色の瞳が揺れている。ふいと逸らされ、吐き捨てられるように呟かれた。
「さっきの話聞いてたか?俺は誰とも関わりたくなんかねえ」
「……」
「…お前に俺の何が分かるんだよ」
「全て分かることはできませんし、分かり合えてるのかも確かめられません」
ただ、と懸命に言葉を紡ぐ。
「ただ私は…犬夜叉さまのお側に……」
身体が何かに包まれた。それが彼の腕だと分かったのは、耳元で声が響いたからだった。
「…少しこのままで居させてくれ……」
低く掠れた声は、何処か湿っているような気がした。
「犬夜叉さま…泣いておられるのですか?」
「…お前じゃあるまいし、泣くわきゃねえだろ」
ばっさり否定された。それと、と声が続き耳を傾ける。
「…犬夜叉、でいい」
かろうじて聞こえるほど小さな声。意味を理解する前に体が離れる。
「…かごめ、誘ったからには踊れんだろうな?」
「は、はい…おそらく…」
少し慌てると、敬語なんざ使うな、と言いながら頭をくしゃりと撫でられた。
「教えてやる。来い」
手をとられ、腰に手が回される。ふと目が合う。
――自惚れてもいいでしょうか?
そこには先ほどの哀しみに満ちた瞳ではなく、優しげな眼差しをたたえた表情があった。
――
「上手くいってるみたいだね」
「それにしても、あの犬夜叉が心を開く女性がいるとは…」
「当たり前だろ?なんたってかごめちゃんは、あたしの友達なんだから!」
「そうでしたね。さあ、珊瑚。私達もワルツを…」
「ああ。」
そして私とワルツを
どうか私とワルツを
了
鬼束ちひろ/私とワルツを
でした!いやあ、思い付きでびゃああっと( ̄▽ ̄)笑
朔犬なのは、イメージ的に…?←
歌詞になぞらえて書くの楽しいですね〜( ̄ω ̄)
あれ、違法じゃないよね?(°Д°;ビクビク
お読みいただきありがとうございました!
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