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小説
夢魔―むま―

シリアスと見せかけ甘甘
(犬かご)







ざああ


遠くで水の音がする。

雨、か?


どんどん近付いてくる水音。それに混じって薫ってくるのは、血の匂い。

誰のだ?


「い…ぬや、しゃ」


「!!」


「さ……ょ、な…ら」


振り返ると、血まみれのかごめの笑顔。




『夢魔―むま―』




「っは……は…っ!!」


遠くでフクロウの鳴き声がする。まだ明けそうにない空は薄暗い。


――夢…か……?


隣には幸せそうに寝息を立てるかごめの姿がある。


「…情けねえ」


自己嫌悪。番の最中にうたた寝したこともだが、夢で飛び起きるなんて愚を犯したこともだ。

そっと寝ているかごめの頬に触れようとして気付く。自分の手が震えていた。

苦笑が込み上げてくる。たかが夢に情けなさ過ぎる。


「かごめ……」


かごめは小さく反応して、寝返りを打つ。


彼の声は、彼女の夢にまでは届かない。




――


「ごめんね、みんな!」


「いいんだよ、かごめちゃん。ついでに休養取ってきなよ」


「犬夜叉も異存はないですね?」


「…ああ」


奇妙な沈黙に顔を上げると、驚いた顔の面々が目の前にいた。


「なっ、なんでい!」


「い、いえ…あまりにも珍しいことでしたから…」


「熱でもあんじゃないのかい?」


「ばっきゃろ―っ!んなわけねえだろ!」


驚き、というよりからかいが混じってきた弥勒と珊瑚から一刻も早く逃れたい。


「おら、行くぞかごめ!」


「い、犬夜叉も来るの!?…って、ちょっとぉ!!」


文句を言うかごめを背中に乗っけて井戸に走り出す。


「な、なんだアイツ…」


「まあ、いつものように喧嘩しなくていいではないですか」


にこにこと二人を見送る弥勒と珊瑚はのどかな昼の空を仰いだ。




――


「……」


部屋にはかりかりとシャーペンがノートを走る音だけがする。


後ろから感じるのは…視線。


「ねえ、犬夜叉…」


「なんだよ」


「ちょっと草太と遊んできてくれないかしら?」


「…わあったよ」


素直にあっさりと部屋から出ていこうとする犬夜叉に驚く。


「また来っからな」


ドアを閉じる間際、呟かれた言葉の意味を呑み込むのに時間がかかった。


「どうしたのかしら、犬夜叉……」








――


「かごめ?」


しばらくして再び部屋に戻ると誰もいない。探そうと部屋から出るとかごめのおふくろがいた。


「あら、犬夜叉くん。どうしたの?」


「おう。かごめがいねえんだけど…」


「かごめならお風呂よ。多分もうすぐ上がると思うけど…」


「そうか」


部屋にいる、と伝えると分かったわと微笑まれる。その優しい笑顔はかごめとはまた違うものだった。


かごめの布団に倒れ込むと良い匂いが辺りに広がった。気持ちが良くて目を閉じると、周りの音がより耳に入ってくる。

外で細く鳴く風の声。

階下での心地よいざわめき。

ふとまどろむと新しい音が入ってきた。



ざああ



びくりと起き上がる。今朝の夢が蘇って心臓が暴れだす。


「か、かごめ…?」


いや、たかが夢のこと、と一回その場に座る。が、どくどくと鳴り止まない速い鼓動。


ざああ


「…っ!!」


血の匂いがした。


気付けば部屋を飛び出していた。




――


「やだ、もう……」


石鹸がきれていたので新しいものを開けようとしたらパッケージで指を切ってしまった。


「う〜ん…結構切っちゃったかしら…」


お湯を浴びたため血行が良くなったのだろう。血はなかなか止まらない。


「っま、いっか」


普段このくらいの怪我日常茶飯事だし、と浴室に戻ろうとする、と


「っかごめ!!」


ガチャとドアが開いて入ってきたのは…


「犬夜叉…っ!?」


ざああ


出しっぱなしのシャワーの音が二人の間に響く。


「……ぁ」


「……ちょ…」


見る間に紅くなっていく犬夜叉。きっと犬夜叉から見れば私だってそうだろう。


桃果人のときは湯船に潜ったのだが、今は身体を隠すものがない。


…というかいきなり過ぎてどうしたらいいか分からない。


「わ、わり…ぃ…」


後退りながら控えめにぱたんとドアが閉じられる。


最後に見た顔は緋色の衣と色が変わらない顔で、それは銀色の髪のせいで一層映えて……というか。


正気に戻った。


「おすわりいぃぃいぃ!」

ドアの外で凄まじい音が聞こえた。




――


「……ってえ」


――あのアマ、思いきり叫びやがって…


顔面から叩きつけられた。これは本当に、痛い。




『……ちょ…』


「っ〜!?」


思い出しては顔に熱が一気に集中する。

普段は白い肌が、軽く朱色を帯びていた姿が消えない。

眉を下げて困惑気味な顔が真っ赤だったのも消えない。


「だあ―ーーっ!」


一声あげて、項垂れる。

――どんな顔すりゃいいんだよ…


夢のこともあるし、心配でついてきてみりゃこの仕打ちかよ!

我ながら珍しく大人しくしてたのに…


「犬夜叉くん?ご飯よ」


顔を上げなくとも、かごめのおふくろということくらい分かる。


「……おう」


なんだか合わせる顔がなく、俯いて居間まで後ろからついていった。




――


部屋に戻ると犬夜叉がいた。ご飯の時は気を遣ってくれたらしく、時間差で食べ終わっていたのだった。


「「……」」


嫌な沈黙。多分お互いがお互いに先に話しかけてもらいたがってる。


続く沈黙に最初に折れたのは私だった。


「…あの…犬夜叉?」


ぴくりと動いた耳を見るところ、どうやら聞いてはいるようだった。


「あのー…ご飯美味しかったね!」


「……おう」


返ってきた反応に、胸をなでおろす。無反応じゃなくて良かった。


「え〜っと……」


次の話題を考えようと頭を働かせようとしたとき、


「怪我…大丈夫か…?」


怪我、と言われて人差し指をみる。未だにじんわり滲むところをみると思ったより深かったらしい。


「平気よ〜…ってこれの心配して風呂場に来たの?」

「……」


ふいと逸らされた顔の赤さは肯定で決まりだ。


「そっか。助平心で来たんじゃないのね」


「ばっ!弥勒と一緒にすんじゃねえ!!!」


振り返った犬夜叉と目が合う。途端に昇ってくる熱。

そして自然と顔を逸らし合う。


「……笑うなよ」


「え?」


小さな声だったが静かな部屋だと充分響く。


「……夢、見たんだよ」


お前が水音の中で血だらけになってる夢、とボソボソ説明される。


それがシャワーと切傷に重なって慌てたのね、と合点がいった。


「あの……ありがと。心配してくれて…」


「!…けっ、別にそんなんじゃ…」


なおも否定を続ける犬夜叉が可愛くなって、先ほどの事故も忘れてしまった。


「犬夜叉」


「!」


隣に座ると驚いた表情をされた。もちろん、顔も真っ赤にして。


「ありがとう」


「…ばかやろー」


「?」


今まで眼を合わせてくれなかった犬夜叉に肩を掴まれた。


今日何度目かに交わる視線。今までみたいに眼が逸らせないのは、犬夜叉の瞳が綺麗だったから。


黄金色の瞳が火照った熱で潤んで揺れている。

べっこう飴みたいに透き通った甘い色は眼を離すのがもったいなくて。


つい魅とれていると、はあとため息をつかれて眼を閉じられた。


少し残念に思いながら、なおも見つめ返す。


「…今の状況わかってるか、お前?」




――


まだ乾ききっていない髪がはりついている細い首。


さっきから忙しなく赤くなる頬。

しっとり濡れて、揺れている見つめ返される瞳。


ため息も出る。いつもと違う表情が色っぽすぎる。

理性と本能の狭間でさっきからふらふらしているのだ。

気をしっかり持たないと、襲っちまいそうで…


「…犬夜叉?」


控えめに尋ねられて、我に返る。なんとか理性が勝ったようだ。


「ばかってなによ、ばかって!」


むっとむくれる顔が目に入る。…こいつ完全にさっきのこと忘れてんな。


「ばかだからばかって言ったんでい」


目の前にいる可愛いばかの目を片手で覆う。そのまま布団に押し倒しすと、やっと状況が理解できたらしい


「ふえっ!?」


変な声を出したばかに、つい吹き出す。


「いいい犬夜叉っ!えっと、待って待って!」


途端に慌て出すばかに笑みをこぼしながら、耳元で囁く。


「もうおせーよ、ばか」


理性が負けたようだ。










ざああ


水の音は嫌いだ

混乱する

鼻も利かねえし、良いことなんてない



ただ、それは夢の話で、

それを夢の中だけに留められりゃいい



現実での水音は、

実に甘美なものだった









プロローグとエピローグの雑さ←( ̄▽ ̄)

夢寐の犬夜叉版しようと思ったら…ありゃりゃ!甘くなっちまったぜ笑

18になりたいと思った

自分、危ねえとも思った


夢魔=悪い夢、という意味です!実際良い方向に繋がりましたが笑

ひとまず、お読みいただきありがとうございました!

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あきゅろす。
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