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小説
聞きたくない言葉

シリアス(鋼牙)


お前の別れの言葉をが聞きたくねえから、俺はいわゆる「いい逃げ」をするんだ。






『聞きたくない言葉』



「あーぁ!ちくしょー逢いてぇー!」


空に叫んだ。ムカつく程青い空は俺のデカい声すらも吸い込んでいく。


「さっき逢ったばっかじゃねえか、鋼牙…」


「姐さんの手もしっかり握ってたしな…」


呆れ顔の銀太と白角。

…んなの知るか。できることなら毎日だって逢いてえんだよ、俺は。


「かごめ〜…」


はあぁ、とため息をつく。

たった一人の女

――しかも人間の小娘をこんなにも好きになるなんて思わなかった。



まあ、一応妖狼族の若頭であるから女に困ったことはない。

見てくれもいいわけだし、権力もある。あと腕っぷしには自信もあるしな。



でも、たかってくる女妖怪どもは、どいつもこいつも気に入らなかった。

どーせ、「俺」のことなんか見ちゃいねえ。たいてい『強い奴の子を生む』ことが目的。


そんな奴等にこの俺がなびくわけねえだろ、ばーか。弱い奴等には興味ねえんだよ。








『触らないでよばか!』



初めて誰かにぶん殴られた。

なんつーか、新鮮だった。

たかが人間の女。本気出すまでもなく片足で蹴り殺せるほど弱い存在。

そんな分際で俺に意見すると来た。

惚れた。

一発で来た。




「あ〜…ぁ〜」


未だに唸っている俺に呆れたらしい。銀太と白角は狼どもを連れて食いもんを探しに行ったようだ。


それを横目で確認してから再び空を仰ぐ。そこに浮かぶのは雲なんかじゃなくて、いつも迎えてくれる優しい笑顔。



可愛い顔してるし、度胸もあるし…四魂の玉が見えることなんざどうでも良くなっていた。


一人の「女」に惚れたんだ。


でも、いきなりフラれた。
始まる前に玉砕なんて初めてだ。


正直驚いたぜ、あん時は。



『つっ…付き合っている人が…』



…ムカつく。あんの犬っころ、マジムカつく。


あの野郎がかごめの想い人なのがめちゃくちゃ気に喰わねえ。


たまに香るかごめの匂いに涙の匂いが混ざってるときがある。血の匂いだって一度や二度じゃねえ。


俺だったら…ぜってえ泣かせたりなんかしねえし、怪我だってさせねえのに。

つか、アイツ二股だろ!それを許してるかごめの優しさにはホント涙が出てくるぜ。


それでも、かごめはアイツが好きなんだから仕方ねえんだよなあ…



「はあぁ…」


叶わない想いがこんなに苦しいとは思わなかった。


負け犬の遠吠え…いや、負けてもねえし、犬でもねえけど!


犬っころの奴に逢う前に俺に逢ってれば、かごめは俺をぜってえ好きになっていたはずだ、なんて馬鹿げてるだろうか。



本当は、今すぐにでも奪いさって誰にも触れられないように閉じ込めてえ。


でも、それをしないのはそれをしたらかごめに嫌われる自信があるから。

嫌われたくねえから、人里襲うのも止めたっけな。

…つくづくかごめに骨抜きだなあと思う。



だからこそ、離別が怖い。

こんなに誰かに惚れたのは初めてで。

叶わない恋というのも初めてで。


時間は移ろうものだから、こんなにも好きなかごめをいつか忘れてしまうかもしれない自分が怖い。



別れ際に手を握るのは、優しい温もりを手に覚えさせるため。


戦いに身をおいているから、本当の意味での別れはお互いいつ訪れるか分からない。


奈落を追っているから、何処かでかちあうのは必然。

そして、別々に行動してるため、別れるのも必然。


その時に言われるかごめからの「さよなら」が最期の言葉になるなんて哀しすぎるから

だから代わりに手を握る。

最期に思い出すのは愛しい声で言われる哀しい言葉より、言葉なくとも伝わる優しい温もりがいい。


まだ手のひらに微かに残る優しくも儚い匂いが愛しくて。


強く吹く風に持っていかれないように手を握りしめる。


乱れる髪をそのままに、細めた眸(め)から見た空は、どこまでも広く、どこか切なかった。







鋼牙、大好きなんです!←
空が似合うと思います。
大好きです笑

たまに切ないこと考えてると良いな、と(^^)

お読みいただきありがとうございました!

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