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小説
騙しあいの日

☆エイプリルフール

甘(夫婦犬かご)




雪も溶けかけて、春のうららかな陽射しが射し込む今日この頃。


3月も終わり、4月になったばかりの穏やかなある日、


「あ、あのね!い、犬夜叉……。」


爆弾は投下されたのである。


『騙しあいの日』


「ん?なんだよ。」


鉄砕牙の錆を丁寧に落としながら、相槌を打つ犬夜叉。錆び刀を変化させて光に当ててみたりしている。


私の言うことにあまり興味がないのかなあ…と苦笑しそうになるのをこらえる。

「んっとね……」


現代にあったこの習慣。この日のために、色々と考えを練ってきた。

理由は特にないけど、たまにはカッコイイ夫の困った顔も見てみたいじゃない!



「……できちゃったの…弥勒さまと。」


がちゃんっ…がたたっ


「ちょっと!床に傷つけないでよ!?」


犬夜叉が胡座をかいて制止状態になった。鉄砕牙はその手から滑り落ちて床に倒れている。


「……っは、はは。そ、そーかよ……」


がしゃっ


立ち上がろうとして、床にある鉄砕牙につまづいている。普段じゃ絶対見られない貴重な姿。


「…もしかして、驚いてる?」


「っば!ばっかやろー!!!ったりめぇだろ!!!」

大声で怒鳴ったかと思うと、鉄砕牙を腰に差し外に出ていく。


「犬夜叉ーどこいくのよー!」


「……退治してくるだけでい。」


「…なにを?」


「弥勒。」


さあっと風のように、近くにある珊瑚ちゃん達の小屋へ走って行ってしまった。


「…ちょっとからかい過ぎたかしら?」


まあ、弥勒さまと珊瑚ちゃんなら上手くフォローしてくれるはずよね。


太陽の下でひとつ伸びをしてから、かごめは近所の子供に薬草の種類を教えに行くのだった。









――


「えいぷりふ〜?」


「はい、かごめさまの国にあった習慣らしいですよ。その日だけは嘘をついても許される、という日らしいですけど…」


変わった風習ですよね、と軽やかに笑う弥勒。


「ってことは、弥勒と『できた』っつーのは…」


「嘘ですよ。」


あっさり言われる。拍子抜けだ。肩の力が抜けてくのが分かる。


「だいたい、私には珊瑚も子供もいるんですよ?」


それに、と耳元で囁かれる。


「それはお前の役目でしょう?」


「っ!!!」


顔が熱い。役目とか…いやそうなのかもしんねえけど…//


つかただの俺の早とちりかよっ!


「っかごめの野郎〜っ!」


文句を言いに帰ろうとすると、弥勒に肩を掴まれる。


「まあ、待ちなさい犬夜叉♪」


「……」


その微笑みが黒く見えたのは、きっと光の加減のせいだ。










――


「犬夜叉遅いなー…。」


もうすぐ日も暮れる。今日は一緒に夕飯の調達に行く予定だったのに…。


「とりあえず、軽いものくらい作ってようかな。」


残り少ない野菜から大根を取り出したとき、


「かごめちゃん!」


「あ、珊瑚ちゃん!どうしたの?」


そう尋ねると首を傾げられて不思議そうに言われた。


「どうしたもこうしたも…犬夜叉の奴が夕食を一緒にしようって…」


「えぇ!それは急な話ね…でも大歓迎だわ!是非食べていって!」


「ありがとう、かごめちゃん!」


珊瑚ちゃんが来るのなら弥勒さまも来るはず。久しぶりの四人の食事にウキウキしていると勢いよく戸が開いた。


「かごめさま!!」


「弥勒さま!?どうしたの?」


何事にも動じない、普段は落ち着き過ぎている弥勒が珍しく慌てている。が、次の言葉を聞いた瞬間かごめが慌てることになる。


「犬夜叉がっ…御神木でっ…倒れていました!!」


「え…っ!やだっ…ちょっと行ってくる!!」


たたたっと駆けていくかごめを微笑みながら眺める弥勒と珊瑚であった。










――


走っているせいなのか、さっきの弥勒の話に驚いているのか。

ずっと心臓が暴れていて息苦しい。


犬夜叉と二人で歩いているとすぐの道のりも、一人だとこんなにも長いものなのだろうか。


――犬夜叉…っ!


ようやく辿り着いた。御神木の太い根の上に薄暗くても分かる緋色の衣が見えた。


乱れた息を整えながら、ゆっくり近づいて行く。




「……っ!!」


思わず悲鳴が出そうになった口を抑える。


確かに犬夜叉はいた。しかし、その左胸には見慣れない日本刀が刺さっており、よく見ると衣が酸化した血で黒く濡れていた。


「っ…っやだ…!」


未だにその光景を信じることが出来ない。もしかして、死んで……


「いっ…犬夜叉…!」


私が嘘をついたからなの?神様がそんな私に罰を与えたの?最期の会話なんだっけ…。言い合いになったことしか覚えてないよ…っ。


「…ねぇ、犬夜叉あ…!」

震える足を引きずって、犬夜叉のすぐ傍まで歩く。近くで見ると、その顔はとても穏やかだ。

そっと頬に触れると、春といえどもまだ寒い外気に晒され続けたせいかとても冷たい。


「…いぬ…っやしゃあ…」

少しでも暖めてあげようと首に腕を回したときだった。


「…なんだよ。」


「えっ!?」


ばっと犬夜叉の顔を見ると、にやにやと意地悪そうに笑っている。


「さっきのお返しだ、ばーか。」


「え!!でも!その血と刀…」


明らかに刀は刺さっているし、血だって作り物ではないことくらいかごめにも分かる。


「あぁ、これか?」


言いつつ、犬夜叉は刀を抜きとる――左胸からではなく左の脇から。


「脇に挟んどいたんだよ。衣のしわで上手く刺さってるように見えたろ?」


得意そうに仕掛けを披露する犬夜叉。


「血はな……」


と言いながら、御神木の裏に回る。何かと思い、覗いてみるとそこには…


「わ、おっきい猪…!」


変化した雲母くらいはありそうな大きな猪を抱えてまたしてもニマニマする犬夜叉。


「こいつ仕留めたときに、返り血浴びちまったんだよ。あ、これ今晩の飯な。」


聞けばなんでもないような話。気が抜けた。


「まっ、これに懲りたら俺に嘘つくのは今後止めた方がいいな。」


楽しそうに話す彼のその台詞を聞いて、すとん、とその場にへたり込んでしまった。


「なっ!どうした、かごめ?」


「…っばか―っ!」


安堵で涙があふれてくる。よく考えてみれば、「犬夜叉が倒れている」と知ってる弥勒が、助けずにかごめの元まで来るのはおかしい。…グルだったのか!

それに刀傷くらいでは犬夜叉は死なない。


「なっ、なんだよ!俺が悪いのか!」


慌ててかごめに問いかけてくる犬夜叉。その行動すらも、生きているからこそのもの…と考えると更に涙が頬を伝っていく。


「冗談でも…っ、死んだふりするの止めてよ―っ!」


わんわん子供のように泣きじゃくるかごめ。今そんな姿を愛しい、と思うのは不謹慎だろうか。

その優しい人を騙したことに、ばつの悪さを覚えて苦笑する。


「悪かったよ。」


そっと抱き締めると俺の胸に顔を押し付けて、嗚咽をこらえて泣き続けている。


「…もう騙したりしねえから、お前も嘘言ったりすんなよ?」


諭すように語りかけると、ものすごい勢いで首をこくこくと動かす。その動きが愛しくて愛しくて。かごめが泣き止むまでしばらく抱き締めていた。



「…犬夜叉。」


「ん?」


目がまだ少し赤いかごめに顔を向ける。俺の腕の中でこちらをチラッと見てからすぐに目線を逸らされた。



「…なんなんだよ。」


不満を口にすると、小さく呟かれた。


「ねえ、耳貸して?」


普通の人間より高い位置に耳があるため、自然と顔が下がる…と、


「っん……!?///」


唇に柔らかくて甘い感触がした。ちゅっ、と軽く音を立てて離れたそれにしばらく呆然とする。


「へへー、お返し!//」


少し頬を染めて微笑むかごめ。――あぁ、もうこりゃダメだな。

理性が崩壊するカウントダウンが頭の中で始まった気がした。それを知ってか知らずか、かごめが上目遣いでこちらを眺めている。


「…嫌だった……?」


――あ、もう知らねえ。

少し寂しそうに呟かれたその言葉を、かごめの唇ごといただく。下唇だけ離して、そっと囁いてやる。


「嫌なわけねーだろ、ばか」


甘美な時間は二人に時を忘れさせた。




二人が小屋に帰ったとき、お腹を空かせた弥勒と珊瑚のコンビに八つ当たり気味に散々からかわれたそうな。






4月1日、エイプリルフールですね!( ̄▽ ̄)

今日は誰を騙そうか、と考えるのが楽しいのは誰でも同じような気持ちかな、と思いながら書きました!


…まあ、「これに懲りたら〜」ってのが書きたかったのもありますが…笑


お読みいただきありがとうございました!

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