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小説
雨の温度

〜シリアス(夫婦犬かご)









隣が冷たい空白であること


温もりを知ってしまった今


それが一番怖い





『雨の温度』





湿った土の臭いで目が覚める。外は雨なのだろうか。
しとしとと小雨が降り続いている。


天気が悪いと、起きたくない。まどろみの中、ごろりと横になって初めて気付いた。


――かごめがいねえ…?


起き上がって、かごめが寝ていたであろう布団の上に手を置いてみる。


冷たい布団。


「…っか…ごめ!」


ドクン


血が冷たくなる感覚がした。あの時――かごめを待ち続けた三年間が蘇る。




温もりを思い出しては、苦しくなった。



いつも一緒に居てくれた優しい笑顔は、俺の隣から消えた。



その温もりや笑顔が向こうの世界で生き続ければいい。

アイツが俺を救ってくれたみてえに、他の誰かを照らしてくれてればそれでいい。


…何度そうやって耐えたことだろうか。


本当は、俺だけにその笑顔を見せて欲しかった。

本当は、俺だけを優しい眼差しで見てて欲しかった。


他の誰かの女になって欲しくない。

誰にも渡したくない。


誰よりも、何よりも大切なひと。







やっと届いた手や想いを、もう二度と離さないと誓った。





…また俺の前からいなくなっちまうのかよ…!




「かごめ…っ!」


外に出る。湿気をたっぷり含んだ雨や土の臭いのせいでかごめの匂いが分からない。



本当は最初からここには居なかった…?


今までのものは全て幻想だったのか…?




一歩が踏み出せない。もし、本当にこの世界にかごめが居なかったら…と考えると前に進むのが怖い。



いつの間にか、雨は大降りになっていた。雑音が耳に痛い。

どのくらい小屋の前で突っ立っていただろうか。

濡れていく髪や衣より肺に溜まる空気の方が重かった。




そのとき





「あ、犬夜叉ー」




森の方から小走りで駆け寄ってくる愛しい人。


「ごめんね、雨の朝の日じゃないと採れない薬草があって…」


額や頬にはりついた黒い髪を掻き分けながら困ったように笑っている。


――ずっと待っていた大好きな笑顔。



「ちょっとー、犬夜叉濡れちゃってるじゃない!どうしたのよ。」


自分だって濡れているくせに、と心の中では言ってるのに口から言葉が出てこない。


小屋の中へ引っ張って連れていかれて、厚手の布で髪の毛を拭かれる。


なにやら説教をこぼしているようだが耳に入ってこない。


安堵のため息がこぼれ落ちる。


「どうしたの…っきゃ!」

存在を確かめるように、腕の中にかごめを納めた。

…少し濡れて冷たくはなっていたものの、ずっと待ち焦がれていた愛しい温もり。


「っよ…かった……。」


濡れた体は隙間なく密着し合う。布を通して伝わる微かな肌の温度に泣きそうになった。


「…もしかして、心配かけちゃった?」


こくり、と頷くとまだ湿っている髪に華奢な手が置かれた。


「よしよし…ごめんね。」


子供をあやすかのように何度も頭を撫でられる。



――もう、何があろうと二度と離したりなんかしねえから…


「…何処にも、行くな。」


俺から、離れていったりしないでくれ。



その真意が伝わったかは分からないが、かごめは小さく、分かった、と頷いてくれた。



雨はまだ、降っていた。








最近シリアス多いなあ…笑
シリアス、個人的に好きなんですよ。

雨も好きです。天気ネタとか…(^^)


甘いのも書く予定です!

お読みいただきありがとうございました!

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