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こいつが「好き」だって叫びたい!(戸田)

「…よーし!今日はここまでにしておこう!」

どうも。陽花戸中サッカー部でキャプテンをしている戸田雄一郎です。
挨拶しておいて何ですが、もう練習は終わりなんです。
黄昏時になると、キャプテンである俺は皆に練習を止めるよう促す。正直、この役目は気が進まない。
朝練があって放課後も練習があるのは体力的に辛いと感じる時はある。
でも、俺はサッカーが好きだ。だから、日が暮れるのが早くなる季節はサッカーをやる時間が短くなるわけで、少し残念だ。
そんな俺の気持ちを皆は知らないと思う。まぁ、だからと言って皆が悪いとは言ってないからな。
それに、部活動は学校の規則を守った上で行わないといけないし、仕方ないといえば仕方ないんだ。
皆はさっき言った俺の指示に従ってボールを駕籠に入れて、体の柔軟をし始めた。俺も軽く体を伸ばしながら、練習で乱れた息を整えていた。

「戸田先輩、お疲れ様です!」

すると、後ろから中学指定のジャージを来た少女が俺に駆け寄り、タオルを差し出してきた。こいつは俺達サッカー部のマネージャーで、五月雨梓恩という。

「ありがとう、五月雨。」
「今日の戸田先輩もかっこ良かったですよ!」
「お前なぁ…そういうことを軽々しく言うなよ…。」
「事実ですもん!仕方ないじゃないですか!」

五月雨が凄いのは、自分の意を全面的に言うところ。とくに、俺に対しては「かっこいい」とか「素敵でした」とか、愛情を打ち明けるように言い寄ってくるところだ。
最初は馴れないことに動揺して、胸の辺りがどきどきした部分もあったけど、最近ではその言葉に厭きれてしまっている。
というか、正しく言えば、馴染んでしまったんだろうな。言われることに。
でも、だからと言って、俺は自己陶酔しているわけじゃないぞ。

「五月雨さん。僕もタオル貰っていいかな?」
「あっ!すみません、筑紫先輩!どうぞ!」
「ありがとう。今日も五月雨さんは明るくて可愛いよね。」
「筑紫先輩はとても綺麗ですよ!」
「まぁ、僕だからね。当然といえば当然だよね。」

断じて、筑紫みたいに自己陶酔してるわけじゃない。ナルシストではない。それだけは確かだ。

「それにしても…五月雨さんはキャプテンと話している時は幸せそうだね。」
「はい!幸せです!」
「大好きなんだね、本当に。」
「はい!めちゃくちゃ大好きです!」

サッカーしてる部活の時は普通の人間なんだけどな。
とか言うと、きっと筑紫や五月雨は怒るだろう。まぁ、「怒る」といっても大して凄いわけでもないけど。

(こ…こいつら…俺をからかってるのか…?)

そんな二人に「俺」という人間が話題されている。まぁ、話の中心にされるのも今に始まったことじゃないし、馴れてはきた。
でも、二人みたいな人間は恥ずかしい台詞をぺらぺらと口にする。それなのに、平気な顔をしている。
そんな二人によって、今羞恥の念にかられている俺は、いざって時に何も言えない駄目な男なのかもしれない。
まぁ、きっぱりとした意志をもって押し切るなんて状況は、そう簡単には訪れないだろうけど。


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「戸田先輩!五月雨さん!お疲れ様です!」
「お?やっと帰ってきたか。」
「あっ、立向居君!お疲れ…ってぅわぁ…今日も凄い練習してたんだね…!」
「でも、まだまだだよ…。頑張らないと円堂さんには追いつけないから…。」
「そうなんだ…キーパーも大変なんだねぇ。」

体を解して校庭の整備をした後、場所は部室に変わる。皆は制服に着替えて、「お先に失礼します!」とそれぞれ帰って行った。
部室に残ったのは、明日の打ち合わせをしていた俺とマネージャーの五月雨。そして、ギリギリまでキーパーの練習をしていた立向居だった。
ボロボロな姿をしていた立向居は後輩ながら凄い奴だと俺は思う。そして、素直で一つのことに集中できるところは、尊敬できるし羨ましい。

「あっ、ユニフォーム、肩のところ解れてるよ!」

疲れたのか床に座る立向居。そんな立向居に、五月雨は俺と打ち合わせを中断して、立向居の左肩を指差した。

「え?あ…本当だ…!」
「というか、よく見ると他のところも破けてるよ。」

確かに、五月雨が言うように立向居のユニフォームは破けてる部分が多い。
それは紛れもなく、立向居の努力の賜物といえる。でも、明らかに脆くなったそれは、もう使い古して着れるものではなくなりつつある。
今度新しいキーパーのユニフォーム注文してやらないとな。さすがに可哀想だ。
すると、五月雨は何かを思い立って裁縫道具を取り出した。

「そうだ!私、縫ってあげる!着替える時に貸して!」
(って、それってつまり「今脱げ」って言ってないか…?てか、脱がせる気か?)
「え、本当に?ありがとう、五月雨さん!」
(って、おいおい…!それに同意して脱ぐなよ、立向居…!)

どうしてこのサッカー部には、羞恥心を持つような奴が少ないのか。
俺は目の前の光景が信じられなかった。
立向居だけは違うと思っていたのに。いや、違うか。
立向居は俺と同じで恥じらい持つ奴だ。けど、この場合に限っては、素直が先に出てしまったんだな。
五月雨の意見を素直に受け入れたから脱いだんだ。そうに違いない。
とか何とか、自ら頭の中でその場所の物事を処理した。
でも、その処理はだんだん追いつかなくなっていく。

「ぅわぁ…体も擦り傷とかいっぱいだね…!」
「でも、見た目ほど痛くないよ?」
「というか、立向居君って体細いね…。男なのに…キーパーなのに…。」
「あはは…よく言われるんだ…。」
「羨ましいなぁ〜!いいなぁ〜!」

ユニフォームを預かった五月雨は、早速解れを直すかと思いきや、立向居の体を触り始めた。

(って…何やってるんだぁあ!?)
「…ぷッ…五月雨さん…擽ったいよ…!」
「え?あぁ、ごめんごめん…!羨ましくてついつい触っちゃった!」

立向居だけは違うと思っていたのに。前言撤回。立向居も、筑紫や五月雨のような人種だ。
というか、二人とも気づいていないのか。立向居は男なんだぞ。五月雨は女なんだぞ。
つまり、二人は中学生ながら男と女のような絡み合いをしてしまってるんだぞ。
それなのに、恥を恥とも思っていないのか。

「しかし…やっぱり羨ましいなぁ…この細さ。」
「……」

俺はまた独りで羞恥に押しつぶされそうになっていた。
すると、立向居がさすがに恥ずかしくなってきたのか、一言言う。

「五月雨さん…戸田先輩が見てるよぉ…!」
「!」


「それにしても…五月雨さんはキャプテンと話している時は幸せそうだね。」
「はい!幸せです!」
「大好きなんだね、本当に。」
「はい!めちゃくちゃ大好きです!」


(そうだよ。五月雨…俺のこと「大好きだ」って筑紫に言ってなかったか…)

前にも言ったけど、俺は決して自己陶酔しているわけじゃない。
今目の前で起きている男女関係のけじめがない状況からの打開するために仕方なく思っているんだ。
最近は厭きれてしまっていたけど、少なくとも五月雨は俺を好きだといっていた。なら、五月雨だって立向居の今の発言を聞いて、自分の犯したことに罪の意識を感じるだろう。よくやった、立向居。
俺はこれで大丈夫だと安心し切っていた。
でも――

「いや、そんなことよりもこの細さはずるいよ!」
「五月雨さん…くすぐったぃ…ふははっ…」
「おぉ!ここか!ここが弱いのか…こちょこちょこちょ!」
「……」

五月雨には効果がなかったみたいだった。そして、俺の中には五月雨に対する、自分が受けた不平や不満がひたすら溜まっていった。

(おい、五月雨…。お前何がそんなことだ…。散々人をおちょくって…「好きだ」とか不謹慎な発言しやがって……!)

そして、きゃあきゃあと笑い声が響く部室が一瞬にして――

ビリッ――

「「……」」

活動をやめて静かになった。
俺が自分のユニフォームの左肩の部分を、勢いよく破いたことによって。

「戸田…先輩……」
「あの……ユニフォームが…」
「…破けた。」
「え?」
「破けた。だから、縫ってくれ。」
「…は…はぁ…。」

ガラッ―― ピシャッ――

俺はユニフォームを脱いで、五月雨に放り投げる。そのまま部室から出て、戸を閉めた。
そして、その場でしゃがみ込んで――

(何してるんだ、俺はぁぁあ!?後輩の前で恐がらすようなことして、しかもなんか大人気ないことしたような気がする…!というか、後輩が楽しそうにやってるのを見て何ムカムカしてるんだよぉお!)

年長者としてもっと違う方法があったのではないかと、自己嫌悪に陥るのだった。


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しばらくすると、部室の中から「……はい!立向居君、終ったよ!」という五月雨の声と「あっ、ありがとう!」という立向居の声が聞こえてきた。
あれから結構経った。時間が。

(…やっと終ったのか……!寒ぃ……!)

上半身裸でそのまま外に出てきたから、体が芯のほうから冷たくなっているのが分かる。鼻や頬の感覚が痛いのを通り越していた。なくなっていた。
地元民として、決して福岡の冬の気温を舐めているわけじゃない。絶対に。
でも、あんな風に部室出たら、中になんて入れるわけない。だから、察してくれ。俺は頑張ったんだ。我慢したんだ。
ガタガタ震える体を押さえながら、扉が開くのを待つ。
すると――

ガラッ――

「戸田先輩、お先に失礼します!外寒かったですよね…大丈夫ですか?」

制服姿の立向居が心配そうに俺を見つめていた。

「お、おぉ!大丈夫だ!だから、気にするな…。」
「そうですか。でも、温かくして帰ってくださいね。それじゃあ、失礼します。」
「ま、また明日な、立向居…!」

俺のことを非難することなく、立向居はにこやかに頷いて帰って行った。
その時、俺は思った。これは後輩に嫌な思いをさせた俺の罪なのかもしれない。だから、この寒さは俺の罰みたいなものだと。

(情けないなぁ、俺…。立向居には明日ちゃんと謝っておこう…。……あと、一様五月雨にも謝んないと…。)

些か納得いかない部分もあるけれど、勝手に怒って出て行ったのは俺だしな。謝らないといけない。
俺は部室の扉を開けて、五月雨を見ようとする。

ピシャッ――

「五月雨…さっきは――」
「戸田先輩!」
「ぅぉお!?」

だが、不意を衝かれて、俺は真正面から五月雨に抱きつかれた。最近馴れていたとはいえ、心臓が口から出そうになった。

「な、何だ!?何で抱きつくんだ…!?」

誰もいなかったからいいようなものの、ここは部室だぞ。しかも、俺は今上半身裸なんだぞ。誤解されるだろう。これじゃあ。
とか言おうとしたら、五月雨が先に話始めた。

「何でユニフォーム破いたんですか?」
「え!?あ…あれは…つ、つい…」
「さっきのあの行動は何ですか?」
「…つ、つい…」
「あの行動にはどんな意味が含まれてるんですか?」
「どんな意味もない…!…つ、つい…」
「つい?しっかり者で温厚な戸田先輩が「つい」ユニフォームを破いてしまったと?」
「…そ、そう、だ…」

違うと言えないところがまた微妙だ。「つい」っていうのは間違えではないけど、物事の原因ははっきり言って五月雨、お前だ。
そんなこと言いたくても言えない。それじゃあ、さらに質問攻めにあうだろうし、俺は何でそうなのかと聞かれても何て答えればいいのか、正直わからない。

「……ふーん…」
「な、何だよ…!」

だから、五月雨が口にした言葉に、呆気に取られてしまった。

「私は…てっきり戸田先輩が立向居君に嫉妬してくれたのかと思ったのになぁ…。残念…。」
「………」

その言葉の意味を理解するのに、時間がかかった。気づいた時には、俺の体は熱に支配されていた。

(お、俺が…立向居に嫉妬…?嫉妬って…やきもちの、あの嫉妬?何で嫉妬?いや、待て待て待て待て!それってどういうことだ?つまり何か…俺は五月雨が誰か他の男と喋っているのに腹立てたってことか?それって何だ?つまり俺は五月雨が……いや、ないないないない!確かに最初はどきどきしたけど…最近はそんな感情はなかったし…絶対に…五月雨が好きとかそういう感情はない…!だから、嫉妬とかも絶対にない…!)
「……」
「…あれ?反論しないんですか?」
「…え………あ…だ、誰が嫉妬したってぇッ…!」
「……ぷ…ふふ…」
「なっ、何で笑うんだよ!ていうか、笑うな…!」
「だ…だって…動揺が…わかりやすすぎてぇ……!」
「ど、動揺なんてしてない!」
「あはははははっ!」
「何だよ!動揺なんてしてない!絶対にしてないからな!」

最悪だ。
謝れないし、抱きつかれるし、質問攻めにあうし、不本意な考えをさせられるし、笑われるし――最悪としか言いようがない。
こんな奴に謝ろうとした自分が馬鹿だったと俺は思い知らされて腹が立った。

「嬉しいです。」

でも、その後五月雨に――

「はぁ?」
「嬉しいですよ。嫉妬してくれて…凄く私幸せです!」
「……」
「大好きです、戸田先輩!」

背伸びされて頬にキスされた時は、なんか照れ臭かった。

(……あ…あれ?…俺…今ドキドキして、ないか…。……くそぉ…ダメだ…。何かわかんないけど…俺今凄く…――)






こいつが「好き」だって叫びたい!





(でも、なんか五月雨に負けた気がするから…絶対に言わないけどな…。)
「戸田先輩!今度デートしてください!」
「…は?何でそうなる?」
「ユニフォーム縫ってあげたお礼ってことで…いいですよね?」
「……わかったよ。」
「え?本当ですか!やったー!」
「だ、だから、抱きつくなぁあ!」




END




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どうも。試験があと二つもあるのに執筆楽しんでいる五月雨梓恩です。
誰も来ないと思っていたサイトなのに、知らない間に1000hit超えていて驚きです。笑;

アンケートで唯一コメントを書いてくださった如月様が「戸田くん大っ好きです!」と言うことなので、初めて立向居君じゃない人の夢小説を書きました。(もし如月様が見ていらしたら、名前を勝手に乗せてしまったことお詫び申し上げます。)

戸田夢。初めてですが、定番の「嫉妬」ネタで書かせていただきました。…というか何かツンデレになってしまった。笑;
最初はこのサイトでも脇役だった戸田でしたが…(いつ終了するかもわからない)アンケートで投票され…ついに夢小説デビューですよ。←戸田に謝れ。

これからも、アンケートのコメントやリクエスト掲示板の方で「この人との夢小説が見たい!」とか「こんな設定で書いてほしい!」というご意見を受け付けていますので、何かありましたら書いて下さい!お待ちしております!
そして、五月雨梓恩と友達になってくれる方がいらっしゃったら…そちらもリクエスト掲示板にお書き下さい。笑;

そして、アンケートの投票数で今のところ「陽花戸中all」が多いので…長編始めると思います。多分。
ジャンルは「ほのぼの」です。相手は未定です。多分立向居vs戸田vs筑紫――とかになると思います。

二月の半ばには始めたいと思います。それでは、失礼します。

(2010/01/24)


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