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御神酒徳利の勝敗(陽花戸中)

今日は元旦。新しい年の始まり。
私達、陽花戸中学校サッカー部一同は、キャプテンである戸田の家にお邪魔しています。
小さいのをいくつも繋げて長くなったテーブルの上にはお節料理やもつ鍋が並んでいた。
皆でジュースの入ったコップを持ち、戸田の音頭を待つ。

「えーと…それでは陽花戸中サッカー部の多幸を祈って…乾杯!」
「「「「乾杯ー!」」」」
「あけましておめでとー!」
「早く食べようよ!お腹減ったー!」
「もつ鍋!もつ鍋!美味しそー!」
「待て!味付けが大事なんだ!誰もまだ手を出すな!」
「出たよ。もつ鍋奉行戸田雄一郎…。」

コップの中を飲み切って、皆がお節料理を箸で突き始める。
モツ鍋に関しては、戸田が大好物で味付けに煩いためかまだ食べることができないでいた。
皆がブーブー言っていた。でも、戸田の目がいつもと違うので直ぐに不満の声は治まった。
私も、もつ鍋が早く食べたい一人だったが、しばらくはお節料理で我慢しよう。甘い匂いを漂わせている黄色の山に箸を伸ばす。

「うーん……栗金団…美味しいよぉー…♪」
「梓恩さん。ジュースのおかわりどうですか?」
「あっ、ありがとう。立向居君。」

口の中が幸せになると、立向居君がジュースのペットボトルを持って私のコップに注ごうとしていた。
私は「お願いします」という意思表示でコップを両手で持った。
立向居君――彼はこういう気遣いができて大変いい子である。
すると、台所の方からか「雄一郎ー!御神酒の準備できたから運んでー!」という声がした。たぶん戸田のお母さんだろう。
戸田はもつ鍋の味付けを確認しているところで、少し渋った表情で立ち上がった。
というか、まだ味付けに拘っていたことに驚きである。さすが、もつ鍋奉行。
戸田がいなくなると、大濠、玄海、志賀、道端、笠山、黒田等が我先にともつ鍋を突き始めた。
この姿を見たら、戸田は鬼瓦のような顔をして烈火の如く怒るだろう。だから、私は手をつけない。恐いから。

「御神酒ってお酒ですよね?俺達未成年ですけど……飲んでいいんですか?」
「うーん…まぁ、新年の儀式みたいなもんだよね。飲める人は飲んでもいいし、苦味があるから口をつけるだけでもいいし…。」

立向居君が少しおろおろしながら私に助言を求めてくる。その返答に関しては、正直どっちでもいいと思った。
そもそも御神酒というのは、神前に供える酒で神聖なものである。これだけだと人間の口に入っていいものではない印象になる。
でも、世の中には「御神酒あがらぬ神はない」という言葉があるわけで――神様でさえ酒を飲む、人間が酒を飲むのは当然だという考えもある。
つまり、飲んでもいいし飲まなくてもいい。だから、個人の判断に任せるしかないのだ。

「立向居君はどうする?」
「梓恩さんは…飲むんですか?」
「うん。こういう機会ないと飲めないからね…お酒とかって。」

それに口にしなければ、わざわざ準備してくれた戸田のお母さんに申し訳ないしね。
そう言うと、立向居君も「…じゃ…じゃあ…俺も飲みます…!」と両手でぎゅっと拳を作って身構えていた。
まるでそれは、敵を迎え撃つ姿勢のようだった。別に戦うわけじゃないんだけどな。此処祝いの場だし。
だがこの後、戸田が帰って来てもつ鍋の中を見た途端、祝いの場が戦場と化したのは言うまでもない。


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「痛ぇ…ちょっと摘み食いしただけなのに……」
「煩い、明太子キューピーヘアー。」

戸田、まだ全部のもつ鍋が死んだわけじゃないんだし、志賀が可哀想だよ。
とは思ったけど、口が裂けても言えない。だって、被害を被るから。ごめん、志賀。
戸田がもつ鍋の味付けをやり直している時、私達は御神酒の入った漆の杯を一人一人に廻していた。
立向居君は匂いをクンクン嗅いで、少し杯から顔を離す。どうやらお酒独特の匂いが厳しいらしい。
そんなの余所目にして、私は杯を口に近づけてぐいっと流し込んだ。
それを見てか、立向居君は慌てて杯の中身を口に持っていき、一気に飲み干した。
鼻につーんとくる匂い。口に含んだ瞬間の日本特有のアルコールの味。ジンジンと熱くなる体。

「はぁ…美味しい…!」
「おぉ!梓恩さん、好い飲みっぷりっすね!」
「ひゅ〜!もう一杯どうです?」

私が杯を口から離すと、祭利田と松林が囃し立て、酌をしてきた。
それを見て、石山と筑紫が「あんまり飲ませるなよ…!」「梓恩も無理に飲まなくてもいいよ。」と言ってくれた。
まぁ、私は自分でいうのもなんだけど、この年でお酒の味を占めてしまっている。そして、酔いが浅い。
だから、少し飲んでも大丈夫なのである。

「………」
「立向居君はどう?飲めた?」
「………」

そう。彼に比べれば全然大丈夫。
さっきの一杯を飲んだっきり、隣の席の立向居君の反応がない。どうしたのだろうか。
私は立向居君に声をかけるが微動だにしなかった。

「……立向居君?」
「……」

しかし、二回目に声をかけるとゆっくり顔をあげて横に揺れ始めた。その時の顔は湯船に長い時間浸かってのぼせてしまったかのように真っ赤になっていて、瞼が落ちかけてとろーんっとしていた。

「なんか揺れてるけど…大丈夫…?」
「…梓恩さんが遠く感じます……」

彼は私の心配を他所に、私の体にぴったり付着した。
そして、真っ赤な顔を私の顔のギリギリまで近づけて「近くなりましたぁ…♪」と嬉しそうに笑っていた。
さすがの私も、それには少しドキッとした。驚いた。

「…いや、立向居君…めっちゃ接近戦なんだけど……!ていうか、酔ってない?」
「酔ってないですよぉ〜!」
「酔ってない人は皆そう言うんだよ。」

そう。彼は少量の杯一杯で酔ってしまったのだった。

「ていうか、御神酒でしょ?御神酒って度数そんなに高かったっけ?」
「御神酒は皆口につけるし、そこまで強くないと思うっすよ?」
「だよね…。でも、立向居君がこれだし…。」
「日本酒みたいなところあるからね。御神酒って。」
「梓恩さ〜ん。何処向いてるんですかぁ〜。俺を見てくれないと嫌ですよぉ〜。」
「ちょ、ちょっと、立向居君…!?」
「ひゅ〜!めちゃくちゃ絡み酒〜!」
「立向居が…男前に…。」
「松林!筑紫!見てないで助けてよぉ!ていうか、筑紫、男前って…」
「梓恩さん…俺…大好きです…。」
「ふぇえ!?いや、あの…!」
「おぉ!どさくさに紛れて告白してるっす!」
「…お…俺…見てられないぜ。」
「祭利田!石山までぇ!」

私が飲めるのがいけないのか。彼が飲めないのがいけないのか。
それとも御神酒のアルコール濃度がいけないのか。はたまた見ているだけの彼等がいけないのか。
この状況をどうすればいい。
すると、私はある人物に関して思い出す。
そう。彼はまだ御神酒を口にしていないはず。もつ鍋の味付けに煩い、もつ鍋を愛している、もつ鍋奉行。

「と、戸田!立向居君が大変なんだけど助けてくれない…!」

だけど、お酒というのは人間を狂わせるわけで…――

「……ずるぃ…」
「……は?」
「ずるいぞぉ立向居ぃ〜!梓恩は俺のだぁ〜!」
「えぇ!?戸田ァア!?」

時折、大好物のもつ鍋を目の前にしても力を発揮する。
鼻につーんとくる日本特有のアルコールの匂い。熱い体。火照り切った顔。

「あーあ……キャプテン…飲んじまったんだな。御神酒。」
「キャプテンって奈良漬とかお酒が少しでも入ってるとダメだよね。」
「誰だ!戸田に御神酒飲ませた奴はぁあ!?」
「え?何かまずかったっすか?」
「ひゅ〜!いいじゃないですか!無礼講だし!」
「祭利田ァア!松林ィイ!」

祭利田と松林。あとで覚えておけよ。

「お?何か面白ぇことになってるな!」
「いいぞー!もっとやれー!」

とか思っていたら、戸田が酔っていることをいいことに、さっき怒られていた志賀や笠山達がもつ鍋を美味しそうに食べていた。
しかも、無駄に盛り上げながら。

(私ももつ鍋食べたかったのに…あいつ等ー!)
「俺は梓恩が好きだぁあー!」
「ふぇえ!?戸田も突然過ぎる!」
「梓恩さんは〜俺のですよぉ〜!戸田先輩にはあげませ〜ん!」
「え、ちょ、たたたた立向居君…!」

戸田が叫びながら私に抱きついてきた。それを見て、立向居君も思いっきり抱きついて頬を寄せてきた。
二人の体温が私の体を覆い尽す。体は熱いのに、私からは冷や汗。

「……俺のこと嫌いですかぁ…もしかしてぇ戸田先輩が好きなんですかぁ…!」
「え、ちょ…あの…」
「梓恩…お前は立向居と俺……どっちが好きなんだぁ…?」
「えと、あの…えと…!」
「俺のこと…嫌いですか…?」
「え、えと…き…嫌いじゃないけど…!」
「じゃあ、好きなんですねぇ〜よかったぁ〜♪」
「そうなのかぁ、梓恩ー!」
「ええと…立向居君は可愛い弟分だし、戸田はただの友達だし…」
「俺は可愛くないのかぁー!?」
「突っ込むところがそこぉー!?」
「梓恩さ〜ん!どうして戸田先輩と話してるんですか〜?俺を見てくれないと嫌ですよぉ〜!」
「梓恩ー!立向居ばっかり甘やかしてー!俺だって甘えたいんだぁー!」
「ひゃっ!ちょ、ふ、二人とも…!」

ああ、二人とも。
上目で寂しそうな顔を私に向けたりとか大胆に私に抱きついたりとか辱めもなしに私を「好き」と言ったりとか――反則過ぎるんですけど。
甚だしく恥ずかしくなる。辛くないけど、辛抱し切れない。堪んない。

「ひゅ〜!梓恩さんモテモテ〜!」
「というか、素面に戻った時に戸田と立向居がどうなるかたの楽しみっすね!」
「今のうちビデオでも回すか?」
「おぉ!いいね!」
「立向居だけじゃなくキャプテンまで…男前に…。」
「…お…俺…見てられないぜ。」
「見てないで助けろぉおお!」








御神酒徳利の勝敗








翌日。

「…昨日はよく覚えてないけど…なんか凄い清清しい気分で楽しめたな!」
「俺も楽しかったのは覚えてるんですけど、記憶が曖昧で…来年はちゃんと楽しみたいです!」
「……戸田…立向居君……御神酒飲むの禁止!」
「「えぇ!?」」




END




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【御神酒徳利】
@神酒を入れて神前に供える一対の徳利。
Aいつも一緒にいる仲のよい二人。


新年あけましておめでとうございます。五月雨梓恩です。

2010年最初の作品になりました。陽花戸中サッカー部フルメンバーによるギャグ+甘――(絡み酒設定の)立向居君vs戸田です。
…いやぁ、立向居君やるなら一度はやりたかったんです。陽花戸中フルメンバー。筑紫とか石山とか出せてよかった…ずっと戸田だけだと可哀想ですからね。(もちろん戸田も大好きですが。)

まだイナズマイレブンが続いてるから、今年も頑張れそうな気がします。
立向居君が雷門からいなくなっても…管理人の心には何時でも立向居君が…!!←やめてくれ。

それでは、そんな感じで…今年も『juvenile_keys』の五月雨梓恩を宜しく御願いします。

閲覧者が一人でも増えますように!立向居君萌の友達が出来ますように!(笑)

(2010/01/01)


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