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優しい炎の輝き(立向居)

「お、お、俺…五月雨さんのことが…――」








優しい炎の輝き








「…。」

今日は待ち望んだ日。きっと私が生れた中で人生最高の日になるだろう。

「やっと一年…一年かぁ…♪」

私は学校の支度をして間もなく、机の上の小さなカレンダーを捲った。
今日の日にちである「1」に大きく赤いペンで丸がしてあるのを確認すると、自然と顔が綻ぶ。
そして、私は髪型や服装に乱れがないことを確認して、部屋を出る。
二階から一階に下り、玄関で靴を履いていると、お母さんから「梓恩!朝ご飯は?」とキッチンから言われる。
私は「今日大事な約束があるからいらなーい!」とキッチンの方へ叫んで家を飛び出す。
「大事な約束」とは云うが、正直まだ取り付けていない。なのに、私はもうその気になってしまっていたのだった。


------


「〜♪」

陽花戸中に入学して、私はすぐサッカー部のマネージャーになることを志願した。
といっても、私自身、スポーツが得意というわけではない。けど、テレビを通して観るスポーツ観戦は好きだ。
だから、中学へ通うことになったら、運動部のマネージャーをして試合をいいポジションで観たいと思っていた。
最初は、その気持ちだけ。
でも、ある人の存在が私の生活を変えた。だから、最初に抱いていた気持ちより、ずっと毎日が楽しくなってると私は思う。
まぁ、その人こそが今日私が浮かれている理由であると云えよう。

学校に着くと、私はすぐさまサッカー部の部室に向かった。
扉の前で一度止まり、鞄から手持ち鏡を取り出す。少し走ったから乱れている髪を整え、服装も整える。

「…。」

いつもならすんなり開けるであろう扉に、手を掛けることを躊躇する。
緊張しているんだ…。今日一日の始まりを待ち望んでいたけど、いざその瞬間がくると戸惑ってしまうという感覚。
胸の辺りを優しく手で抑え、大きく深呼吸。気持ちを落ち着かせて、私は「…よしっ!」と覚悟を決め、扉を開ける。

ガラッ――

すると、そこには…――

「あっ!おはよう、梓恩!」

私を見るなり笑顔で近づいてくる立向居勇気。
私の、会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて仕方なかった人である。
陽花戸中に入学してすぐ私達は出会った。
サッカー部のマネージャーとMF――最初はその関係であった。でも、同じクラスで隣の席――この設定だけでも私達の関係は大いに深まる。
授業中こっそり手紙を回したり、休み時間でサッカーについて話したり、部活でもサッカーで盛り上がったりした。
これは余談だが、彼は途中MFからGKにポジションを変えたりもした。最初はどうかと思ったけど、彼の努力と才能はそんなのお構いなしのようだった。
毎日顔を合わせて、一緒に居て、楽しくて――私達が友達以上になるのに、そんなに時間は掛からなかった。
彼から告白してきて…確かその時もこの部室だった。


------


「五月雨さん!」
「は、はいっ!」
「お、お、俺…五月雨さんのことが…す、す、す………――好きです!俺と付き合ってください!」
「…あの……私で好ければ、喜んで…!」
「ほ…本当に…!?よ、よかった…!」
「やったぜ!立向居ッ!」
「よかったな!」
「ちくしょー!羨ましすぎるぞぉー!」
「!? せ、せせせせ先輩達!?ななななな何で居るんですかぁ!?」
「何って、ここは部室だ。」
「しっかし、立向居が五月雨にホの字だったとは…青春だねぇ…。」
「と、戸田先輩!」
「お?立向居、顔が赤くなってんぞぉー!」
「か、からかわないで下さいよぉ…!」


------


しばらくは先輩達に困らされたけど、今では陽花戸中サッカー部公認の一年生カップルになった私達。まぁ、今はもう二年生だけど。
今日はそんな私達にとって、とても大切な日なのである。

「おはよう、勇気!」

私にとっても、彼にとっても大切な、大切な――付き合って一年を迎える記念日。
こういう台詞は、よく少女漫画で出てきそうだけど――付き合い始めたのが、まるで昨日のことのようだ。

「ふふ…。」
「ん?どうしたの、梓恩?」
「ふふ…何でもない♪」
「えー、何だか楽しそうだけど?」
「さーて、何でしょーうね!」

私と彼の恋愛なんて、きっと蝋燭の炎のような小さな小さなものなんだろうな――なんて比喩表現なんか使ってみる。でも、実際はそんなもんなんだろうな。
けど、そんなちっぽけな炎でも、消えることなく灯っている。小さいけど、力強く…。
私はこの後のことを想像していた。

(「勇気、今日はずっと一緒に居ようね。」「何言ってるんだよ、梓恩。今日だけじゃなくて、これからもだろ?」…とか何とか少し気障な台詞なんか言ってくれちゃったりなんかして…!あっ!でも、勇気なら「ずっとずっと一緒に居ようね!」の方が可愛いかも…でも、少し頬を赤くしてさっきの台詞を言って欲しいかも…あぁ、もう!私は何を考えてるんだ!落ち着け自分…!)

私は本当に何をしてるんだろうか。
実際彼は「あっ!梓恩、戸田先輩達が集合かけてるよ!」と言って先に部室の外に出てしまった。

「…。」

一瞬フリーズした。
確かにさっきの想像は度が過ぎているかもしれないが、彼が私を置いて行ってしまった。
まぁ、彼は選手なわけだからマネージャーの私と違って朝練があるのはわかるけど…――

(…もぉ…もうちょっとかまってくれてもいいじゃない…。)

でも、まだ一日は始まったばかりである。これからを楽しみにすればいいのだ。


------


と、思っていたら…――

「…。」
「よーし!今日の練習はこれまでにしよう!各自ダウンをして、上がってくれ!」
「「「「お疲れしたぁー!」」」」

戸田先輩の合図と共に、あっという間に放課後の練習が終っていた。
そう。今日一日がもう終る。

「…あの…戸田先輩…。」
「ん?どうした?」
「今日って…一日ですよね?」
「は?そうだけど…どうしたんだ?」
「…いいえ…何でもないです…。」

さすがに、私が記念日の日にちを間違えたと云うことはなかった。
だとしたら、考えられるのは――いや、できれば考えたくない。でも、まさかと云うこともあると思う。だから…――

「勇気ッ!」
「!?」

私は全力で部室の扉を開けて、彼の名前を叫んだ。でも、彼はちょうど着替え始めたところだった。
女の子じゃないのに彼は脱いだ服で前を隠して、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。その恥らっている姿は、本当に女の子のようだった。

「し、梓恩…お、俺まだ着替え途中ッ…!」

なんだか男の子の気分になったみたいだった。彼を直視できない。

「あ…ご、ごめん…――じゃなくてッ!」

が、私まで恥らっている場合でもない。

「勇気…あのさ…今日何の日か覚えてる…?」
「え?きょ、今日…?…えーと…………」
「…。」
「……ご、ごめん…何だっけ?」
「…。」

まさかだった。
彼はどうやら今日が何の日か忘れているらしい。というか、分からないみたいだ。
彼が告白してから全てが始まった――私達の恋。
少しあがり症で、でも、一生懸命で人一倍努力家で、優しくて、真っ直ぐで純粋で…私を見る度に笑顔になってくれる――そんなところが彼を好きになってしまったツボ。
だから、今日と云う日を「何だっけ?」と言われた瞬間、本当に辛くて…――

「……けるな。」
「え?」
「ふざけるなぁぁあ!」

バチーンッ!

怒りが湧いてきた。
一方的だが、私の炎は蝋燭一本じゃ足りないぐらいに炎上していた。
そして、私は勢い良く彼の頬を平手で叩いた。

「…。」
「はぁっ…はぁっ…はぁ――…あ゛っ…。」

そして、自分のしたことを振り返る。唖然とした。そして、着替えていた周りの先輩達もぽかーんっと口を開いたまま動かない。
そしてそして、叩かれた彼も口を開いたまま何が起ったのか把握できないでいた。

「…ご、ごめん!勇気!つ、つい…!」

彼の頬に思いっきり触れた手は熱かった。
私の慌てっぷりを見てなのか、それとも叩かれた理由を模索してなのか、彼は口を閉じて無表情で黙ってしまった。

「……。」
「…ゆ…勇気…?だ、大丈夫?」

すると、彼は…――

ぽろぽろぽろぽろ

頬の痛さからか、私の怒鳴り声からか、泣き出してしまった。

「!? ごごごごごごごごごめん、勇気ッ!本当にごめんね!痛かったよね?!ごめんね!ごめんなさい!」
「ち…ちがう…!謝らないといけないのは…俺の方…!」
「違う違う!違うんだよ、勇気!悪いのは私!勝手に浮かれて勝手に落ち込んで勝手に殴ったの私だからぁー!」


------


「…ごめんね。」
「ううん。大丈夫だよ。腫れもひいてきたし。」
「…本当にごめんね。」

私達は部室の前で二人並んで座っていた。
彼の頬を腫れが相当酷かったので、氷で冷やして様子を見ていた。
戸田先輩達は私達の収拾のつかない状態を見て、しばらくその場にいてくれた。
でも、少し落ち着くと「夫婦喧嘩は犬も食わぬっていうからな。帰るわ。」と言い残して帰ってしまった。

「でも、覚えていたなら…もっと早くに言ってくれればよかったじゃない…。」
「あははっ…。俺は梓恩の方が覚えてないんじゃないかと思ったんだ…。」
「でも、さっき「……ご、ごめん…何だっけ?」なんて言うから…!」
「それは…その…えーと……。」
「本当は忘れてたんじゃないのぉー?」
「忘れるわけないよ!俺、この日になるのを凄く楽しみにしてて!…正直昨日なんて…寝てない…。」
「幼稚園生か。…ふーん。勇気は何で今日が楽しみだったのかな〜?もしかして、今から何かしてくれるのかなぁ〜?」
「…。」

練習が終ってから二時間ぐらい経っただろうか。辺りはそれなり暗い。
今から何かをするのは明らかに無理だろう。
夜のデートだとか言っても、私達はまだ中学生。今のご時世入れる時間だって限られてくるし、お店だってこの時間帯中学生が楽しめるものはないだろう。
それに、いくら男の子と一緒だからって変質者とかの危険性もあるだろう。
今回は諦める、としか言いようがない。
冒頭でも語ったから分かると思うが、正直こんなことを望んでいたわけではなかった。
今日は待ち望んだ日。きっと私が生れた中で人生最高の日になる――そう思っていた。
だから、何も起らないで時間だけが過ぎていくのが、残念で仕方がない。

「ちょっと待ってて…。」

すると、彼はいきなりその場から立ち上がって、部室の扉に手をかけた。

「え?何?」
「いいから。俺が「いいよ」って言うまで、中入ってきちゃダメだよ。」
「え、あ…うん。」

ガラッ―― ピシャッ――

「…。」


------


「…さ…さむい…。」

この状況は一体何だろうか。
部室の前で体を手で擦りながら寒いのを我慢している私。一方、部室の中に籠もったきり、一向に出てくる気配を見せない彼。
時間は、携帯の時計を見たら、さらに一時間が経過していた。そろそろ普通の家庭がご飯を食べ終わることだと思う。
寒さと空腹の限界を超えようとしていて、いらいらしてくる。

「もぉ…まだなのぉ…。」

彼は「入るな」と言ったけど、これだけ待たされれば「中を入るな」と言われても入りたくなる。それを考えると、『鶴の恩返し』のお爺さんとお婆さんが「見るな」と言われて、見たがるの気持ちが少しだけ分かる。
そして、気になることがもう一つ。部室には彼がいるはずなのに、電気の灯りがこの一時間の間点く気配がなかった。

(勇気…電気もつけないで部室で何してるんだろ…?)

もしかして、中で何かあったのではないだろうか。私のいらいらは段々不安に変わって言った。
私は「入るな」と言われたけど、自分が想像した最悪の未来像を打ち砕く為に、部室の扉を開けようとしていた。
すると…――

ガラッ――

「梓恩、ごめんね!大丈夫?」
「勇気…出てくるのが遅い!一時間近く待ったんだからね!」
「本当にごめん…。すっかり冷たくなっちゃったね…温めないと。」
「…中入っていいの?」
「その前に…。今日はその…楽しみ台無しにしてごめんね。」
「い、いいよ…!私こそ勇気の気持ちも知らないで、思いっきり叩いちゃってごめんね…!」
「…今日はもう終わっちゃうけど、でも、俺はこれからも梓恩と居たいって思うんだ…。だから、その…」
「私はずっと居るつもりだったよ?勇気が「嫌だ!」って言っても、離れてやらないんだから…。」
「梓恩…。ありがとう。」

文句を言ってしまったけど、彼に何もなくてよかったと内心思う。
扉が開いて彼が顔を出した瞬間、最悪の未来像が現実化しないでよかったと肩の力が抜けた。
だって、こんなに待たされても彼の笑顔一つで許してしまうぐらい、私は彼が大好きなのだから。
でも、さすがに…――

「じゃあ、そんな梓恩にはこれ付けてもらいたいんだけど…。」

フェイスタオルで目を隠せと言われた時は、どうしようか悩んだ。

「め…目隠し…?」
「大丈夫。部室の中に入るだけだから…。」

でも、彼はやっとできるというような笑顔をして私の目に長細く畳んだフェイスタオルをまいてきた。私に否定権というものはないらしい。
私の視界は真っ暗になり、「な、何にも見えないんだけど…ゆ、勇気…!」と手探りで彼を探す。
彼はすぐに私の両手をつかんで、「俺がしっかり手をつかんでるから、そのまま真っ直ぐ歩いて…。」と指示する。
私は彼に進行方向を委ねて恐る恐る前へ足を動かす。

「ここに立って。あっ、目隠しはとるけど目は瞑っててね。」
「う…うん…!」

動いたのは、ほんの数歩。けど、視界が見えなくなっただけで相当恐かった。
目隠しをとられて、瞼越しに部室を見ようとする。でも、当たり前だが見えなかった。

「――梓恩。目開けて…。」

彼の言葉で目を開くまでは。

「…!」

目の前に広がるその世界は、暗闇の中を赤、黄色、橙色――三つの色彩が織成す。
優しくて、温かくて、キラキラしている。

「凄い…!何これ…綺麗ッ…!」

部室がまるで別世界。本当にこれがあの男子の汗が充満する部室だったのかというから驚きである。というか、凄すぎる。
暗い部屋に何十本何百本も、机の上や足の踏み場がないぐらい床にポツンとある――魅力的に、人工的な電気の光なんかよりずっと綺麗な蝋燭の炎。

「蝋燭がこんなに綺麗だったなんて知らなかった…。」
「…今日は…大事な人と過ごす…大事な日だと思ったから…色々準備してたんだけど……どのタイミングでやるか決めてなくて…こんな形になっちゃったけど…」

そして、この時気づくのだった。
彼が一時間近くも電気をつけないでいたのは、目を暗闇になれさせる為に電気の灯りを消して、蝋燭一本一本に火を点けていたからだと。
そう思うと、彼は私なんかより今日と云う日を大事に思っていてくれてたのだと分かる。

「…覚えてる、梓恩。俺が…ここで梓恩に告白したの。」


「お、お、俺…五月雨さんのことが…す、す、す………――好きです!俺と付き合ってください!」


「忘れるはずないでしょ?あれが私達の始まりなんだから…。」
「…俺、梓恩と一緒で幸せだよ…!今日みたいに…誤解されたり、迷惑かけたりして…きっと梓恩に嫌な思いとか寂しい思いとかさせちゃうと思うんだ…。でも、これだけは梓恩にわかっててほしいんだ…。」

俺は梓恩の笑顔が好きだから、その笑顔をいつまでも守れる男になりたいって。

「…。」
「……あ…はは…な、慣れないことを言うのって…なんか恥ずかしいね…!」

彼の頬か真っ赤になっていて、女の私が言うのもなんだけど、えへへと笑う彼の顔はとても可愛かった。

「…勇気…大好き。」
「え、あ、し、梓恩…!?」
「ふふふ…これだけで済むとお思いかね?しばらくこのまま…ね!」
「……うん。」

嬉しくて抱きついた私に動揺している彼もとても可愛かった。そして、ずっと外にいた私にとって、彼の体はとても温かかった。
あがり症だけど一生懸命、真っ直ぐで…私を見る度に笑顔になってくれる――そんなところが彼を好きになってしまったツボ。
自分で恥ずかしい台詞言っておいて照れちゃってるのも、いきなりのことに動揺するのも、私が好きな彼である。
優しくて、温かくて、キラキラしている――まるでこの蝋燭の炎。

「梓恩、これからもよろしくね…。」
「うん…。」

待ち望んだ日。互いの気持ちを確かめ合えた――人生最高の日。
でも、そんな最高の日は今日だけではないと感じる。
彼がいる限り、彼の炎がある限り、私は彼の前では笑顔のままでいられる。
そう思うんだ。絶対。
だから、どうかその優しい炎を絶やさないでね。



END


---------

どうも、はじめまして。五月雨梓恩です。
こんな時期に新しく「イナズマイレブン」を始めました。こんな時期ってどんな時期でしょうね…。
で。今回はこのHPを始めた切っ掛けでもある立向居君夢を書きました。
立向居君…萌ですね。いつか虐めたい…腐腐。←Σ(OдO)

…このままじゃ、変態扱いされてしまいますね。
閲覧者が一人でも見てくれると、私は嬉しいです。
こんな変な管理人ですが、これからも宜しく御願いします。

(2009/12/23)


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