「蝋燭を売ってるの?」
今日も私は街で声をかけられる。
蝋燭。一個5000円。
「5000円だよ」
そうして私は蝋燭が消える間、誰かのものになる。
つかの間のリャナンシー。
「ねぇ。キミだよね?蝋燭売りの少女って」
今日の“客”は黒髪黒づくめの男だった。
青空から話しかけられたような声。眉目秀麗。冷たい瞳。観察されるような感覚。
客を選ぶつもりはないけれど、私はなんか居心地が悪くなって、路地裏の冷たい地面の上で身動ぎした。
「蝋燭。5000円」
それだけ言って私は体育座りのまま袋に入った大量の蝋燭を指差した。
「有名だよ。キミ」
「蝋燭。5000円」
「蝋燭を買ったらその蝋燭が消える間、なんでも言うこと聞いてくれるって」
「蝋燭。5000円」
「蝋燭の火がついている間は、キミは奴隷になってくれるわけだ。
ねぇ。なんでもしてくれるって本当?」
「……」
「例えばえろいこととか」
「……そーいうこと。望む人もいる」
望まれれば、私は応える。
「できないこともあるけど、細かい設定、聞きたい?
おにーさんも物好きだね。えろいことしたいの?」
「べっつに?」
こーいうこと言ったら大抵は下卑た目で私を見るか嫌悪の目で私を見るかどちらかなのに。おにーさんは興味深げに私を見るだけだった。
「なんでこんなことしてるの?蝋燭の火が消えるまではその人の奴隷。ってやつ」
「効率的に金が稼げるからだよ。
蝋燭については……昔、ちらっと少女マンガで見た設定。めるへんだって笑ってもいーよ」
表情を変えずに私が言うと男の人はにっこりと笑った。
「あ。俺の名前は折原臨也って言うんだ」
「興味ないね。客の名前は覚えないようにしてるんだ」
「俺は客じゃないよ?」
「ふーん。じゃ、ろーそく買わないんだね?冷やかしなら帰ってくれないかな?」
「蝋燭は買うよ」
「じゃ客じゃないの。何個ほしいの?」
「全部」
……は?
「全部?」
「うん。そこの袋のも。家にある在庫も。これから作る分も全部」
「……」
「つまりキミは俺だけの奴隷になるわけだ」
「……馬鹿げてる……!」
「どうとでも?」
折原臨也はふっと笑うと、絶句する私の前で一つの蝋燭に火をつけた。
「今から。これから。キミは俺の奴隷」
ラブソングの始まりだ。と折原臨也はわけの分からないことを言って、固まる私の手を取った。
扱いベタなラブソング
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