思えば凉梨は不思議な奴だった。
俺がいくら標識を振り回そうが、コンビニのごみ箱を投げようが、臨也を殺そうとしようが、にこにこ笑って近づいてくる。
性格が良い、とはまた違う。
危機管理能力がない、と俺はあえてマイナスの言葉で表現したい。
凉梨の危機管理能力のなさが最も露呈するのは、臨也と一緒にいるときだと思う。
ある日、俺は凉梨に聞いてみた。
なんでお前は臨也と一緒にいるんだ?
ここで『実は折原臨也を嵌めるためなんです』とか『実の妹を殺されてその復讐のためなんです』と凉梨が答えていたら、俺は心の底から納得しただろう。
『え?師匠と一緒にいる理由ですか?』
なぜか嬉しそうに笑って凉梨は言った。
『師匠には秘密ですよ?こっそり達成したい目標ですから』
凉梨は話した。何の裏もない笑顔で。臨也と一緒にいる理由を。
『師匠に人並みの幸せを』
それが凉梨の目的。
友達でもなくて好きでもなくてでも幸せにしてあげたい。
今の臨也は不幸じゃない。
自ら望んで今の状況にいるし、生活にも満足してるし、貧乏なわけでもないし、嫌われて疎まれて憎まれているが自分でそれを受け入れているし。
不幸、じゃない。
だが幸せかと聞かれたらそれは疑問だ。
幸せなんて自分が決めるものだから、今に満足している臨也はそれなりな環境なのだろうが、絶対に臨也は幸せじゃない。
本人が認めないでいようが、臨也は絶対に不幸せだ。
俺や周りは「臨也って不幸なの?へーそりゃ良かった」と興味なさげに吐き捨てるところだが(かわいそうだとは思わない。それくらいうざいことをアイツはやっている)凉梨は違うらしい。
本気で、臨也を幸せにしようと思っている。
今のところその方法が分からないから凉梨は臨也のそばにいるのだ。
「アイツもよくやるよなぁ……」
呆れ顔で俺はつぶやいて、タバコをもみ消した。
さて、仕事に戻るか。
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