きっかけは、矢霧製薬のパーティーだった。

(はじめましてだ。矢霧波江くん)

そこで声をかけてきたのが素坂迷理だった。

(私の名前は素坂迷理。SUSAKA・MEIRIだ。よろしく仲良くしてくれると助かる)

初めて会ったときだから、迷理の口調は固いものだったが、その言葉の裏から、“どうしようもない噛み合わなさ”というのをひしひしと感じとった。

烏に炭を塗ったかのようなつやつやの髪の毛。
絵の具をどろどろに煮詰めたような黒目。

顔は眼光鋭く、へらへらした外見からは想像できないくらい厳しい目でこちらを見てくる。

怖かった。

切りっぱなしの髪の毛と相まって、鷹のようなイメージを植え付けられた。

――存在自体で他を圧倒する存在がいる。

折原臨也にも平和島静雄にも会ってなかった私にとって、それは衝撃の出会いだった。

(ところで波江ちゃん)

はい。と答えた気がする。

よく覚えていない。こんなに素坂迷理については覚えているのに、まるで夢の中のように私の存在は曖昧だった。

(君は死にたいと思ったことはある?)

そのとき頭に浮かんだのは愛しい自分の弟。

死にたくない。そう答えた気がする。

(それは不幸だね)

不幸?私には誠二がいる。不幸じゃない。

(私は幸せだよ。私にはたくさんの研究材料がいる。みんな良い子さ。私を慕ってくれる。
でもそれを表に出してくれないんだ。好きなら好きって言えばいいのに皆、遠慮がちに私を見る。
え?それは私が怖いから?違うよ。
怖がっててもね。“心の中じゃ”みんな私が好きなのさ。
でも私はみんなが、世間体なんか気にせず、我を忘れるくらい私を狂おしく愛してほしいと思っている。
そうさ。頭の回転が早いね。波江ちゃん。

私が死んだとき、私を好きな彼らは、彼女らは、悲しんでくれるだろう。

あるものは泣くだろう。
あるものは私の死体にすがりつくかもしれない。
泣いて私を求めてくれる。

狂おしい私への愛情は、私がいなくなることで、たがが外れて溢れ出すんだ)

そこで素坂迷理はカチン、と持っていたシャンパングラスを鳴らした。

(生きていたときに愛された人間は)
(死すらも幸せになるんだよ)



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あきゅろす。
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