『すみません』と、凉梨はよく言う。
誰に対してではない。言うなれば世界に対して。
被害妄想と言う言葉があるが、凉梨の場合は“加害妄想”なのである。
加害していないか。妄想する。
自分の一挙一動が、誰かの怒りに触れると思っているのだ。
腰が低いと言えば聞こえは良いが、つまり凉梨は自分は人間的に低い人間だと思いこみ。自分は社会的に下の人間だと信じている。
凉梨は自分が嫌いだと言うつもりはない。
それは俺や、薫を否定することになるから。むしろ凉梨は自分が大切だ。
でも、それと同時に自分の“行動”が嫌いだ。
何をしても、満足できない行動しかできない自分が嫌なのだ。
凉梨は自分が嫌いではないが。自分が認められない。
そんな凉梨にとって、友達というのは大変、辛いものがある。
友達を好きになるのはいいが、なんと言っても加害妄想と自分不信である。
友達に迷惑をかけていないか、心配で心臓が死にそうになる。
人間関係を形成するに当たって、人間的に強くない凉梨は、かなりのストレスにさらされる。
しかし、ここで誤解してはいけないのが、凉梨は人間関係が嫌いではないということだ。
むしろ好き。
難しい仕事にやりがいを感じるのと同じように、凉梨は人間関係に生きがいを感じるのだ。
友達が増えれば幸せだし、
友達が笑ってくれればこちらも幸せになる。
生きがいを感じるというより、人間関係が生きがいなのだ。
だから凉梨は人間関係から逃げようとしない。
どこぞの情報屋ではないが、凉梨は人間関係が趣味みたいなところがあるのだ。
下手の横好き、というか。ハイリスクハイリターンというか。
だからというわけではないが凉梨にとって“友達じゃない人間”はかなりの恐怖に値する。
ストレスになる。
そんな、未だ友達じゃない矢霧波江とある極秘任務に当たる凉梨の心境は……尋常じゃなく、下がっていた。
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