『あの子は馬鹿なの』
夕飯時。
珍しく私、つまり棚戸薫が外に出ている。
私は自他共に認める引きこもりなのでこうやって会話できることは偶然か奇跡に近い。
「自分の妹をそんな風に言うもんじゃないよ」
思ってもいないことを口にする折原臨也に私は鼻で笑う。
私が自他共に認める引きこもりなら凉梨は自他共に認める馬鹿だ。
誰とでも友達になろうとするし、誰のことも信用するし。
「なにが言いたいの?」
『凉梨の一番の馬鹿なところは貴方の元にいるところよ』
何が言いたいかって言うと、折原臨也への遠回りな牽制だ。
『また何かするつもりなら凉梨を巻き込むのは止めて頂戴』
「俺はなにも企んでないよ」
『運び屋が折原臨也に不穏な動きがあるって言っていたわ』
「……」
くすくすと折原臨也は笑った。反省の色もない。
「口が軽いなぁ運び屋は。いや。この場合PDAが軽いのかな?」
『……おもしろくないわよ』
ばっさりと切り捨てて、私は折原臨也の顔を見た。
にやにや笑っている。
私にはいつもこんな表情。
刃にはいつも呆れ顔。
こいつが純粋な笑顔を見せるのは凉梨だけ。
それも本当の笑顔かは分からないけれど。
『……竜ヶ峰帝人』
私は話を進めることにした。
『私も会ったわ』
「ふうん」
興味があるの?
イラッとするが顔には出さない。
「どうだった?」
『普遍的な通常の通り一遍の普通というレッテルを貼ることすら躊躇しそうなそこらへんにごまんといるむしろ今では逆にいなさそうな一般人に見えたわ』
折原臨也が爆笑した。
しばらく腹をよじらせて笑っている。
ムカつく。
『なによ』
「わかってないな。薫ちゃんは」
折原臨也は私に向き直ると、いやらしい、馬鹿にしたような笑みで「わかってない」と言った。
「ああいうのが一番化けるんじゃないか」
『……』
そんな会話をしたのがつい先日。
あの後学校で凉梨の中からもう一度竜ヶ峰帝人を見た。
そんな風には、
(見えないわ)
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