池袋から新宿に帰って(僕の家は池袋にあるのに。いつの間にか師匠のところに「帰る」という表現が当たり前になってしまいました。僕に帰るところなんかないのに)臨也さん――師匠の部屋に入るとそこはもぬけの殻でした。

とうとう静雄さんに殺されたんですね!と歓喜したら今日は自殺オフの日だったと一人ぬか喜びしたことに沈んでしまいました。

帰ってきたらお腹すいてるだろうなぁと思って冷蔵庫の中を物色します。芽の生えた玉ねぎが出てきたので容赦なくゴミ箱へ。

他にも廃棄一歩手前の野菜が出てきたので全部ざく切りにして鍋にぶちこんでポトフを作ります。コンソメと塩コショウを入れて味を整えます。

コンソメって考えた人は偉大ですよねぇ……と思いながら野菜を煮込んでいると鍵を開ける音がしました。

師匠が帰ってきた。

『おかえりなさいです』
「ただいま」

二人でソファに座ります。その前に鍋ごとポトフを持っていきました。

『どうぞ。作っておきました』
「…………肉じゃが、肉抜き?」
『なんでですか』
「だって……じゃがいも多……っ」
『ポトフですよポトフ。師匠がじゃがいもを冷蔵庫に大量に入れておくからじゃがいもが多くなっちゃったんです』
「理不尽だ……」

と言いつつ箸を取る師匠。

「ところで凉梨」
『なんでしょう?』
「凉梨は死後の世界って信じる?」
『うーん……』

僕もポトフを皿にもって食べながら考えます。

『難しいですね』
「悩むことかな?」
『悩みますよ』
「で?」
『存在する人には存在するし、存在しない人には存在しないんじゃないですか?』
「そうかな……死後の世界を信じるってこと?」
『違いますよ』

セロリを食べながら僕は言います。

『例えば、まず“生きている”と“死んでいる”の定義ってなんでしょうね』
「……」
『この場合心臓が動いているとかそんなんじゃないですよ。心臓が動いていても誰からも“生きている”と認識されなきゃその人は生きていることにはなりません。
要は認識の問題ですね。僕も……』

部屋に静かに僕の声が染み入ります。

『僕も、刃お兄ちゃんや薫お姉ちゃん。それに、師匠と会う前は、生きていながらに生きていなかった』

死んで、いました。と僕は言いました。

『だから死んだ後の世界はないけど……、死んでいるときに知覚できる世界はあるっていうか。死んだ後は“無”だけど生きながら死んだ人がいる世界ってのはあるんですよ』
「ふーん」

ポトフを食べつつ師匠はおざなりな感じにうなずきました。興味がないのでしょうか。

まぁ僕も深く考えているわけじゃないですけど。

こういうのはお姉ちゃんやお兄ちゃんの専売特許なのですから。



[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!