結局、沙樹ちゃんは足を折られ、紀田くんは沙樹ちゃんと別れ、黄巾族を止めました。

直接は関わらなかったとはいえ(関われなかったと言うべきか)僕は気が重かったのです。

『なんで紀田くんの電話に出なかったんですか』という僕に、師匠は悪びれる風もなく「どっかの馬鹿弟子を助けるのに忙しかったからね」と言いやがりました。

ここで落ち込んだら、師匠のおもうつぼな気がしたので、僕はなるべく沈まないで沙樹ちゃんに会いに行こうと決意。

そんなバカバカしいささやかな反抗も、目覚めた沙樹ちゃんに会った途端ふっ飛びました。


『うっ……ううう……さ、沙樹ちゃん……』


立ったままベッド脇で泣く僕。


『痛かった、ですよね。
ごめんなさい……。沙樹ちゃん……』


沙樹ちゃん、沙樹ちゃんと壊れたラジオのように繰り返す僕の頭に、沙樹ちゃんはそっと手を置きました。


「平気だよ、凉梨ちゃん。
私は平気」


沙樹ちゃんは静かに窓を見ました。


「辛いのは正臣だから」


窓からは紀田くんの小さな影が見えました。



『……紀田くん、病室に来ないんですか』
「うん、しょうがないよね」


ほんとは、紀田くんに助けてもらいたかったんじゃないですか?

という言葉は殺した。

聞いてどうしようというのでしょう。

助けられなかった僕が。


病室を出たら、師匠が待っていました。


『師匠、すみませんでした』
「なにが?」


言わすなよ。


『無謀にも沙樹ちゃんを助けに行ったことは謝りません』
「じゃあ何に謝ってるの?」
『師匠の手を煩わせました。
助けに行くなら僕はひとりでやりきるべきでした』


僕は頭を下げる。


『責任も持てずに突っ走ったこと、謝ります』


師匠は、下げられた頭をぽんと叩き、いつも通り笑いました。


『あと、あの……』
「あの?」
『一千万、燃やしましたよね?』
「ああ、燃やしたね」
『……ぜーんぶ本物の万札だったんですよね?』
「うん」
『馬鹿ですか!!!』


僕は本気で怒鳴った。


『燃やすだけなら、全部新聞紙で良かったじゃないですか!!
なんでわざわざ万札!?
演技過剰すぎるんですよ、師匠は!!』
「あれは相手を油断させるためにさぁ……それに」


別に一千万、ムダにしてないよ。
と師匠はあっさり言いました。


「燃えかすがあれば、お金って再発行してもらえるんだよ?」
『は?
ってことは一千万戻ってくる……んですか?』
「銀行で燃えかすの材質と量を見てもらえば、一千万戻ってくるよ」

ちゃんと再発行してもらったから、と笑う師匠に僕は安心と疲労感にうなだれるしかないのでした。

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