「というわけで、新羅、セルティに会わせて」
「帰ってくれ」


無情にも目の前で閉められそうになったドアを師匠は隙間に手を挟んで止めました。


「久しぶりに友達が会いに来たってのに何その態度。
用件くらい聞けよ」
「嫌な予感しかしないんだよ!
その子、異形を喰らう鬼なんだろ?
なんでセルティっていう子兎に鬼を会わせなきゃいけないわけ?
あ、セルティが子兎ってなんか可愛い、」
「いいから開けろ変態医者!!
このままじゃ凉梨の命が危ないんだよ?」
「だからってセルティを犠牲にするわけにいかないだろ」
「ついに本性表したな悪魔医師」
「そっちこそ。悪徳情報屋」


セルティが後ろからにらみ合うふたりを引き離してPDAを見せた。


「新羅!とりあえず話だけでも聞こう」
「セルティが言うなら!」


新羅さんが180度態度を変えて僕らを迎え入れました。

僕は事情を説明します。


『サイケちゃんは異形ならなんでも食べられるんです。
だから……その……』


僕は意を決して、頭を下げました。


『セルティの“影”を食べさせてください!!』


――――――


――数分後。

暴れる新羅さんをセルティが押さえつけて、サイケちゃんは久しぶりの食事にありつけたのでした。

セルティの首から出る影をきゅいきゅいと食べるサイケちゃん。

異様すぎる光景でした。


「お腹がすいたらいつでも来てくれ。
私の影くらいだったら食べさせるから」
『本当にありがとうございます!』
「いいんだ。気にしないで」


僕は低頭でお礼を言う。

僕が食べられたくないからセルティ(の影)を食べさせるというのは、なんだかセルティを生け贄にしたみたいで気が重い。


「気になったんだが、サイケちゃんはお腹がすくと命にかわるのか?」
『ええ。
食べたものがそのまま生命力に直結するので』
「お腹すきすぎたら自分食べるんだよー」


どうやらお腹いっぱいになったのか、無心で影を貪っていたサイケちゃんが顔を上げた。


「前に死にそうになったときは自分の感情を食べちゃった」
「感情?」
「ほら。
サイケってなんでも食べるから。
感情とか名前とか異形と名の付くものならなんでも食べれるの」
「感情を食べたってことは――」
『サイケちゃんに感情はありませんよ』
「おいしくなかったけど、空腹は最高のソースだよね!」
「サイケ……!」


どこまでも天真爛漫なサイケの手を、セルティががしっと握りました。


「私は影くらいしか食べさせられないけど、お腹がすいたらいつでも言ってくれ!」
「ありがとーセルティ」




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あきゅろす。
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