「サイケはね。異形を喰らう吸血鬼なんだよ」
動けなくなるまで殴られた罪歌と、叩き折られた刃物。
三分の一はサイケが“食った”とはいえ、平和島静雄の力を、まざまざと見せつける絶景の中、二人は座っていた。
「さっきのはどういうことだ説明しろ」という俺の言葉に、言葉を喋れるようになったサイケは水のように流れるように語る。
「きゅいー……サイケが鬼の子だっていうのは良いよね?」
「全然良くねーよ。
なんだよ鬼って」
「うーんとね。
サイケは、うー、吸血鬼、みたいなもの」
「吸血鬼?」
「異形を喰う鬼」
サイケはぴょん、とネコ耳を立てる。
「正確には異形“しか”食えない、鬼。
異形をエネルギーとして接種して、それで生きてるの。
吸血鬼が血しか吸えない鬼なら、サイケは異形を喰う鬼なんだよ。
その代わり人間が一般的に食べるもの……肉とか魚じゃ生命が維持できないから、今まで「きゅいー」しか喋れなかったの」
「エネルギー不足だったってことか?」
「うん!
だから今は、“お腹いっぱい”罪歌を食べて、喋れるようになったんだよ!」
どうやら一般的な人間の食事とは違って、サイケの食事はもろに生命エネルギーに直結してるらしかった。
だから、エネルギー不足になると感情や活動に齟齬がでる。
つまり食事をしないと喋れなくなったり感情が乏しくなったりするわけだ。
今のサイケは生き生きしていて、無表情だった前とは違って笑顔が多い。
まるで子どものようだ。
「きゅい?」
「サイケ、じゃあお前に“食べられた”罪歌が普通の人間に戻ったのは――」
「うん。
罪歌がサイケに食べられたから、吸収されて消えちゃったの」
「イリヤさんがお前を池袋に連れてきた意味が分かったよ。
異形相手ならほとんど最強じゃねーか、その能力」
「異形なら、ね!
サイケは強いからー」
にっこり、とサイケは笑う。
無邪気なその表情。
「罪歌が数で来ても、イリヤさんとサイケがいたら、ほとんど無敵だよ!
イリヤさんは臨也くんの助っ人で来たみたいだけど、ホントは臨也くんの手を借りなくても良かったのに!」
「俺も助かったよ。ありがとな」
「ううん!
シズちゃんつよいから、きっとサイケがいなくても罪歌たおしちゃってると思うよ?
戦うシズちゃん、かっこよかったなぁ。きゅいってなっちゃったよ」
きらきら光る目を向けるサイケ。
さーて、と俺は立ち上がった。
「帰るか。サイケ」
「うんっ!」
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