「攻撃しないのなら、私からいきますよ」
『――!?』

一瞬反応が遅れた。

突き出された拳をなんとか避けると、後ろで爆発音。

有紀の方を見ると、拳が腕ごとコンクリートに埋まっていた。

『やっべぇ!』

――最終傑作!

そりゃ殺し屋としてある程度の身体の強化はされてるだろうと思ってたけど。

こんなもん食らったらガードした腕ごと“ぶちまけ”られちまう!

『反則じゃねーか!』

工事現場のような破壊音。

まぁ、コンクリが破壊されてるんだから、そのままの比喩っちゃそのままの比喩だな。

『――はぁっ……ぜえっ……はぁ』
「息が切れてきましたよ。最高傑作さん」
『そっちは息切れすらしてねーのな……最終傑作様』
「殺し屋ですから」

無表情で言う。

そういやこいつが笑ったとこ、一度も見たことない。

(……改造されてんのは身体だけじゃないってことね……)

息切れしてもファイティングポーズは崩さず、俺は水面野有紀を睨み付ける。

すでに少量ではない血液が流れ、擦り傷切り傷ふくめ満身創痍だ。

(あせるんじゃないわよ。刃)

薫ちゃんが中から話しかけてくる。

(あせらないわけにはいかないですよ、お姉ちゃん。
お兄ちゃんだって、傷だらけですよ――!)
(……)

薫ちゃんがつらそうな顔で押し黙る。

(ちッくしょう――分かってんだよ……!)

俺がここでこいつを殺らないと、たぶん静雄と杏里に被害がおよぶ。

だが罪歌がここから離れたのは10数分前だ。

もしかすると、もう。

(それでも、もう手遅れだなんて考えたくねーんだよ)

考えろ。こいつを打破する方法。

「私を倒そうとしても無駄ですよ」
『へえ』
「私は、改造されてますから」

相変わらずの無表情で、悲しそうでもなく嬉しそうでもなく。

「無痛症、というのをご存知ですか」
『……痛みを感じない病気のことだろ』
「私、それなんです」
『……は?』

だから、痛みを感じないんです。痛覚がないんです――……。

と水面野有紀は自分の傷を指差した。

痛みが、ない?

だったら、どれだけ傷つけても有紀には効かないってことじゃないか。

“痛みがない”んだから、

「だから私は気絶なんかしない。
動く限り、動かなくなっても、私は敵に意識のあるまま喰らいつく」

だからチートすぎだって。



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