その言葉の意味が分からないと言ったように、有紀はこちらを睨んだ。
「なにを――なにをいきなり、諦めて――激昂しているのですか!貴方は!」
『なァにキレてんだって?
決まってんだろ。腹がたったんだよ!』
有紀にはわかんねぇだろうな。
俺がなにに腹が立ってんのか。
『てめぇらが俺の友達に手ぇ出すからだろうが!!』
有紀が口をつぐむ。
まぁ。激昂した理由はそれなのだが。
諦めそうになった理由はそうじゃない。
(一瞬俺は、)
(臨也に見捨てられたと思ったんだ)
だってあいつが、あいつが贄川春奈の家を紹介して。
そこにちょうどよく水面野有紀と罪歌がいたから。
(臨也に騙されたと思って――)
“傷ついてしまった”。
(だから。諦めそうになった)
それが腹がたつ。
(なんだよ――それじゃあまるで!)
俺がちょっとでも――臨也を信頼してたってことじゃないか。
信用でなく、信頼。
『馬鹿馬鹿馬鹿ぁっ!!』
叫んであまりの自己嫌悪にうずくまる俺に、有紀はどうしたらいいか分からないと思っているらしい。
攻撃すら仕掛けてこない。
『信頼なんて――!
友達に手を出すなとかっ!
そんなのは凉梨の役割じゃないか!
凉梨の担当じゃないか!
お、俺はそんなの担当じゃないってか!キャラじゃないってか!』
「だから……なにを言っているんですか、棚戸刃!」
『やめてくれよやめてくれよ……!
気持ち悪いよ。
ビニール手袋でクラゲ捕まえるくらい気持ち悪いよ。
俺が他人を慮るとか……信じるとか……!
まして傷つくなんて、』
「黙りなさい!」
そこで初めて――視界には入っていたはずなのに初めて、俺は水面野有紀を認識した。
『ああ。なんだ。いたの?』
「――っ」
水面野有紀のプロフィール。
ビビりで、小心者で、怖がりで、泣き虫のくせに、
恐い者知らず。
だから。有紀は大型ナイフを取り出すと、罪歌と共に俺にかかってきた。
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