『ふんふふんふーん』

頭の上で鼻歌しながらハサミを振り回すの止めてほしい。

『なに言ってんですか。
師匠が髪切ってほしいって頼んだから僕が髪を切ってあげてるんでしょう。
なんで美容院に行かないんですか?』
「他人に髪を触られるとか我慢ならないし」

つまりは凉梨なら別に他人じゃないしゴニョゴニョ……と言うと『は?何か言いましたか師匠』と凉梨にはイラつかれるし「臨也くんキモい……」とイリヤさんには冷たい目で見られるし「きゅいー」とエリコちゃんは……まぁいつも通り。

凉梨は上下左右にハサミを回転させて昔のガンマンのように人差し指でくるりとハサミを回すと、しゃきん!と懐にハサミをしまった。

『切りましたよー』
「ありがと」
『しかし師匠。伸ばすならいっそのこと伸ばして二つ結いにでもしたらどうですか?
みなさん“甘楽ちゃん”って呼んでくれるかもしれませんよ』

皮肉だらけの冷めた凉梨の言葉。

凉梨は俺が甘楽だったことを秘密にしていたことに怒っているのだ。

始めは羞恥と戸惑いだったが、やり場のない思いは怒りにシフトしたらしい。

「凉梨ちゃん……。イリヤの髪も伸びてるんだけど……」
『……』

無視。

少しスキンシップがうっとうしい母親とシカト決め込む娘というのは年頃の家族にとっては正しい姿かもしれない。

しかし。その娘は殺し屋だし。
その母親は囚人だ。

髪の毛を片付けながら凉梨はイリヤさんに向かった。

こうして面と話が出来るようになっただけで、凉梨にとってはものすごい進歩だ。

『そろそろ罪歌の話をしませんか。お母さん』
「イリヤは斬り裂き魔なんて知らないもの……」



知らない?

「イリヤは罪歌の本体を知ってるから……彼女がこんなことする人間じゃないって知ってるの……」
「斬り裂き魔を知ってるってことですか?」
「斬り裂き魔は知らない……罪歌は知ってる……」
「?」

……訳が分からない。






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