「迷理さんはね、貴方たちを折原臨也の元から引き離せるのなら“生死は問わない”と言いました」
殺気全開の顔で水面野有紀ちゃんは僕らに近づきます。
その手に持っているのはリアルブラックマチェット。
まるで日本刀のような長さの大型ナイフです。
『大型ナイフぅ?はぁ?そんなもんで俺を殺せると思ってんの?』
「殺せます。なぜなら貴方がたは欠陥品で、私は迷理さんの傑作だから」
『――馬鹿にしてくれてんじゃねぇか』
刃くんは、青筋を浮かべながら歯をむきだしにして凶暴に笑います。
『水面野ちゃんよォ。
俺たちと会ったとき怖くて震えてたのは誰だっけ?
しいたけが食べられずにフォーク握って半べそかいてたのは?
いっつも訓練で負けてうずくまってたのは?
ヤンデレの話聞いて“自分も妹に殺されたらどうしよう”って言ってたのは?
妹いねえくせに』
「だっ、黙りなさい!」
慌てて顔を真っ赤にして叫ぶ有紀ちゃんに刃くんは勝ち誇った表情で、『弱い犬ほど良く吠えるよな?』とにやにや笑いながら言いました。
刃くん、それ完璧にいじめっ子ですよ……。
「今はそんなこと関係ないでしょう!」
『じゃあ何なら関係あるんだよ』
「棚戸イリヤもサイケデリックも折原臨也もいない貴方など取るに足らないということです!」
『ふぅん?』
その瞬間、刃くんは一瞬で有紀ちゃんの前まで跳躍しました。
地面に着地して背の高い有紀ちゃんを下から猫のように見上げます。
有紀ちゃんが怯んだ。その間、約0.2秒。
「――!」
まるで首ごと刈るような上段回し蹴りが有紀ちゃんの頭にぶちこまれた。
「この――っ!!」
すんでのところで有紀ちゃんは避けて、しかし避けきれなかったブーツの先が有紀ちゃんのおでこに当たりました。
衝撃で、有紀ちゃんが後ろに倒れます。
もちろん受け身はとったのですぐに起き上がりました。
遅れて、有紀ちゃんのおでこから――浅いと言えない傷から――血が流れました。
『白い肌。蜂蜜色の髪』
刃くんは血を払うように足をぶらぶらさせながら、からかうように笑いました。
『なぁ、ずいぶんと血の色が映えるじゃねーか』
悪くねえぜ?
刃くんはずいぶんと、“取るに足らない”という言葉が気に入らなかったみたいです。
大人気なく(まぁ水面野有紀ちゃんの方が年上ですが)むきになったみたいですね……。
なにも“水面野有紀ちゃん程度”に本気になることないのに。
『いや……おま、俺よりひどいこと言ってるからな?』
刃くんがちょっとヒイたように言ってきました。なにがでしょう?僕、何か言いましたか?
「……貴方がたは、最強じゃありません」
そのとき有紀ちゃんが不思議な言葉を発しました。
「今は負けても、貴方がたはいずれ負けるんです」
『ああ?かっちーん。ムカついたぜ』
その後マジぎれした刃くんから必死に有紀ちゃんは逃げて、帰ったのでした。
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